命短し孤悲(こい)せよ乙女 演劇台本
命短し孤悲せよ乙女
登場人物 立旗結子
山崎流歌
岡田太一
長本敏幸
FI 部室、机がいくつか並べられてるなか、結子と流歌はしゃべっている。少し離れたところで長本が携帯をいじっている。
上手から岡田が走り込んでくる。
岡田「大変だ大変だ大変だ大変だ大変だたいへ!(転ぶ)」
結子「先輩大丈夫ですか!(すぐ駆け寄る)」
流歌「何があったんですか?」
長本「おいおい、大丈夫か?」
岡田、言われている間に立ち上がる。
岡田「春大会が中止になった!!」
三人「えーー!!」
岡田「一週間前にホール使った団体が音響機材ぶっ壊したらしい。そのせいでしばらく演劇団体には音響貸してくれないんだと。今、森田先生が詳しいこと聞きに行ったけど、春大中止は間違いないってさ」
結子「そんな…あんなに練習したのに!」
岡田「そうだよチクショーーー!何のために俺があの厳しい内部受験突破したとおもってるんだよ……春大会でるために決まってんだろこのやろう!!名前知らんがその団体今からめっためたに」
長本「落ち着け」
岡田「いってえな!」
長本「それで、森田先生他になんて言ってた?」
岡田「えーと、今日はもう時間ないから帰れだと。一年二人にはもう伝えたって」
長本「わかった。じゃもうみんな帰ろ」
二人「はーい」
結子、流歌、喋りながら帰る準備。
長本「じゃあな」
結子・流歌「さようなら」
岡田「山崎」
流歌「はい」
岡田「お前ちょっと残れ」
流歌「え?」
岡田「予算どうすっか話し合えって森田先生から。長くなりそうだから立旗は先帰っていいぞ」
流歌「わかり……ました。(不審顔)じゃあ結子また明日ね」
結子「うん。じゃあね」
結子、帰る。
流歌「それで、本当は何の用ですか?」
岡田「バレた?」
流歌「当然です。だってうちの予算会議がそんなに長引くわけないじゃないですか」
岡田「さっすがー、流歌ちゃんマジ名探偵」
流歌「気持ち悪いです。さっさと要件を言ってください」
岡田「うわひどっ!まあいいや山崎、ちょーっと相談があるんだけどさ」
FO。音楽。
FI。音楽終了。一週間後。結子、流歌、上手から二人で下校中。
結子「はー緊張した。バレンタインってやっぱ緊張するよね」
流歌「………うん」
結子「でも岡田先輩喜んでくれてよかったー。まあ絶対本命だってわかってないだろうけど。」
流歌「………でしょうね」
結子「まさかそのまま長本先輩に渡そうとするとはね、流石にあれには泣きたくなったよ…。せっかく中身岡田先輩だけ特別仕様にしたのにさ。」
流歌「………うん。」
結子「でもほんと流歌ありがとね、買い出しから何まで手伝ってもらっちゃって。私一人じゃぜったいあのチョコケーキ作れなかったよ。」
流歌「ああ、いいよあんぐらい」
結子「ねえ、流歌最近どうしたの?なんか元気ないよ?」
流歌「………。」
結子「そりゃ、春大中止になったのはショックだけど、もう一週間だよ、次のこと考えようよ。」
流歌「………ごめん」
結子「………で、流歌、ちょーっと相談があるんだけど」
流歌「岡田先輩のことだったら断る」
結子「先手打たないでよ!」
流歌「はいはい。で、どうしたの?」
結子「来月にプロムがあるじゃん?」
流歌「プロム?」
結子「そうそうプロム!なんとしても岡田先輩に誘われるにはどうしたらいいかと思ってさあ~」
流歌「………(気まずい表情)」
結子「あれ?もしかして流歌プロムの存在忘れてた?」
流歌「いや覚えてるけど………一応説明しないとお客様がわからないかもしれないでしょ」
結子「(客を見ながら)あー、はいはい。もーしょうがないなあ。説明しよう!プロムとは、簡単に言っちゃえば卒業を記念したダンスパーティーのこと。みんなで正装してダンスしたりごちそう食べたりするの!で、基本は卒業生のパーティーなんだけど原則男女ペアでの参加だからか卒業生に誘われれば下級生も行けるの!そして学生にとっては最後の告白のチャンスなのだ!」
流歌「作品の都合のための都合のいい紹介ありがとうございます」
結子「どういたしまして。」
流歌「それで、プロムがどうしたの?」
結子「今年岡田先輩が卒業しちゃうじゃない。だから何とかして、プロムに誘われたいんだけど、なんかいい方法ないかなあ?」
