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それぞれの瞳の色  作者: 栂乃
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目覚めと運命の始まり

初投稿です。前世の記憶をぼんやり持った子が生きるために剣を取り魔法を習得し、なんとか生きようとするお話を考えてたらいつの間にか三角関係にもつれ込ませたいという思考に占領されてました。

 それは突然のことだった。

 いつものごとく就寝し、そして朝日の眩しさに目を覚ますはずだった。何気なくつまらない1日が目覚めとともに始まるはずだったのに―


 目を冷ました途端に気がついてしまったのだ。私は『わたし』というもう一つの生を経験したことがあることを。




 きっかけはわからない。しかし、生まれてこの方ずっと違和感を抱いて生きてきた。それは何気ない言葉遣いだったり思考であったり日常の些細な出来事に対してだ。

 例えば―

 使用人に傅かれ世話をされているとき。

 貴族たれ、淑女たれと家庭教師に教育されているとき。

 奴隷を家畜の如く扱う父とそれを当然のように受け入れる新しい母とその子どもたち。

 なにか違う、おかしいと思うも何一つこの国ではおかしな事はなく。誰にもこの違和感を打ち明けることはできなかった。

 その違和感の正体を、ようやく『目覚め』とともに理解した。


 私、アガタ・ディ・パレルモには物心ついた頃よりも前の―いわゆる前世の記憶がある。ところどころ思い起こすことのできる前世の『わたし』の記憶では、驚いたことに貴族や奴隷といった身分がない世界があるらしい。そこで生まれ育ちそして死んだ記憶がこのアガタである私におぼろげながらも影響を与えていたようで、その記憶とこの国との差異が違和感の原因であった。


『わたし』の記憶を思い出せるようになってからというもののなにか生活が劇的に変化したものはない。

『わたし』の記憶には私のように前世の記憶を取り戻し、その記憶を元に国を改革していくファンタジーであったり、取り戻した前世の乙女ゲームの世界に転生し恋愛に奮闘するラブストーリー、であったり、主人公は皆一様に記憶を取り戻してから生活が一変したものばかりだった。

 そんな先人(?)達とは違いたった6歳でしかないアガタである私に出来ることなど何もなく。ただ平凡でつまらない日々が続いていた。

 唯一、『わたし』の記憶があってよかったことと言えば実の父に対する寂しさや虚しさを捨てることができたことくらいであった。アガタは3歳の時に母親を亡くしたばかりか、その翌年から一切の父とのふれあいがなかった。母が死んだ次の年に連れ込んだ後妻と連れ子に夢中になり、一切家族としての情をアガタに向けることのなかった父。幼少期からほぼ両親と触れ合う機会のなかったアガタが、それでも実の父からの愛を乞おうとすることになんら不思議はない。けれどそのいつか頑張ったら父が私のことを見てくれるかも知れないという希望は、持ち続ける限り打ち砕かれ続ける絶望の元でもあった。


 6歳児にして享年27歳アラサー女の『わたし』の思考を得た私は、そんな不毛なことをやめることにした。つまり―そんなクソ親父なんざ一欠片の未練も残さず頭から消し去ってしまえ、と。

 これまでもしかしたら声をかけてくれるかもしれない、と出続けたものの空気としてしか扱われないダイニングでの食事タイムに見切りをつけ毎食を自室で取り、反抗すればなにか声をかけてくれるやも、という淡い期待のもとボイコットし続けていた家庭教師による教育をちゃんと受けるようにしたり。そんな家族―主に父ではあるが―に対しての思惑を込めた行動を辞めた。もともと『わたし』がこだわりを持たないものに対してアッサリした性格だったせいかものすごくスッキリしたしストレスが減った。そして心に余裕が出来たことによって今のこの現状を広い視野で見れるようになった。


