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それぞれの瞳の色  作者: 栂乃
3/6

婚約者ができました

 

 そんな日が先週あったなぁあのあと帰りはめちゃくちゃ心配した祖父のオッドーネが物凄い形相で迎えに来てくれたなぁ主犯格を絶対殺すマンになったりそれ止めるの大変だったなぁなんて自室に引きこもりながら筋トレをしていたらひどく慌てた様子で侍従長が駆け込んできた。


「ジェーン、どうしたの?慌てて。らしくない」

「お見苦しいところをお見せしてもうしわけありませんお嬢様!しかし!こちらを、至急、ご確認くださいませ!」

 普段は一切の感情を表にださずにキビキビと働く彼女にしてはめずらしい様子。そんな一大事をもってきた手紙とは一体?


「は?婚約?」


 何度読み返しても何度目をこすっても光に当てても暗いところで読んでも文面は変わらず。書いてあったのは

 ージェノヴィア公爵家次男ライモンドからの婚約の申込みの手紙であった。


「うっそでしょ…」

 ライ…いやもはや正式な名乗りを交わしたのなら略称で呼ぶのはまずいか。ジェノヴィア公爵家次男のライモンドは2年前からの剣術修行仲間だ。眉目秀麗、陽の光を閉じ込めたかのような金髪に新緑を写し込んだかのような緑眼、表情をあまり動かさないきらいはあるが時折微笑んだときのあの顔面破壊力。おそろしい。笑み一つで国が建てられそうだ。何を言ってるかわからないがとりあえず貢物をしたいと思うファンが山程できること請け負いだ。

 そんなイケメンが一体なぜ?剣を習ってるあの時間にも深い付き合いがあったというわけではないのに。謎は深まるばかりだ。


 いったん考えることを放棄し、ひとまず顔合わせと婚約打診のためのお茶会までにテーブルマナーをさらいはじめた。



 そして来てしまったお茶会当日。

 悲しいことに祖父のオッドーネはどうしても外せない仕事があるとのことで保護者として名義上の両親が来てしまった。そう、父と義母が来てしまったのである。なんて悲劇だ。


 一口に悲劇といってもいろいろな意味を持つ。

 まず父は元男爵家の人間で当主ではない。そのためパレルモ辺境伯家代理当主のさらに代理という身分で本日は来ている。正式な当主が不在という悲劇だ。

 そしてその代理当主の代理というほぼお飾りとしか言いようがない立場をおそらく父は理解できていないこと。母がなくなってから母の代わりとしてパレルモ家当主のように振る舞おうとした父だ。先々代当主のオッドーネが当時激しくシメていたがあのときの顔は当主という実権を握れる地位を諦めてはいない顔だった。今も当主のように振る舞いまともな貴族からは倦厭されている。そんなこんなで今日の保護者の立場不理解という悲劇。

 更に家柄目当てで結婚した最初の妻が病気で臥せっているときから。あっさり浮気に走り妻がなくなったとほぼ同時と言っていいタイミングで不倫相手をつれこみ溺愛と言っていいほど新しい家族に愛情を注ぐ父の関心は私には一ミリも向けられていないという現実。いっそ駒としてすら興味を向けることのない父を紹介しなければいけないという悲劇。

 義母も弟や妹に対してはまあいい母親なんだろうが如何せん私のことをエアー扱いするプロだ。そんな奴がなぜ今日という私に関するイベントに来てしまったのか、というか来るのを阻止できなかったのかという悲劇。

 他にも私よりも今の妻との娘、アンナのことを深く愛している父と義母だ。公爵家なんてとんでもなく素晴らしい家柄に嫁がせられたら、なんてことも考えているだろう。

 恐ろしい。なんて恐ろしいイベントなんだ…お茶会…。後ろから刺してくる気満々の味方しかいないとか無理ゲーが過ぎる。

 これからの憂鬱を考えると表情が死んでいく。せっせと私を着飾ってくれる侍女たちに身を任せるがまま支度を済ませて馬車に乗り込んだ。


 一人で行きたかったのにそうもいかず。3人で乗り込んだ馬車の中ではほとんど数年ぶりとも思える義母と父からの話しかけをほぼ相槌や短い返答でやり過ごすという地獄の時間を体験した。なぜ話しかける。いつも通り無視してくれたらいいのに。お互いwin-winだろ?!


