召喚は突然に…
クラス転移っていつも主人公が貧乏くじを引かされて悲しくなったので、たまには国外追放やダンジョンの最下層に落とされない主人公がいてもいいかなという思いつきで書きました。
朝のチャイムが鳴り終わり、日直の生徒の掛け声で僕らは礼をして席についた。当たり前の風景、当たり前の毎日。そんな日常に満足している…と言えば嘘になるだろう。
僕は求めていたんだ、刺激のある生活を。アニメや漫画、ラノベのように異世界に転生して勇者になりたかったんだ。このまま毎日勉強をして就職をして…なんてそんな生活は嫌だった。
そんな僕の邪な考えが良くなかったのかもしれない、気がつくと僕たちがいた教室にはまばゆい光が満ちていた。
次に目を開けた時には、僕たちは見慣れない一室にいた。まるで海外のお城のような場所であり、綺麗なステンドグラスからは日光が差し込んでいた。
更に周りを見渡す。足元には高そうな絨毯とそれを囲むように描かれた白い線。そして目の前には如何にも王様といった風体の人物と美女が並んでおり、その二人を護るように鉄甲冑の騎士が立っていた。
「ようこそ、異世界の者達よ!混乱しているとは思うがまずは話しを聞いて欲しい。立ち話も難だ、まずは食事をしながら話をしようでは……」
「おいあんた、何が食事だ!その前にやることがあるだろうが!コスプレ野郎共!」
王様風の男性の言葉を遮って発言をしたのは僕ら2年A組の担任教師である桜庭先生だ。ニコチンが切れているせいか少し口は悪いが教育熱心な良い先生であり、今も僕たちを守るように一歩前に出て立っている。
今にも王様に詰め寄ろうとする桜庭先生を見た兵士達は武器を構えて一歩前に出てくる。一触即発の空気、それを打ち破ったのは先程の美女であった。
「お父様、お食事もよろしいかと思いますがまずは皆様にご説明致しましょう?それに名前も素性も知らない相手からの食事など警戒されて当たり前ですわ」
「うむ、少々焦りがあったようだ、すまんなエミリア。それに貴殿らにも失礼をしてしまったな。早足になってしまうがまずは改めて挨拶と説明をさせて頂こう!我が名はヴォルフガング・ルルメシア・フリーデンである!我が国、フリーデンの王をしておる。そしてこちらは娘のエミリアだ。フリーデン国は未曾有の危機に晒されておる、そこで我が国に伝わる伝説の魔法により勇者召喚の儀式を執り行ったのだ。そして現れたのが貴殿たちだ」
「俺たちが来た……つまり、俺たちが勇者という事ですね?」
そんな声をあげたのは、クラスメイトの御剣聖哉君だった。彼はこのクラスで一番頭が良く、運動神経もずば抜けている所謂天才。ラノベを読んでいた僕なら分かる、間違いなく彼が勇者として選ばれた人間だ。
「その通りであり、少し違うな。お主、名は何というのだ?」
「俺はミツルギ・セイヤ、セイヤが名前です。違うというのはどういう事ですか?」
「そうか、ではセイヤと呼ばせてもらおう。その説明は特性を調べながらしようと思うのだが……セイヤよ、まずはお主からにしよう」
そう言うと王様は一人の兵士に指示を出して水晶玉のような物を持ってこさせた。簡易的な台座も用意されると、王様は御剣君に水晶に触れるように促す。そして彼は臆する事なく、そして迷いなく水晶に触れた。水晶玉は激しく発光し、しばらくして光が収まると王様の目が驚愕に染まり見開かれた。
「こ、これは……!?何という事だ!?」
「さて王様、これで説明をして頂けますか?」
「うむ、この水晶に書かれている文字が見えるだろう?文字の意味も理解出来ると思うがどうだ?」
「確かに、俺の名前と……他にも色々書いてありますね」
「そうだ、これが特性だ。我々はこの世に生を受け、名を授けられたと同時にこの水晶によって特性を知る。特性とはその人間の持つ能力であるのだが……セイヤ、お主は勇者の特性、更に剣術の特性を持っておる。特性が二つもあるのは初めてみたものでな、少々驚いてしまった」
「あまり実感はありませんが……」
「しばらくすれば身体が馴染むであろう、先の説明を続けよう。少し違うというのはだな、勇者はお主一人であると言う点だ。他の者たちは勇者を助ける為に呼ばれた者達である。しかし心配はしなくて良い、国王の名にかけて貴殿らの待遇に差をつける事はない。では他の者たちも水晶に触れ特性と名前を教えて頂けるかな?」
王様からの見えない圧力のようなものを受けた僕たち残りのクラスメートと桜庭先生は、言われるがままに水晶に触れて名前を名乗っていった。周りのみんながやれ聖女だっただの賢者だっただのと騒いで嬉しそうにしているのが目に入る。
そして当たり前のように特性を二つ持っていた。まずい、これは非常に不味い展開だ。嫌な汗が流れている中、僕は突然背中を押されてしまい一歩前に出てしまった。
「あいてっ!?な、なにするんだよ!毒島君!」
「おーい、早くしろよぉ?次がつかえてんだよ、黒田くんよぉ?」
見るからに不良……校則違反であるはずの金髪に染められたリーゼントヘアーの男、毒島慎也くんが僕に絡んできたのである。
「へへ!勉強も運動もできねぇお前がどんな特性を得るか楽しみだなぁ!?」
「な、なんだと!?そういう毒島君はなんだったのさ!」
「俺かぁ?くく……聞いて驚け!俺の特性は破壊者!そして鑑定士の二つだ!おら、さっさとてめぇの特性を晒してこい……よっ!」
乱暴に突き飛ばされた僕はそのままの勢いで水晶に触れてしまう。全くいきなり何をするんだ彼は……しかしそれを見た王様や周りの人間は少し怪訝な顔をしていたが何かを言う事は無かった。
「して、お主の名前は?」
「ぼ、僕は黒田清……姓がクロダ、名前がセイです」
「セイ、お主の特性なのだが……気を落とさずに聞いて欲しい」
「は、はい」
「我も見たことが無いのだが、まず特性は3つある、これは素晴らしい事だと思うのだが、そのどれもが意味を成さない一文字の物でな。一体どういうことなのだろうか……」
そう言われた僕は改めて水晶を覗き込んで観る。そこには縦に並ぶ3つの文字があった。
パ
シ
リ
水晶にはそう書かれていた。
パシリ?いやあの、流石にちょっとありえないだろうこれは。大体ここはテンプレート的に鍛冶とか錬成とか実は強いけど評価されてないスキルをもらって僕が無双する所じゃないの?最弱っぽいジョブだけど異世界最強は僕になるんじゃないの?
そんな僕がパシリに戸惑っていると、後ろから覗き込んできた毒島君が大声を出して笑い始めた。
「はっははは!!さ、さすが底辺の黒田様だ!3つも特性があるのにどれも意味が無いなんてな!それどころか縦読みでパシリとか!はははは!!お似合いじゃねぇか!」
毒島君の笑い声が遠くに聞こえるほど、僕は意気消沈していた。そこからの事はあまり覚えていない。王様は勇者である御剣君を中心に話を進めていた。
後から集まった時に聞いた話ではあるが、内容はありがちな物であった。魔王が出現したから勇者を召喚して鍛え、それを討伐させる。そして帰還するには魔王を倒すしか無い。唯一良かったのはここの王様が無能だからと僕を追放するような人でなしでなかった事くらいかな。