 このカタリア国において爵位を継ぐのに性別はあまり関係ない。そのかわり―最も重視されるのが血統である。

 このパレルモ辺境伯は領地の所在の関係上カタリア国が他国と、主に隣の島国や大陸の国と戦になったときに重要な拠点として機能すべき場所である。そんな地理的に重要な場所とあって4代前やその前にも何代か王族の血が入っている。それ故に辺境伯でありながら公爵家に並ぶほどの力を持つのだが、現在このパレルモ辺境伯の正式な血を受け継いでいるものは少ない。

 先々代の当主であるアガタの祖父オッドーネ、先代当主であった母の妹イザベラ、そしてアガタ。存命なのはこの3名である。叔母にあたるイザベラはリーグル侯爵家に既に嫁いでいるため離縁でもしない限りパレルモ家の人間と名乗ることはできない。

 つまり正当な辺境伯の後継者はアガタしかいない状況であった。


 パレルモ家先代当主であった母エリーザベトの亡き後、今はオッドーネが代理当主として再び領地を収めている。もともと堅実な領主として名高かった祖父である。領民からの信頼も厚く、安定した暮らしが領民には約束されていた。

 しかしこの状態が長く続くわけではない。あくまで代理当主としてしかオッドーネは居られず、アガタはその後を納めねばならない。そのために必要なもの、知識や人を動かす力、時期を見極め行動を起こす力、時代の流れを読む力、そういった当主として持たねばならない力が、6歳にして引きこもりなアガタには全く足りていなかった。


 そして更に恐ろしい懸案事項に気づいてしまう。それは父が後妻と新しい子可愛さにパレルモの名をアガタから奪うという可能性だ。

 この国では血統が重視されるがやむを得ない場合や身内が認めたものに限り、条件付きで血を直接ついでないものが当主になることができる。条件とは血を継がないものの次の代で必ずパレルモの血を持つものと婚姻関係を結び子をなすことだ。

 そのためアガタが死に、オッドーネやイザベラも口出し出来ない状況になった場合、イザベラの娘を嫁入りさせることを条件に、特例としてアガタの異母弟であるエドアルドが次期当主となれるのだ。

 正直今の新しい子どもたちを猫可愛がる父の姿を見ているとやらかしかねない、としか言いようがないのである。アガタを亡き者にし、オッドーネやイザベラも何らかの手を使って黙らせる、というやらかしを。

 そしてアガタは未だ6歳。身を守るすべなど何も知らず、守ってくれるような騎士も持たない。そんな状況に気づいてしまったのだった。


 ーこれは早急に手を打たねば。


 そう考えたアガタは王都にあるパレルモ家の屋敷に詰めるオッドーネの元に急ぎ、手紙を出した。

 身を守る力と、人脈作りのための場、王宮や貴族内の現状を知る場がまず必要という旨をしたためたものを。




 ―どうしてこうなった?

 その問いを頭の中で繰り返して何度目だろうか。

 眼の前の見目麗しい美少年二人へ剣術指南を行うオッドーネに未練がましく目線を向けた。

 そんな私のことなどお構いなしに

「おい、アーグ、手が止まってるぞ!」

 と祖父からの叱責が飛ぶ。仕方なく再び剣の素振りを開始した。


 ときは遡ること2週間前。唐突な『目覚め』とともに前世を思い出した私は今の危機的状況を打破するために唯一の頼れる相手、オッドーネに文をしたためた。内容は主に身を守る術を授けてほしいこと、次期当主として動くにあたって信頼できる人と出会いたいこと、今の時勢を知る場が欲しい、その3点であった。

 3日後に届いた手紙には今のアガタの状況の読みが正しく、身の回りの危険に対する備えの薄さをオッドーネも危惧していたこと、代理当主として忙しくしていたため引きこもりがちになっていたアガタに目を向けられてなかったことの謝罪が書かれていた。後者に対しては忙しい祖父が謝罪するようなことでもないのに、と思いながら気にかけてくれていたことが伝わりほんのりと胸が温かい気持ちで満たされた。

