第1章 俺は中間管理職 その2
「とうとう…、とうとうきたわ…。」
モニタに映る文字。
いつからこの文字が表示されることを心待ちにしていたか…。
『サイトに登録がありました』
シンプルな表示ですが、私には輝いて見えます。
大粒の涙が溢れ出る。
インターネット黎明期からサイト運営を始め、テキストサイトを立ち上げました。
当時はネット上で登録する手段を覚えておらず、転職希望者からの電話を受けることしか出来なかった。
「どうやって電話回線をここに引っ張ってくるか?」で随分と頭を悩ませたものでした。
様々な交渉の結果、「○TTすげえぇえええぇっ!!??」となったのは今でもいい思い出です。
一件もかかってこなかったけども。
当時でダイヤルQ2回線だとそうなってしかるべきだわね。
ちょっとしたアダルトサイト扱い。
ここは海外っちゃ海外なのかしら?うふふ。
あの担当者のクソ野郎に「タンスの角に小指をぶつける確率5倍アップ」の呪い…、いや祝福を与えた事もまた、良い思い出です。
その後のADSLから光回線と高速化し、IT技術が進化、世の中に浸透していく中、私も乗り遅れないようにとhtmlから始まり、CSSを覚え、JavaスクリプトやPHP、mySQL等を必死で勉強し、最終的には中々素敵なサイトに成長したと思うのです。
巨大掲示板で朝に夕にと仕様について質問を繰り返したあの頃。大分苦労しましたねぇ…。
その知識があってこその今ですが。
「人に歴史有り…ですね。」
いや私は人じゃないけれど。
そしてようやく。
ようやくその苦労が報われたのです。
初の『サイトへの登録者』が現れたのです!
もう今日のこの日を祝日としてもいいくらいですね!
王都に大神官に神託でも告げようかしら?
ああ、いけない。そんなに世界に過剰に干渉してはなりませんね。浮かれてしまいました。
でも少しくらいはしょうがないでしょう?
この停滞した世界を、先に進める勇者、賢者となりえる方が現れたのですもの。
さてどのような方が「転職希望者」なのでしょうか?
エントリーシートを拝見させていただきましょう…。
…。
ほうほう。…。
…。
…!?
「…逸材だわ…っ!」
やたらと狭量な部分が目に付きますが、これは私のお眼鏡にもお眼鏡にかなう人材…っ!
「すぐにダイレクトメールを送らないと…!」
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[ここである、修一の部屋]
…結構長く寝てしまった。もう昼じゃないか。これ明日一日でリズム取り戻せるかな…。
枕元のスマホに目が行く。昨夜の事が思い出される。
…。
やべ、勢いとはいえ、あんなよく分からないサイトに登録しちゃったよ!!
何かおかしなの踏んでないか!?
慌ててスマホを開き色々探ってみるも、おかしなデータ容量が発生してはいないようだし、知らないアプリもダウンロードした形跡がない。
「大丈夫かな…?」
そうだ、昨日の「女神堂」だったか?もう一度覗いてみよう。
しかし履歴を見るも何故か残っていない。女神堂の名前で検索するもヒットしない。
「…なんだろう、夢だったのかな…。」
確かに酔っ払っていたし、そんな夢でも見たのだろうか?にしてはリアルな記憶があるけれど…。
ぴろんっ
「?」
例の捨てアドに何かメールが届いたようだ。
このアドレス。たまにエ○関係を購入する時ように作ったアドレスで、毎回購入する度に入会・退会を繰り返していた。
勧誘メールがうっとうしいからね。しばらく使っていなかったから入会していないはずなんだけど…。
メールBOXを開くとそこには…。
『異世界転職の女神堂 あなたにオススメのリクルート情報がございます!』