最強の武器は情報 それはよくわかった。しかし、無理 それでも・・・無理だ
「佐藤はもうこのフロアまで来ているわ」
女は縄をほどいた後言った。
「わかった。言う通りにしよう。奴を倒してくるから銃を貸せ」
奴を倒したらお前もだ。直貴はそう思っていた。
「馬鹿言わないで、あたしとあんたの間に信用は無いって言ったでしょ。銃を貸す訳無いじゃない。」
女の返答に直貴も言い返した。
「馬鹿言ってるのはどっちだ?それじゃどうやって佐藤を倒すんだよ?」
「作戦は用意してあげる。後は自力でやるのよ。そうね、そこにあるモップの柄なんかが使えるんじゃないかしら?」
女は平然と返してきた。
「だから、馬鹿言ってんじゃねぇ!!!相手は銃を持ってんだよ!!!そんな棒きれ一本でどう戦えってんだ!!!冗談じゃねぇ!!!銃を貸せ!!!それ以外に佐藤を倒す方法はねぇ!!」
直貴は怒って言い返した。
「だから、作戦は用意してあげるって言ってるでしょ。まず、この部屋を出てから廊下を右に向かう。突き当たりの角で身を潜めて待つ。佐藤は銃を構えながらゆっくりと歩いているわ。佐藤が近づいてきたらまずはモップで奴の右手を叩き落とす。銃が手から離れたらもうこっちのもんよ。次は逃げられないように足を叩く。体勢を崩して転んだら上から喉を一突き。どう?相手の位置を正確に知っているのはこっちだけ。情報さえあれば銃なんか恐れるに足らずよ」
「口で言うのは簡単だ!!!そんなにうまいこと行く訳ねぇだろ!!!おとなしく銃を・・・」
つかみかかろうとした瞬間、さっと身をかわされて距離を取られた。そして、銃を構えられた。
「それじゃ、ここで死ぬのとどっちがいい?」
素早い身のこなしだ。やはり、こいつ只者じゃないのか?
「・・・わかった。やってやろうじゃねぇか」
直貴はうなずいた。
「大丈夫、佐藤筑紫は中肉中背の中年男性。過去にスポーツ等で目立った経歴は無い。あなたは高校時代ラグビー選手。銃さえ叩き落とせれば肉弾戦ではまず負けることはないわ」
「・・・そんなことまで解るのか?」
「このゲームの参加者の経歴も全てデータとして打ち込まれているわ。大丈夫、これらのデータから導き出した勝算のある作戦。あなたは負けないわ」
・・・直貴はモップをつかむと静かに廊下へ出た。
嘘だ。これは作戦なんて大げさなもんじゃない。誰でも思い付く単純な賭けだ。こんなことやってたら命がいくつあっても足りない。
直貴は速やかに指示のあった角へ向うと身を潜めた。
だが、今の俺は確かにこのゲーム中で最もザコ、そこまで落ちちまった以上はもはや危ない橋の一つ二つ渡れないようじゃ、もう上には上がれない。
この橋、渡る。渡ればいいんだろ!