 そして2週間後にはオッドーネが元第一騎士団長として剣術指南を教えてるところに呼ぶから体力をつけておけ、とも。

 それから来る剣術指南の日に向けての体つくりに励んだのは言うまでもない。


 辺境伯の居城がアガタに対して優しくないものであることを陰ながら心配してくれていた使用人たちの協力もあり、庭園一周するにも5度の休憩を入れねば走り切ることができなかったのに、今では5週はノンストップでいけるようになった。体力つくりの効率的なやり方を伝授してくれたばかりかサポートしてくれていた執事と侍女には感謝してもし足りない、というよりむしろこの手腕の良さは一体?と疑問を抱いてしまうほどだ。さらにこの体つくりをしてることを父や義母に悟られないようにしてくれていた侍従、庭師、執事、門番など使用人たち全員には頭が下がる思いであった。実際に頭を下げたらものすごく慌てられた挙句感激されむせび泣かれてしまいどう対応すればいいのか少し途方に暮れた。一言ありがとうといただけるだけで充分ですなんて言われてしまったが皆聖人過ぎやしないだろうか?


 とまあそんなこんなで急ピッチで体力を作りさあ剣を教えてもらうぞと意気込んだ当日、迎えに来てくれたオッドーネから渡されたのは動きやすそうな男子向けの衣装一式に一つの兜とペンダントだった。

 直接言われたわけではないが、顔を隠してこれから剣の指導を受けろとの意味であろう。顔に傷がつかないようにするだけならば兜のみで十分であるはずである。それを目や髪の色、顔の作りをごまかす術がかけられているペンダントを渡されたのだ。もはや疑いようもないレベルである。

 そして一言、

「お前はこれから剣術指南の間はわしの遠縁の甥、アーグとして振る舞え。ほかは自由にして構わん」

 そう言われたのであった。


 まさかの顔の偽装に偽名、更には性別を偽ることになるとは。そんなにも私の存在がよろしくないのか、それとも祖父の剣術指南を受けている他の人に問題があるのか。なんとなく先行きに不安になりながらオッドーネの展開する転移魔法陣の上に乗り、空間を移動する浮遊感に身を任せた。


 ついた先はどこかの庭園の一角に設けられたと思しき開けた場所であった。遠くから漂ってくるバラの香りがおそらくバラ園の近くなのであろうことを伝えるのみで、ちらりとオッドーネを見上げて見ても彼は何もいうつもりもないようだった。諦めてここがどこなのかの手がかりでも見つけようとあたりを見渡していると、少し離れた所で同じ位の身長の男の子二人が模擬刀を素振りしているのが目に入った。


 祖父に気づいた二人は模造刀を下ろしこちらに駆け寄ってくる。

 近づくにつれてわかる男の子二人の顔の整い具合に思わず『わたし』が心のなかでヒエッと声を漏らす。イエスショタジャスティスショタ!なんて思考が頭をよぎったがどういう意味だろうか?


 祖父の元に駆け寄り挨拶を終えた二人は、後ろに所在なさげに佇む私へ怪訝そうな目を向けてくる。まあ兜被った怪しい奴がいたらちょっと警戒するよね…わかる。

 ひとまずオッドーネに言われたとおりに名乗ったところで、顔については怪我があるため晒せないなんてことを祖父が補足した。なんとなしにこれ以上嘘を重ねるのにいい気がしなかったので助かった。オッドーネ直々の指導が始まる直前によろしく、とだけかけられた声に微かに頷くだけだった私にはさほど興味はなかったのだろう。二人からは名乗られることなくその日の指導は終わった。


 指導の内容?指導中倒れること5回、指導の次の日から3日はベットから起き上がるのに物凄く労力を要した、とだけ言っておく。褒められるべきはここまでしごかれたにもかかわらず大きな傷がないことだと思う。筋肉痛のせいでベットとお友達と化した私を甲斐甲斐しく世話してくれた侍従長には感謝しかない。


文字書きに慣れておらず誤字脱字や言葉の誤用があるかと思いますがひっそりと教えていただければ幸いです。不定期更新となりますがよろしくお願いいたします。

サブタイ変更と改稿(2019/01/26)

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