流歌「今年卒業するのは岡田先輩と長本先輩でしょ。………無理じゃね」
結子「何でよー?そりゃあ、先輩にはもしかしたら好きな人がいるかもしれないよ、でも先輩ってぶっちゃけモテないし、ヘタレだから絶対誘えてないよ。プロムってうちの学校的にはバレンタインより重大なイベントだし、相手いないってかなりキツいらしいから焦ってるとこ狙えばなんとか………」
流歌「お前さりげなくひどいな!いやそう言う意味じゃなくて」
下手から岡田登場。二人の後ろから驚かせようとするような動作で。
岡田「よう!」
結子「うわ!岡田先輩!」
流歌「どうも……」
結子「どうしたんですか?」
岡田「ちょっと山崎に用があってさ」
結子「え?」
流歌「………」
岡田「衣装できた?」
流歌、後ずさる。
岡田、流歌に近づく。
結子、聞き耳を立てる。
岡田「(小声で)プロムだよ」
流歌、必死にごまかそうとする。
岡田「(大声で)プロムだよプロム!」
流歌「………はい」
結子「え!?」
流歌「いくつか直すところはありますが、大体出来てます」
岡田「おー流石だなあ。よーし!俺もいっちょ頑張るかあ!じゃあな!」
岡田、走り去る。
結子「流歌」
流歌「………。そういう、ことです」
結子「………。」
流歌、目線をそらす。
結子下手に、走り出す。
流歌「結子!」
溶暗
結子、反対側まで走り靴を脱いで待つ。
流歌、そでから衣装と裁縫セットをもらい、制服から着替え、靴と制服をバックにしまって座る。
溶明
流歌の部屋(二階)。流歌、プロム衣装(男物)製作中。
一階から流歌の母の声
流歌の母(声のみ)「流歌ー夕飯できたから降りてきなさーい」
流歌「まだ途中なのー」
流歌の母「いいから、冷めちゃうわよー」
流歌「はーい」
階段をドタドタ歩く音が聞こえる。
結子「この裏切り者―!!!(上手から入ってくる)」
流歌「うわ!」
流歌の母(声のみ)「結子ちゃん久しぶりねいらしゃーい!お夕飯食べてく?」
結子「大丈夫ですお構いなくー!」
流歌「もっといろいろ突っ込むところあるよね母さん!?」
結子「まあいいじゃない。そんなことよりもっと大事なことあるよね?」
流歌「取り敢えずなんで今うちに来たの?」
結子「頭の中ごちゃごちゃになりながら走ってたらなんかついた」
流歌「本能に忠実すぎない!?」
結子「だからそんなことはどうでもいいでしょ。つかその服何?」
流歌「…プロムの衣装」
結子「ふーん、本当に岡田先輩と行くんだ。ねえ、なんで岡田先輩とプロム行くの?私が岡田先輩好きって知ってるよね?」
流歌「頼まれたの」
結子「は?」
流歌「だから、頼まれたの。誘うような相手もともといないから数少ない女子の知り合いに頼んだんじゃないの?」
結子「答えになってないわよ!頼まれたからって断ればいいじゃない」
流歌「そういうわけにも行かないじゃない。先輩なんだし」
結子「何言ってんのよ、ちょっとその日は空いてませんごめんなさいですむことじゃない。もともと2年生はプロム行かないんだからさ」
間。流歌。
結子「なによ!結局流歌も岡田先輩のこと好きだったって事?」
流歌「そんなことあるわけないじゃない!」
結子「じゃあなんで断れないのよ!?」
流歌「だーかーらー、頼まれたって言ってるでしょ!先輩の頼みなんだから断れるわけないじゃない」
結子「なんでよ、プロムのお誘いでしょ、部活じゃないんだから。そしたら自動的に数少ない女子の知り合いの私に誘いが行くんだしさ」
流歌「いや、それは……」
結子「じゃあ、何?それとも岡田先輩は流歌のこと好きだって事?だから私に誘いが行くのはありえないってこと?」
流歌「それもありえない……」
結子「じゃあ何がありえるのよ!?」
流歌「………。」
結子「あーあーもうわかったわよ。結局そういうことなんでしょ」
流歌「なによ」
結子「流歌結局岡田先輩好きなんでしょ。だったら初めから言えばいいじゃない。こんなところで急に裏切るなんてさ。十年も一緒にいてこんな事になるとは思わなかったわよ」
流歌「なんで私があんなただの役者ばか好きになんなきゃいけないのよ!」
結子「違うもん!すごい役者馬鹿だもん!」
