始まる・・・
補足ルールとして、まず開始から三〇分以内に好きな場所へ逃げる。三〇分後の合図によりゲーム開始、その後四八時間後に再び合図があるまでは自由。
三〇〇〇万の現金を持って逃げるのは大変なため、一〇〇〇万円札と言う物が用意された。
希望者は現金をその紙切れ三枚と一旦交換し持って逃げる。最終的にそれ一枚につき一〇〇〇万と交換してもらえるということになった。
当然だが、希望者というのは、金を受け取った参加者全員となった。
ゲームのフィールドとなる敷地は高い壁で外部と切り離されていて、警備も厳しいため、脱走は難しい。
ファァァァァアァアァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!
巨大なサイレンが鳴った。おそらく始まったのだ。直貴は小さな林の中に身を潜めていた。このゲームのフィールドは実に多彩。林や、池などの自然的な場所のほかにも、ビル群が建ち並ぶ人工的な場所もあった。開けた野原のような場所もある。
近くには誰もいないようだ。直貴は銃を選択してしまった。だから、こうしてずっと隠れているわけにもいかない。何処かへ行かなくては・・・。やはり、人を探すとなったらあの街の建物の中だろうか?やはり建物の中と言うのは落ち着くのではないだろうか?きっとあそこへ行けば何人かは見つかるだろう。直貴は何気なく歩き出した。林から抜けてほんの少しだけ歩いた時だった。右前方、はるか遠くだが、誰かがいた!気付いた瞬間の出来事だった。直貴の足元に土煙があがった。
ぱぁん!!!!!!
銃声だ!一瞬足がすくんで動けなくなった。が、すぐ我に返り大急ぎで林の中へ逃げ出した。背中からもう一度銃声が追ってきた。銃声は直貴の全身を震わせ、心臓を握りつぶすように締め付けた。
た、助けて!
どこをどう走ったかはわからない。巨大な樹の根っこの窪みの中で直貴は震えていた。
勘違いしていた。このゲームのことを完全に見誤っていた。俺は銃を持っている。だから、俺は必然的に鬼ごっこで言う鬼、つまり追う側の身、襲うことはあっても襲われることは無いと思っていた。それが大きな間違い。銃を持っているのか金を持っているのかは見た目では判断が付かないことが多い。それに、時間が経てば、銃を持っている奴が金を持っていないとは限らなくなってくる。それに、殺してみて金を持っていなければ銃だけでも奪っておく価値がある。ゲームは二日間だ。寝込みを襲われることなどを考えれば、いっそのこと自分以外全て殺しておいてもいいくらいだ。もし、金をもらった奴等が全員殺されて、全ての金が銃を持っているやつのところに流れたら、そこから先は全員が銃を持っている。銃を持っている奴を倒さないと金が手に入らなくなる。そうなったら厄介だ。なんとしても先にいくらか手に入れなければならない。
しかし、考え様によってはそれほど難しくは無いのかもしれない。直貴の借金は一〇〇〇万つまり、一人だ。ノルマは一人、欲をかかなければ消して難しい事は無い。一人殺して、後はずっと隠れていればいい。
一人殺す・・・か。俺にできるだろうか?いや、やらなきゃならない。さっき俺は実際に撃たれたじゃないか。やらなきゃやられるんだ。
がさがさ・・・・がさ・・・。
そんなことを考えている時だった。近くに・・・誰かいるのか?まさか、さっきの奴が追いかけてきたのか?心臓は再び締め付けられる。恐る恐る窪みから顔を出してみると・・・
いきなり目の前に人間がいた。完全に目が合っちまった。
ちきしょう!やるしかねぇ!汗でべとべとになった手で直貴は銃を構えた。