川畑直貴 二二歳 彼の場合は、最悪だった。
川畑直貴 二二歳 彼の場合は、最悪だった。
「すいませんロンです」
直貴は謝った。なぜなら勝ちすぎたからだ。ここ一週間、麻雀、パチンコ、競馬と何をやっても負け無し。直貴は博打が強かった。
今日はたまたま通りかかった雀荘にふらっと入り一勝負。気付けば二〇万ほども勝ちが積もっていた。
直貴はもともと博打には強い方だったが、今週は特に派手だった。どこでどんな博打を打っても勝つ。まさに強運の流れ。実力、運ともに持ち合わせた今の直貴は無敵だった。
「今日はこの辺で勘弁してください」
「ち、やめだやめだ!全くやってらんねぇ」
「次はきっと負けませんよ」
直貴と卓を囲んでいた客達は口々にそんなことを言いながら帰っていった。
しょうがない。今日はこの辺にしようかな。勝ってるし、まぁいいだろ。そんなことを考え自惚れた笑いを漏らし、直貴もこの店を出ようとした。その時、奥の方から声をかけられた。
「ずいぶんと・・・派手に勝っていらっしゃいましたね。若いのにお強いようで・・・」
振り返ってみると、綺麗にスーツを着こなした切れ目でオールバックの男がこちらを見ていた。
俺を呼び止めたのはこいつか。
男は薄笑いをうかべたまましゃべりだした。
「たった今ちょうど卓割れしてしまって面子が一人足りないんです。よろしかったらどうですか?一勝負」
明らかに人を馬鹿にしたような目つき、挑発的な態度。直貴はムッとしたがここで挑発に乗ってはいけない。博打をしていると時々こういった奴に出会う。相手を挑発し、怒らせることで冷静さを失わせる。これは博打に限ったことではないが、冷静さを失ったら勝てるものも勝てない。
「すいませんけど、今日はもうやめようと思ってたんで・・・」
馬鹿め、そんな挑発には乗らないぜ。それにお前のような奴と麻雀を打ったって楽しくも何とも無い。
帰ろうとした直貴の背中に、男はもう一声かけてきた。
「レートの低い場が御気に召さないのですか?でしたら、半荘終了後の点差一〇〇〇点につき一万円のサシ馬などいかがですか?」
・・・こいつ、完全に俺を馬鹿にしている。この男の台詞は「お前のようなカモには絶対負けないからいくらでもレートは上げてやる。」そういう意味なのだ。流石に腹が立った。直貴は振り返ると言った。
「俺の勝ち方を見てたんじゃないんですか?今週の俺は負け無しです。あんまり舐めない方がいいですよ」
「そのお言葉は私と一勝負していただけると言う風に受け取ってもよろしいですね?ありがとうございます。どうぞこちらへお座りください」
こ、こいつ・・・・ぶっ殺してやる。