魔と消えたい僕
初めて消えたいと思ったのはいつだっただろう。
僕はありふれた家庭で育った。
父、母、弟、僕の四人家族。
母は優しく、料理が上手で
父は毎日働いていて、休日は一緒に遊んでくれた。
弟は可愛いし生意気だった。
僕は大好きだった。
けれど、僕の家族は突然居なくなった。
蝋燭の火が消えてしまうみたいに
みんな、どこかへ行ってしまった。
僕は親戚に引き取られそこで暮らすことになった。
最初は親戚のおばさんもおじさんも仲良くしてくれた。
でもそこには壁があった。分厚い壁だ。
破れることは決してない。
おばさん、おじさんは僕のことをただの
身よりない可哀想な子としか思っていなかった。
本当は違ったかもしれない。
けれど僕はそう感じた。そう思えてしまった。
いつの間にか僕は全てをどうでも良く、
馬鹿みたいに思うようになった。
生きる気力を失った。
生きる意味がわからなくなった。
消えたいと、思った。
今、僕はマンションの1番高い所にいる。
ここから真っ逆さまに落ちてしまえば
僕は潰れて居なくなってしまうだろう。
でもそれでいい。
僕は体重を前にかけた。
風を感じた。
僕の視界は真っ暗になった。
「貴様、何故落ちる」
深く、低い声が聞こえた。
目を開けると僕は暗闇の中に立っていた。
さっきまでの風景はどこにもなかった。
真っ暗なそこは箱の中のようだった。
「寂しいのか」
また声がした。声は前から聞こえたが声の主の姿は見えない。
「お前は誰?」
僕は素っ気なく言った。
「魔とでも言おうか」
悪魔、その声の主は悪魔だったのかもしれない。
「貴様は寂しいのだろう。だから死を選ぼうとした。
時が来ればお前は死ぬ。私には止められん」
淡々と『魔』は言葉を並べた。
「僕は死ぬんじゃない。消えるんだ。
誰にも気づかれずにひっそりと静かに。
僕が消えたって誰も困らない」
僕は下を向いた。
「貴様は死ぬ」
『魔』は同じことを繰り返した。
「少年よ、その時、
その時涙する者が現れなければ、私が泣こう」
そうして僕は目を覚ました。
気づくと布団の上にいた。
今のは夢だったのか、何もわからずまたゆっくりと目を閉じた。
それから月日は流れた。なんの滞りもなく。
そしてその時は訪れた。
僕は死んだ。
僕の前に『魔』は現れることはなかった。
『死』をテーマに書きました。
現代文の教科書の詩を読んでる時にふと思いついてこんな仕上がりになりました。
恐らくこの話は色々な捉えができると思います。
書いていて段々とよく分からなくなってきましたがそれなりにまとまった気がします。
今日はもう寝ます。
感想などありましたら励みになります。
では、また。