流歌「ああそうですか、じゃあ聞くけどさ、仮に私があの役者馬鹿好きだったとしてさ、そうやってさも自分の恋愛感情優先してもらって当然って態度は裏切りじゃないの?あんたは特別なの?」
結子「!…いやだって聞いてない…」
流歌「しかもさ、普通友達が同じ人好きだったんだって気づいたらちょっとは悩まない?それをすぐに裏切りってさあ、 結局あんたの友情ってそんなもんなんだね。本当、十年ってなんだったんだろうね」
結子「じゃ、じゃあなんで言ってくれなかったのよ!」
流歌「だから仮にの話だって言ってるでしょ。私はあんな役者馬鹿好きじゃない」
結子「じゃあ何でそんなこと言うの。」
流歌「当たり前じゃない!私だって傷つくんだよ!」
流歌の携帯電話が鳴る。
流歌「岡田先輩、どうしました」
結子「!」
流歌「ああ、わかりました。その件ですね。あ、ちょっとお待ちください」
流歌、一度電話から顔を話す
結子「岡田先輩?」
流歌「そう。衣装気になるから明日着させてくれだって」
結子「!?」
流歌「結子さあ、もう帰ってくんない。いつまでも裏切り者の家にいるなんて随分勇気あるね」
間
流歌「だいたいさあ、数少ない女子の知り合いの最初に私を誘った時点で、あんたの恋愛は終わったも同然じゃん。いちいち騒がないでよ。」
結子、流歌に平手打ち。
流歌「恋愛のためならこんなことも許されるんだ。ああ怖」
結子、帰る。
流歌の母(声のみ)「結子ちゃんもう帰っちゃうの?またね」
流歌「あ、すいません。はい、はい。わかりました。じゃあ、その日に……」
流歌、電話を切ってから泣き崩れる。FO
午後七時ごろ、長本が上手から歩いてくる。学校帰り。
そこに下手から結子登場。
長本「おー立旗じゃん、どうしたこんな時間に……え?」
結子、ふらふらした足取り。
結子「本当になんなのこの状況何が起こったの信じたくない信じないブツブツブツブツ(流歌に対する呪いの言葉を小声で)」
長本「おーい。立旗ー立旗ー?」
結子「あ、長本先輩」
長本「ど、どうした?」
結子「ちょっと失恋しただけです」
長本「は?」
結子「嫌ねえ、聞いてくださいよ。ははは。岡田先輩ね、流歌のこと好きだったんですよ」
長本「は?」
結子「流歌も岡田先輩すきだったみたいなんですよねえ。あたしゃとんだピエロだよ」
長本「はあー!?」
結子「あ、そうだ」
長本「な、何?」
結子「先輩もプロム行きますよね?」
長本「え、えっと…」
結子「やっぱり相手いません?」
長本「うるせえ!!」
結子「ならちょうどよかった。先輩私を連れてってくださいよ」
長本「え?」
結子「このままじゃ終われませんよ。最後まで、最後まで見届けないとふふふ………」
長本「わかった!連れてく!連れてくから落ち着いて!」
結子「わーい!」
長本「なんでこんなことに………そういえば、立旗ドレスどうするの?」
結子「え?」
長本「プロムは正装で行かなきゃいけないじゃん。そういうものは早いこと用意したほうがいいぞ」
結子「あーそういえばそうですよね。どうしよう今月小遣いピンチだ!」
長本「おいおい。うーんそうだな………立旗明日ヒマ?」
結子「はい?」
長本「部室に俺の布置いてあるから作ってやるよ。一週間ぐらいでできるかな」
結子「いいんですか!?」
長本「当たり前だろ!我が演劇部の衣装係は誰だ?」
結子「長本先輩です!」
長本「よし、じゃあ決まったな。じゃあ、明日一時に部室でいいか?」
結子「はい。ではまた明日!」
結子、上手に向かって走る。退場。
長本「お、おい!………まあいいや、俺も帰ろう」
長本、下手に向かって歩く。退場。
溶暗
部室。長本、既に布と裁縫道具一式持っている。
溶明。
結子が上手から入ってくる。
長本「おはよう。さっそくで申し訳ないけどサイズは前回の公演のままで大丈夫だよな?」
結子「おはようございます。大丈夫です!」
長本「布はあのなかから選んで(後ろに置いてある箱を指差す)」
結子「あ、はい」
長本、結子に本を渡す。
長本「そっから好きなデザイン選んで。どれでもいいぞ」
結子「はーい……」
間。
長本「な、なんだよ」
結子「この本先輩の私物ですか?」
長本「そうだけど」
結子「前々から思ってたんですけど……先輩ってこっちですか(オカマのポーズ)」
