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第1章 俺は中間管理職 その3

『異世界転職の女神堂 貴方にオススメのリクルート情報があります!』




やっぱり登録してたのか。何で履歴が残ってなかったんだろう?



でもキチンとした文章だなこれ。スパム系の謎の翻訳感が感じられない。



ちゃんとメールを開いてみる。



「ヤマカタ シュウイチ様



当サイトにご登録ありがとうございました。さっそくですが貴方のエントリーシートを拝見させていただき、お勧めのリクルート情報がございます。



【急募】マネジメント経験者、中間管理職経験者大募集!弊社の業務改善にお力添えください!


年齢 30~40代 


資格 特になし 中間管理職経験必須


勤務地 そこじゃないどこか


ポイント 中間管理職でつまづいた方、もっと貴方の能力を活かせる場所で働きませんか?



詳しくは https//www.□□□□□□□□□□…」




「なんだ、ちゃんとした転職サイトだったのか…?」



おかしなサイトではなさそうなので一安心だ。


確かにこのスマホにはウイルス対策アプリ入れてはいるけれどそれでもわざわざ危ない所にいく必要はないのだ。



「バッテリーにウイルスが~」ばりの怪しさだったからな。アレを押してしまう人も世の中にはいるのだ。君子危うきに近づかず。良い言葉である。



異世界転職ってなんだろうな。あれか?「異業種への転職」を良い感じに言い直してるのかな?


まぁこの歳になって業種を変える事は確かに「異世界」なんだろうな。



「勤務地が『そこじゃないどこか』ってなんだよ。浪漫かよ。転勤有りなのか?…まぁ転勤もやぶさかではないな…。」



両親とは昔から折り合いがつかず、衝突ばかり。お互い随分と離れた場所で暮らしている。今は歳の離れた姉夫婦と共に暮らしており、孫に囲まれ幸せなものだろう。連絡も年に数回あるかないかくらいだ。それも姉を介在しての連絡。



恐らくそれは先も変わる事無くそうなんだろう。ここまで致命的な関係になったのは俺が「バツイチ」になったからだ。



前職を辞める切っ掛けにもなった「社内結婚」からの「離婚」。


当時、俺が先輩、元妻が後輩の関係で、お互い家に帰れずの激務をこなしていた。共に苦渋を舐めた同士な所から始まり、それなりの仲になってしまうのは変な話じゃないだろう?



思えば二人の関係は、仕事仕事で塗りつぶされた人生を少しでも意味あるものにしたかった自分達の捌け口でしかなかったように思っている。



互いに対しての強い愛情を持っているでもなく、何となく一緒になってしまった。



そして元妻は退職。俺はそのまま仕事を継続。当然ながら激務は続く。最初は理解していた妻も徐々に気持ちが離れ、結局いざこざが起こり袂を分かつことになった。わずか1年半の事だった。



そうなってしまった結果、その職場に居続けることは不可能だった。良い機会だったとは思う。激務過ぎて自分がおかしな事を気づけなかったのだから。



しかし当然両親はそのことをなじる。確かに早々の離婚と退職。あまりに見栄えが悪いことが重なってしまった。慮ってくれというのは俺の我が儘だったかもしれない。ただただ不始末をなじられ続けた。でも俺にも言い分があるのだ。理由があるのだ。長年のすれ違いも相まって、断絶状態になって今に至る。



なので今の俺には帰る場所がない。だからこそこの部屋を「住み処」と言ってしまうのだ。



そして…。




『ポイント 中間管理職でつまづいた方、もっと貴方の能力を活かせる場所で働きませんか?』




この一文が俺の心を捉えてやまない。



この歳で転職を選ぶならかなりの覚悟が必要だ。新しい職場で、新たな上司の下でどれほど活躍できるのか?もしかすると年下の上司かもしれない。また結構年齢のいった新人をその会社はどう扱うのか?扱えるのか?今と違う苦しさを味わうだけではないのだろうか?



ただただ現状から逃げ出したいだけの悪手にならないだろうか?



色々と思う。


でもやはり気になって仕方が無いのだ。



「…まぁ内容を除くだけだから…。」



URLのリンクを押そうとする。



何故か覚悟が必要な気がした。


もう戻れない。今の何も未来のない現状よりも新たな何かを望むのか。



進んだそこが、今より悪くなっても、構わないのか?





構わない。




何も見えないまま人生を浪費すること、会社、同僚というだけでそれ以上も以下もない世界で生きていく事を、これ以上良しとできない。


人生で与えられたチャンスをここまで上手く使えなかった。そんな俺に最後の最後。チャンスとも取れない細い希望を掴んでみたい。




妙に真剣な想いでURLを押す。そんな自分が少し誇らしかった。




そして眼前に映ったのは求人の詳細ページではなく、



見知らぬ場所と



どえれえ美しい女性の微笑みだった。




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