鉄則 敵を見たら殺せ 否、敵を見たら騙して使え
この部屋のパソコンはこのゲームに必要なあらゆる情報が見られる。しかし、この部屋の外へ出てしまったら、パソコンの情報を見ることはできない。つまり、この部屋から遠くへ行くということは情報を捨てるということ。情報を手放したくないが故に、この部屋から遠くへ行けなくなってしまった。何も知らなければ、何処へでも行けた。しかし、知ってしまった以上はここから離れられない。ここにある情報はそれほどに大きい。
「細かい作戦は後で。まずはあなたが使える人間かどうか確かめさせてもらうわ。佐藤筑紫とかいう男が遠藤隆志を殺した後、あなたの血痕をたどってもうじきここまで来るわ。まずはあなたがそいつを倒して、銃を奪う。それができたら、あなたを使える人間と認める。傷の手当てもしてあげるし、食料も分けてあげるわ。どう?悪くない話でしょ」
女は変わらず早口で進める。
「え、遠藤は・・・やられちまったのか!あいつに?」
俺は思わず聞き返した。
「ええ、このパソコンでゲーム参加者の生死も全て解るわ。別にどうでもいいでしょ?あんたを殺そうとした男が死んだだけ。佐藤は後三分程でこのフロアまで上がってくるわ」
女はそう言って俺の縄をほどきはじめた。
「しかし、ずいぶんと自信あるんだな。俺の縄をほどいたら俺は本当にお前を殺すかもしれないぜ。俺はもう誰も信用しない」
直貴のそのせりふに対して女は全く動じずに答えた。
「あなたはあたしを殺せない。あなたの金は今はあたしが隠してるのよ。金の場所がわからないうちは殺せない。それに、あなたとあたしの間に信用なんて必要ない。必要なのは利害の一致。あなたは名案が浮かばずに途方にくれていた。あたしは、名案はあるけど手駒が欲しかった。利害が一致している間は少なくともこの関係は崩れない。及川を殺したら、あたしにとってあなたは用済み、その時は遠慮なくあなたも殺す。それと・・・」
縄をほどく手を一瞬休めると女は銃を握った。そして再び直貴の頬をぶん殴った。そして、直貴の眉間に銃口を突きつけて言った。
「あんたは今、このゲーム中で最もザコだって言ったろ!あたしを殺すだ?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ!!!少なくともこの縄がほどけるまでは、あんたの命はあたしが握ってんだ!!!生きていたいんなら縄をほどいてもらうにはどうしたらいいか考えな!!そのクソちっぽけな脳みそでなぁ!!!」
口の中一杯に広がる鉄の味をかみ締めながら直貴は思った。
悔しい。悔しいが、事実か。悔しいがこの女の言うことをひとまず聞いて、体制を立て直す。まずは、銃が必要だ。そして、必ず金を取り戻す。このゲームのルールがようやく解ってきた。銃を渡されたせいで勘違いしていた。敵を見たら即殺すべきだと。しかし、そうじゃないのかもしれない。このゲームはたくさん殺した奴が勝ちだとか、最後の一人になるまで戦えとかそんなルールは無い。一人も殺さなくたって金さえ持っていれば勝ちなんだ。信用できない奴を仲間にするのは得策ではないという考えも間違い。この状況で信用できる仲間なんてそもそもいるはずが無い。信用できなくても仲間にしていいんだ。仲間にして、騙せばいい。危険なことは全てそいつを騙してやらせればいい。それが、このゲームの必勝法なんだろ。見てろよ、次は俺が騙す番だ。