長本「なんでそうなるんだよ!?」
結子「だってこんなドレスの本、男の人が持ってるってそれしか思いつかないんですけど!私より女の子なんですけど!」
長本「偏見すぎるだろ!だいたいその考えで言ったら家には男の服の本も子供の服の本もペットの服の本もあるし小物、刺繍、編み物もあるぞ!」
結子「つまりオカマですね。素敵です!女子力ください!」
長本「おい!まあ、いいよ演劇部立ち上げる前はそんなこと言われなれてたし」
結子「え?」
長本「あ、言ってなかったけ?この演劇部俺と太一の二人で立ち上げたんだよ」
結子「えー!」
長本「俺とあいつは幼稚園からの付き合いなんだけど、俺その頃から裁縫好きでさ。まあ、周りからは気味悪がられてたんだけど、あいつだけはすげえじゃんって、認めてくれたんだ。で、高校入学決まった時あいつが、『俺は、役者になりたい。お前は、デザイナーになりたい。つまり、高校でやるべき部は同じだ!そう演劇部だ!な、やろやろ!』って」
結子「へー。岡田先輩らしいですね」
長本「だよなあ………ところでさ?」
結子「なんですか?」
長本「なんで俺にプロム行くの頼んだの?俺てっきり太一誘って行くもんだとばかり思ってたんだけど」
結子「え!な、なんでそこで岡田先輩ですか!?」
長本「え、だって、立旗、太一のこと、好きだろ」
結子「なんで知ってるんですか!?」
長本「知ってるもなにも……昨日思いっきりそんな感じだったし、太一以外の部員皆知ってることだけど」
結子「えー!!」
長本「立旗と山崎入ってきて三ヶ月くらい経った頃かな。なーんか立旗の太一に対する愛想が異様に良くなったなあと」
結子「……」
長本「で、そっから二ヶ月たった頃かなあ?なんか、太一見つけたらすぐ駆け寄るし、声がツートーンぐらい高くなってるし、どんな時でもフォローするしで、あ、これは確実だなと」
結子「そんなわかりやすかったですか?」
長本「わかりやすいもなにも、一年二人なんか入部して三日で気づいたぞ。『せんぱーい、私たちが岡田先輩に話しかけると立旗先輩絶対わってはいってくるんですけどそういうことですか?』って」
結子「こ、恋してたら誰もがそうなっちゃうんです!」
長本「でもだからって後輩ビビらしていいってわけじゃないだろ」
結子「はい。まあでももう大丈夫です。もう終わった恋ですし」
長本「いやだからさあ、それどういうこと?そういえば昨日もそんなこと言ってたよな」
結子「そんなことって?」
長本「太一と山崎が付き合ってるなんていう恐ろしい話。一体何を勘違いしたらそうなるんだ?」
結子「勘違いなんかじゃありません!だって岡田先輩流歌をプロムに誘ったんですよ、流歌それ受けたんですよ!」
長本「え!?それ本当?」
結子「本当です!どうして私がそんな嘘つかないといけないんですか!?」
長本「わかったわかった落ち着け。な」
結子「…はい。」
間
長本「あのさあ、なんであいつらが一緒にプロム行くのかはわかんないけどさ、少なくともあいつはそういう関係ではないはずだぞ」
結子「何でそんなことわかるんですか?」
長本「まず、太一が恋愛してたらすぐ俺気づくよ、あいつ本当にわかりやすいし」
結子「え?」
長本「あと山崎はさ、いつも立旗フォローしてたじゃん。太一好きな上であのフォローはないだろ」
結子「?」
長本「あいつからはよっぽどのことがない限り太一には近づかないし、太一と喋るときは無理ない程度に立旗いれるし、連絡事項だって岡田に回す時は立旗から回せるようにするし、一年ビビらしたときはフォロー入れるし」
結子「流歌そんなことしてたんですか!?」
長本「気づかなかったの!?」
結子「………。」
長本「はー、あとこれは俺の想像だけど」
結子「?」
長本「スッゲーくだらないことでいちいち恋愛相談してたんじゃないのか」
結子「く、くだらなくなんかないです」
長本「『岡田先輩に話しかけても反応薄かった!私嫌われたかも!』て、甲斐にメール出してただろ」
結子「何で知ってるんですか!?」
長本「二、三回俺のとこに間違いメール来たんだよ」
結子「嘘……」
長本「一体どうやったら山崎と長本を間違えんだよ」
結子「すいません」