 気まずさに窒息するかと思いながらようやくたどり着いた公爵家邸は凄まじくきらびやかであった。華美に飾られたものがそこかしこにあるというわけではなく。上品に飾られた高級そうな調度品の品々は手入れがよく行き届いており、ひそやかに、品良くこの屋敷に華を添えていた。

「いらっしゃい、パレルモ嬢。」

「ようこそいらっしゃいました、パレルモ辺境伯家の皆様」

「本日はお招きいただきありがとうございます。ジェノヴィア様」

「今までみたいに呼んでよ。僕もアガタって呼ぶから」

「…ら、ライ様?」

「うーん、まあいっか。うん、今日は来てくれてありがとう、アガタ」

 出迎えに来てくれたライモンドは機嫌のいい時に良くやる顔面キラキライケメンオーラをふんだんに振りまいていた。私が呼んだ呼び名は及第点をもらえたようだ。流石に今までのように完全にあだ名で呼び捨てはできない。

 そんなこちらのことなどお構いなしにさらりと手を取られ館を案内される。


「ここまで来るの大変だったでしょ?」

「いえ?そこまででは…ただ…途中雨にふられないかと少しハラハラしましたわ」

「敬語はいらない。今まで通りで。」

「えっ…と…」

 手を引くライ様の顔をちらりと盗み見たつもりがバッチリと目があってしまった。その目が今までどおりに喋れるよね?と物語っていた。なんとなしに圧も感じる。怖い。

「わかりま…わかった。」

 返事はお気に召していただけたらしくキュッと先程までよりも強く握られた。


 エスコートされてついたのはとても見事な植物園。その中は見たこともないような花が咲き乱れる幻想的な場所だった。

 ライ様にエスコートされるがままきれいな細工が施されたテーブルにつく。父と義母も公爵家の使用人に勧められるがまま席についた。


 先に座っててもよかったのだろうかとちらりとライ様を見るとどこかいたずらっ気が込められた微笑みを返された。危ない。金髪碧眼ショタ沼に落ちるところだった。…ん?ショタってなんだ?前世の記憶からの言葉だろうか?

「ようこそいらっしゃいました。パレルモ辺境伯家の次期当主さま、そしてお家の皆さま」

 かけられた声にハッとしてテーブルの前に目を向けるとつい先程までは空席だったはずのところに見目麗しい男女が座っていた。

 あまりの早業に目をパチクリしていると公爵と思しき男性にウインクされた。なんてことだ。心が撃ち抜かれるところだった。危ない。

 そしてお家の皆さまって挨拶で言葉を選んでいただけたのだなと思った。なにせこの場でパレルモを名乗っていいのは私と父だけ。義母だけ除くのも…というご配慮だろう。…パレルモ家の人間になれたと勘違いしてる義母に現実を突きつけ恥をかかせないため、なんて理由じゃなかったらいいんだけど。

「先日の君の隠蔽魔法を見てね?面白そうだったから真似してみたんだ。どう?気づかなかったでしょう?」

「驚きました…あの、先日というと」

「ああうん、想像してるのと一緒だと思うよ。王宮に賊が入った奴。あの時の君の手腕を僕は高く評価してる。それに可愛い息子から猛プッシュがあってね、君にこのような話をもってきたんだ。」

「お褒めに預かり大変光栄です。」

「おっと、自己紹介がまだだったね。」

 そこからライ様に明るさと表情筋の豊かさをプラスして三十歳くらい足したような感じの公爵から夫人とライ様を紹介された。

 こちらも、と自己紹介をしようとしたのだが

「はじめまして、ジェノヴィア伯爵様、私アガタの母のエレナ・ディ・パレルモと申します。今日はお招きいただきありがとうございます。」

 と、突然義母が自己紹介ならぬ自己売り込みと、娘売り込みを始めてしまった。

 こういった一族顔合わせのルールとして当主がそれぞれ家族を紹介するというものがある。今のは明確なマナー違反だ。それになにより

 ーなんで勝手にパレルモの姓を名乗ってるの!