長本「とにかくそこまでやってんのに山崎が太一のこと好きっていうのはありえないだろ」
結子「で、でも流歌何で一緒にプロム行くか教えてくれなかったんですよ、それに岡田先輩に近づかなかったって言いますけど流歌のほうが岡田先輩と仲良かったじゃないですか!」
長本「え?」
結子「そーですよ流歌の方が岡田先輩といっぱい喋ってましたよ!流歌と喋ってる時の方が絶対楽しそうだったし。私とはあんまし会話続かない時も多かったのに!」
長本「それは立旗が意識しすぎててあんまり喋れなかっただけじゃ……」
結子「そりゃあそおですよね、こんな私と喋ってるより流歌のほうがいいですよねー」
長本「おいなんか話が脱線してねえか」
結子「本当に流歌の言うとおりよねえ、岡田先輩だってどうせ一緒になら私より美人の流歌のほうがいいわよね」
長本「おいいい加減にしろ!」
結子「?」
長本「太一はそんな奴じゃねえよ!誰も相手いないんだったら初めからいかねえよ」
結子「だ、だって。」
長本「だってじゃねえよだいたいさっきから聞いてたらほとんどお前の主観じゃねえか。本当に山崎の話ちゃんと聞いたのか?」
結子「それは………。」
長本「大方、まともに聞かずにあれこれ喋って甲斐もブチギレてケンカってとこだろ」
結子「だってしょうがないじゃないですか!流歌は裏切ったんですよ!おかしいじゃないですか、なんで友達が好きな人と仲いいんですか、それは裏切りじゃないんですか!?」
長本「おかしくはねえだろ!山崎だって、お前以外との人間関係があるんだよ!なんでお前基準で甲斐が動かねえといけねえんだよ!」
結子「それは………。」
沈黙。
長本「立旗、お前ら、友達になってから何年立つ?」
結子「え?確か…十年です」
長本「そっか。俺と太一もそんぐらいなんだけど………十年ってさ、いろいろあるだろ」
結子「はい。」
長本「いろいろケンカもするじゃん?お互いに対して甘えも出てくるし。お互いに一番触れちゃいけないとこだって触れちゃったりするだろ?」
結子「………はい」
長本「でもさ、それってお互いに信用があるからじゃん」
結子「はい。」
長本「恋愛って、そんなに重いか?友達無くしてもいぐらいに?」
結子「!?」
長本「なあ、恋愛ってそんなに大事か?親友失ってもいいくらい?教えてくれよ?なあ?」
長本、結子に詰め寄る。結子、後ずさる。
長本「なあ!?」
間。
結子、崩れる。
結子「わかんないです。わかんないです」
結子泣き出す。沈黙。
長本「ごめん」
結子「先輩は悪くないです。そうです。その通りです。私何してるんだろう」
結子、涙がとまらない。長本、ティッシュを出す。
長本「はい」
結子「すいません」
長本「気にすんな」
沈黙。
長本「あーもうあれだ、お前もう帰れ」
結子「え?」
長本「俺がいたら泣きづらいだろ?家帰って、ゆっくり考えろよ、甲斐のことも太一のことも」
結子「え、でもそういえば私布もドレスも選んでないですよ」
長本「大丈夫大丈夫。俺が全部うまくやっとくから」
結子「え!?」
長本「言ったろ、俺デザイナーになりたいって。だから早く帰れ」
結子「………ありがとうございます。しっかり考えます!」
長本「おう」
結子、帰る準備。部室を出る(上手に行く)直前で振り返る。
結子「あ、そういえば先輩」
長本「なんだ?」
結子「今の話まとめると、流歌好きな人いないってことですよね」
長本「……あ、ああ」
結子「いやー、さっき先輩めっちゃ流歌かばってたじゃないですか。なかなか愛がないとあそこまで出来ませんよお。このこの!」
長本「え、違う」
結子「せめてものお礼の情報提供でした!それでは」
結子、走って帰る。
長本「そうくるかあ。つうか俺今日何やってんだろう」
長本、座り込む。上手から男装した流歌が入ってくる。長本と目が合う。
流歌「ま、愛されちゃった。おう、まいっちんぐ(棒読み)」
長本「ふる!って、いつからいたの?」
流歌「先輩ってこっちですか(オカマのポーズ)あたりからですね」
長本「結構最初からいたのな。つうか、聞いてた?」
流歌「はい。ちょっと用事があって来たらこんなことになってて入れなかったんです」
長本「まーなー。なあ、山崎、女子ってみんなああなの?立旗ってさあ、いつもはすげえいい奴じゃん?俺がドレスなんか作っても引かないしさ」
流歌「そうですね」
長本「そんな奴でもさ、恋愛になるとなんていうか、自己中にになるんだな」
流歌「その通りですね。ごく一部例外もいるのかもしれませんが女子にとって恋愛って命ですからね。友達のことなんかどうでも良くなっちゃうものなんですよ。結子以外でそんな子見たことあるんですか?」
長本「中学のとき家庭科クラブだったんだよ。俺自身は手芸オタで気持ち悪いって浮いてたけど、女子の集団っているだけでいろいろあるんだよ」
流歌「ご愁傷様です。」
長本「変な話だよな。友情だって恋愛だって大事にしないといけないんだけどな」
流歌「先輩って大人ですね」
長本「面倒臭い人間と友達やってると、大人だねって言われるようになるんだよ」
流歌「それは何かわかります。ところで先輩」
長本「なんだ?」
流歌「幻滅しないんですか、結子のこと」
長本「幻滅?」
流歌「普通好きな子にあそこまで醜態見せられたらちょっとはしません?」
長本「あー、それ聞くかあ?」
流歌「お願いします」
間。
長本「まあ、気持ち自体はわかるからな」
流歌「というと?」
長本「………去年の秋ぐらいにさあ、太一が、俺が誰が好きなのか気づいたんだよ」
流歌「うわあ」
長本「で、そっから俺と立旗くっつけようと余計なお世話始めちゃってさあ」
流歌「で、よりにもよってお前がそれやるのかってことで大喧嘩ってところですか?」
長本「『立旗の好きな奴聞いてくるぜ!』て言った時が一番ひどかったなあ」
流歌「それは、怒りますね」
長本「で、あいつとの仲違いは結構続いたんだけどそのうち気づいたんだよ。これ、別に誰も悪くないよなって。確かに太一はありえないくらい鈍いけど、もともとわかった上で友達になったはずだし、もっとひどいことされたこともあるのになんで今こんなに怒ってるんだろうって」
流歌「ああ、なるほど」
長本「そのうち、恋愛事に引っ張られるのが馬鹿らしくなっちゃって、仲直りしたんだよ。だからまあ、立旗の気持ちもわからないではない」
沈黙
流歌「あの、先輩。大丈夫ですから」
長本「ん?」
流歌「あの子がどんな答え出すにしろ、部活に迷惑はかけません。表面上は何事もなかったように接します。あの子が望んでもいないのに友達に戻ろうとするストーカーみたいなことなんてしません。だから安心してください」
長本「勝手に決め付けてんじゃねえよ。お前も本当に人の話聞かねえなあ」
流歌「でも」
長本「そりゃ人によってはやっぱ恋愛のみが大事かもしれねえけどよ。あいつはそんな奴じゃねえよ。お前が一番知ってんだろ」
流歌「本当、愛がないとそこまでかばえませんよ」
長本「お前も同類だろ」
流歌「それは言わないでくださいよ!」
長本「!?…あ、わ、悪い!そうだよな、お前らは友達だよな」
流歌「そうです友達です。でも、どんなにつくしても、所詮恋愛には負けるんですよ」
長本「つくしてるって思ってる時点でお前の負けなんじゃねえの」
流歌「………はい」
長本「………そういえばそのかっこう何?」
流歌「これは………」
間
岡田(声のみ)「おーし、やっと着れたぞお!」
長本「えー!!!」
FO。音楽。
中央に人二人が踊れる程度の台。スポットライトがぐるぐる回っている。アナウンスが流れてくる。
アナウンス「レディースアーンドジェントルメン!さあ、はじまりましたプ・ロ・ム!体育館きれいですねえ。お前らー卒業できたか?相手は見つかったか?私は見つかんなかったよワーン!まあ、それは置いといて、今更ですがプロムの説明をしまーす。プロムとはアメリカやカナダの高校の学年最後に行われるダンスパーティーのことです。えーなんで日本でやってるかだってー、ここ私立校で理事長がアメリカ人なんだよ適当設定なんだよ文句言うな!も、置いといて、まあなんか最初は社会でうまくやていくための最後のマナー講座みたいなのが、だんだんイベントになったぽいよ。まあ、とりあえずはめ外さない程度に楽しんどけ。それではプロムスタートです!!」
音楽消える。一旦光が消えって客席前に。客席の入口から正装した長本が入ってくる。
長本「おー来た来た、こっちこっち。遅いぞー」