 これに尽きる。義母が名を名乗ったときに公爵家の人が皆変な顔をしたのはこれが一番の理由だろう。

 このカタリア国王において血族とその婚姻関係にあるもの以外はその血族の名を名乗ってはならない。このルールは高位の貴族になるにつれて厳格になり、辺境伯もそのうちに含まれる。後妻であり、更に嫁いだ男は元男爵。つまり一滴もパレルモの血を継いでない男に嫁いだ義母はパレルモの姓を名乗る権利がない。明文化されていない法ではあるが貴族社会においてひどく重要視されている決まりをあろうことか公爵家相手に破ったのだ。

 やっちまったな、以上の感想がでない。そしてこの義母喋りが止まらない。父は止める気がないようだしやらかしてしまったことにも気づけていない。なんてことだ。つまりここで止めるのはアガタしかいないということになる。面倒だ、なんてことを表情に出すわけにも行かないため必死に表情筋の統制を行い義母を遮った。


「失礼ですがエレナ様、ここは招待いただいた私が紹介してもよろしいですわよね?私にも家族を紹介させていただきたいのですが」

「まあ、アガタったら!そんな他人行儀に呼ばないでいつも通り呼んで頂戴な?」

「わかりました、エレナ様、いつも通りの呼び名で呼ばせていただきます。」

 おそらく母様とでも呼ばれたかったんだろうがそんな呼び方この義母が来てから一度もしたことがない。というわけでスルーだ。スルー。あまりこういうのは身内の恥なので晒したくないがやりたくないことはやらないしこの義母のとおりにする必要もない。さらっと義母と、父の紹介をしてもう一度この場を設けていただいたことへの感謝を述べる。ところどころで義母か口を挟みたがるのでタイミングを見計らいながら話すのは骨が折れた。



「では、お受けいただけますか?」

「ええ、「お待ちくださいませ!!」あの、エレナ様、なにか?」

 当たり障りのない領地の話、先日私が使った隠蔽魔法やそのほかの魔法の話、今までの剣術の稽古での出来事を話し、ようやく本日の本題について締めくくろうとしたところに盛大な横やりを入れられた。せっかくここまで無事に来れたのに!うっかり、顔にめんどくせえなんて書いてないか心配になったがとりあえずこの顔を公爵家の方に向けなければいいかと思い義母へ顔を向けた。


 私の静止など耳に入ってない様子で曰く私の愛娘は優秀で〜だの可愛く更に賢く〜やらパレルモ辺境伯はアガタに継がせてうちの子を嫁がせてくれ〜だのをほざいていた。ここで言う愛娘は私ではなくアンナのことだ。なんの旨味もない婚約話を姉の婚約成立前に邪魔するかのように仕向ける義母。あまりの厚かましさにびっくり顔が戻らない。今日のこのお茶会の主題をこのアマ…ゴホン義母は理解してないのだろうか。してないからこういうことを繰り返しているんだろうけども。


 ここは公爵家、退出を私が勝手に命じられるような場ではない。どうするべきか考えあぐねていると隣から救いの手が差し伸べられた。

「アガタ様」

「はい、ライ様。」

 聞きなれたよく通るボーイソプラノで名を呼ばれ反射で声を返す。隣の席にいるはずの彼を見ようと顔を向けると想像より近い位置に顔があってびっくりする。

 いつのまにか私の席の隣りに立ったライ様は美しい動作で跪き、そして

「私との婚約を受けていただけないでしょうか。アガタ・ディ・パレルモ嬢」

 と告げてさらりとさらった私の手の甲にキスを落とした。

 あまりの早業と眼の前に広がるイケメンオーラとシチュエーションにポカンとしかけたが危ない、奴にすきを付かれてしまう。慌てて正気をかきあつめ、

「どうかよろしくお願いいたします、ライモンド・ディ・ジェノヴィア様」

 と返したのだった。

 その後いつの間にか用意されていた書類にさらさらと記入し義母になにか邪魔をされる前に、とそそくさと退散した。帰りの馬車では私は空気となり、義母は私の対応に怒り父も空気だった。あれだけ代理当主の代理になることを喜んでたのに一切の活躍もないまま父のちょこっと実権握り体験は終わったのであった。



 ああ、疲れた。


複数人の描写が苦手なようで喋ってるのが偏っていますがきっと背後ではいい感じに会話してたりすることもあったはず。。。

改稿(2019/01/26)

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