少し遅れて客席入口から正装に上着をきた結子が現れる。
結子「ご、ゴメンなさーい」
長本「どうしたんだよ?」
結子「服汚さないように化粧したりとか似合うアクセサリー探すの大変だったんですよ」
長本「お、おう」
結子「しかも家出る直前になってよく考えたらこの格好めちゃくちゃ恥ずかしいことに気づいて、慌てて上着探したんですよ。こんな素敵なドレスにあう上着なんてどこ探してもなくて、結局お母さんに借りたんですよ」
長本「そっか。大変だったな」
結子「本当にありがとうございます。先輩」
長本「ん?」
結子、上着を脱ぐ。
結子「どうですか似合いますか?」
長本「おー流石俺」
結子「そっちかい」
長本「当たり前だろう、着てくれる人に似合うように作れなきゃ服飾デザイナーになんかなれるわけねえだろ」
結子「そうですねえ。いいなあ先輩は」
長本「どうした急に」
結子「はっきりした夢があって。そういう人ってすごい魅力的っていうか。芯がしっかりしてるから根本がブレないじゃないですか。私もそういう人だったらもっと岡田先輩に自信持って近づけたのかなあって」
長本「…。もうやめなそういう羨ましがりは、それにもう終わったように言うなよ」
結子「え?」
長本「俺ら内部受験じゃん。大学近いんだから来ればいいだろ」
結子「え、でも、私もともと今日は玉砕するつもりで……」
長本「いいからいいから、もうとにかく中に入ろう。」
結子「はい。あの、先輩」
長本「なんだ?」
結子「この一ヶ月悩み抜きましたがちゃんと答えを出せました!」
長本「おし、じゃあ行くか」
結子、長本、上手からステージに上がる。舞台中央にスポット。舞台に出た途端アナウンス。
アナウンス「さあ、皆さん盛り上がってまいりました。楽しんでますかあ、ダンスにおしゃべりにお食事とお楽しみでしょうがここでプロムの余興に入らせていただきます。まずは演劇部から(ここにこれをやる演劇部ができるネタを入れる。)です。どうぞ!」
下手から男装した流歌と女装した岡田が入ってくる
結子「え!?」
そのまま台の上できて余興開始。
余興終了。舞台全体にライト。
アナウンス「以上演劇部でしたー。みなさん引き続き、食事とおしゃべりとダンスをお楽しみください」
岡田流れで下手に退場して、流歌は降りてくる。
流歌「よ!」
結子「よじゃないよどういうことよ」
流歌「あーつまり……」
長本「懐かしいな、芸人道中膝栗毛」
結子「何ですかそれ?」
長本「まだ演劇部に俺と太一しかいなかった頃に秋大でやった劇。太一が書いたんだよ」
流歌「売れないお笑いコンビがただひたすらネタを考えるだけの劇。今のはその時出てきたネタの中のひとつ。」
長本「あんときは太一が女装するとこだけが売りだと思ってたけど、こうやってみると結構面白いなあ」
流歌「ありがとうございます」
結子「つまりどういうことよ!」
流歌「つまり、春大中止になったじゃん?でも岡田先輩卒業前になんかどうしてもやりたかったんだって。そこでプロムの余興のことを思い出したんだけど、プロムの余興じゃせいぜい五分が限界じゃん。で、思い出したのが今回のネタ。ここまでOK?」
結子「うん」
流歌「で、どうせやるんなら自分女装だし、相手男装がいいなって思ったんだって。そこで白羽の矢が立ったのが私と結子。一年生とはどういうわけだか岡田先輩仲良くないからね」
結子「うぐ」
流歌「どっちがいいかなあ、て考えたらいろんな意味で私のほうが男らしいってことで声掛けられたわけよ。」
結子「そんな理由!てか長本先輩知ってたんですか?」
長本「あんとき立旗が帰ったあと打ち合わせ中のこいつらに遭遇したんだよ」
結子「はあ、何で教えてくんなかったの?」
流歌「先輩がみんなを驚かしたいから秘密にしてくれって」
結子「てか先輩なんで二人でしかできないものにしたのよお。最後に演劇部で何かやりたいならみんなでできるものにすればいいのに」
流歌「それは……」
下手から岡田登場。まだ女装中。
岡田「よう!」
結子「岡田先輩!」
岡田「どうだった俺たちの余興!」
結子「最高でした!すごい面白かったです!」
流歌、長本。すこし引き気味。
岡田「お、そのドレス、敏幸が作ったんだろ。すげー似合うじゃん」
結子「本当ですか!!」
岡田「さっすが敏幸だよなあ。よく見てんなあこのこの」
長本「うるせえよ」
岡田「うんうんよかったよかった。(一瞬流歌を見て)あ、そうだ敏幸」
長本「なんだよ」
岡田「このドレスさあ、一昨年のだろ、実は後ろのボタン取れちゃったんだよ」
長本「何?」
岡田「ここから部室まで近いだろ?急いで部室で直してくんね?立旗と踊るのはその後でいいだろ?」
長本「あーわかったわかった。じゃあちょっと行ってくるな」
岡田、長本、小走りで下手へ、岡田途中で振り返る。
岡田「山崎、立旗」
二人「「?」」
岡田「何があったのか詳しくは知らねえけどちゃんと仲直りしろよな。お前ら十年来の親友なんだろ?そういう絆は貴重なんだから大事にしろよな。あと甲斐、俺はお前のことも応援してるからな」
岡田、下手へ退場。
流歌「誰のせいだと思ってるんだよこの三流役者(小声)」
結子「流歌?」
流歌「何でもない」
沈黙。
二人「「あのさあ、あ……。」」
沈黙。
結子「ちょっと外出ない」
流歌「うん」
流歌、結子、上手から客席前に降りる。中央にスポット。
結子「私ね、長本先輩に言われてから一ヶ月、いろいろ考えたの。私、確かに恋愛優先するの当たり前だと思ってたなって」
流歌「……」
結子「そのくせ、態度分かりやすいくせしてこの二年間アプローチ必死になりすぎて周りどころか岡田先輩のことまでちゃんと見てなかった……、恋する乙女失格だよね」
流歌「そんな事……」
結子「しかもさ、あんなにいっぱい話聞いて協力してくれた流歌のこと勝手な理論で疑ってさ、いつもだったら信じられたんだよ、でも、それが恋ってだけで暴走してた」
流歌「……」
結子「まあ、まさかこんな理由だったなんて冷静だったとしても思いつかないけど、でも自分が最低だったのはわかってる」
流歌「そんな!私だって、あんな状況じゃ分かるわけないのに勝手に傷ついて怒って……本当にごめん」
結子「ううん、私が悪いの、変だよね、何か、流歌だったら協力してくれて当たり前って本気で思ってた。馬鹿だよね、友情だって恋愛だって大事にしなきゃいけないのにね。友達だから大丈夫ってないがしろにしてた」
流歌「結子……、そんなこと言ったら私だって、こんだけ結子のこと思ってやってるのになんでわかってくれないのって、怒ってた。やってあげてるって思う時点でダメなのにね」
結子「流歌………ええい、まどろっこしい!」
流歌「!?」
結子「とにかく私は一ヶ月考えて決めました。恋愛も友情もどっちも大事!だから流歌、今までごめん、これからはどっちも大事にする。うまくできるか分かんないけどやるだけ頑張る。だから流歌、これからも親友でいてくださいお願いします!」
結子、手を差し出す。流歌、少し間をあけてその手を握る。
流歌「当たり前だよ」
ダンスの音楽が流れる。
流歌「あ、音楽変わった?」
結子「本当だー。なんか聞いたことある」
流歌「懐かしいなあ。昔この曲はまってさあ、ダンス一人で練習してたんだよね」
結子「へー、何か意外」
流歌「せっかくだからさ、一緒に踊らない」
結子「はい?」
流歌「私これ男性パートも踊れるからさ、リードするよお」
結子「え、でも私たち女同士だし……」
流歌「いいじゃん。私どうせこんな格好だし」
結子「でも一応男女ペア参加が原則だし……」
流歌「いいよなんか先輩たち戻ってこないし、それとも何?長本さんと踊りたい」
結子「いや全然」
流歌「可哀想に」
結子「なんか言った?」
流歌「何でもない。それに私もあんな三流役者とこれ以上踊りたくな。」
結子「ひどっ、いくらなんでも失礼じゃないその言い方」
流歌「あんな三流役者より」
流歌、結子の手を取り、気取ったダンスを誘うポーズ。
流歌「お姫様と、踊りたいんだけどなあ。(わざとらしく気取る)今日はいつもより、可愛いよ」
結子、しばらく硬直しているが、吹き出す。
結子「ふ、……あははははははっ。かっけえ、流歌かっけえ。そりゃ岡田先輩も流歌に男装頼んで当然だよねえ。あははは」
流歌「…鈍感」
結子「なあに?」
流歌「何でもない。まあ。踊りましょうよ」
結子「うん!」
結子、流歌、踊りだす。音楽大きくなる。そのまま下手に退場。
幕