9.お伽話とベッドの上
ちょっと7話の方で補足しておきます。もうちょい先の事を考えながら描写できるようになりたいですね……
ちょこっと途中を改正。
心臓の鼓動がとてもうるさい。
俺の背中の向こうには今アルイさんがいるんだ。
アルイさんの寝息が聞こえる。
ああああああああぁぁぁ!
忘れてたぁぁぁぁぁあああ!
そういえば今日の昼間に同じベッドで寝るって言ってたなぁ!
それは日本でいうと数時間前……
スープ、うまっ!?
こんな村でしか食べられないようなものがうまいはずがなかった。口の中に自然の味が広がる。
それにしてもなんでスプーンはなかったのだろうか?
インド的な感じで食べる時は必ず手を使うとかだったのかもしれない。
それを昔の代から繋げていたからそうやって食べるものだと完全に認識していたのかもしれない。
そういうことだろう。
そうじゃなきゃちょっと……ありえないだろう。
うん。
「キュイアーサン。スープ、オイシイ」
「~~~よかったわ! ~~~~作った~~があったわね!」
素直な感想に喜ぶキュイアーさん。
まだ日常会話は分からないところがある。
1日2日で全て覚えられるとは思えない。
日々精進なり。明日も頑張ろう。
食事が終わりキュイアーさんが木の皿を片付け始める。
今日はただ飯食らいだった訳だし手伝いたい。
それと明日は仕事とかを手伝おう。元学生の俺はあまり体力には自信がないが。
片付け終わったのでみんな一休み。
俺は椅子に座りながらアルイさんが絵本を持ってきてもらった本棚を見つめる。
絵本は5冊あった。
その中に興味深い絵本もあった。
1つは龍と勇者の絵本。アルイさんは言い伝えだから本当のことではないと言っていたが、俺はこの世界に来て初日に龍を見た。
龍が天を昇るあの光景を見た俺にはこの絵本が言い伝えだとは思えない。
内容は龍が人の村を襲い、困っていた。
その龍を討伐するために勇者が旅をするというなんともありきたりな内容だ。
それともう1つは魔法使いと弟子の話。魔法使いの魔女は村の人に悪魔だと陰口をたたかれていた。その村に魔法を使えるようになりたいと志願する少年が来る話で、最後は魔女を逆恨みしていた村の人に襲われて致命傷を負い、魔女が少年に「お前は最初で最後の最高の弟子だった」と言う所で絵本が終わる。
後味の悪い話だが、俺にはこの絵本に出てくる少年と勇者は一緒なんじゃないかと思っている。
勇者と少年の絵の見た目は似ている。それだけなら偶然かもしれないが勇者は旅の中で魔法を使う。
しかも少年が魔法を使えるようになりたい理由は「世界を救う」ためだ。
たまたまそう思えるだけかもしれないが話の中のセリフや性格が一致している。
勇者の話で出てくる魔法は、魔法使いの話にも出てくる。
そこから考えられる事は2つ。
この絵本は本当の事ではないかということ。
いくら龍を見たとはいえお伽話の可能性はある。
たが、もし本当の事ならば、
この世界は魔法がある。
だが俺はこの世界に来てから1度も魔法らしきものは見ていない。
これも推測だけだ。
あったらいいなあ位に留めておこう。
そんなふうに考え事をしていると後ろからアルイさんに声かけられた。
「明日も早いし、もう寝ましょう」
もう寝るのか。ご飯中の時の会話の内容を聞こうと思っていたが仕方ない。
日本語で話しかけてくるのは俺の異世界語がまだまだだからだ。伝わらなくてぎくしゃくするよりかは良いだろう。
分かったと返事をして椅子から立つ。
アルイさんの後ろについて行く。
ん?
そういえば何か忘れているような……
ベッドが1つある部屋に移動した。見た感じ生活感があって客室、という訳ではなさそうだ。
アルイさんが髪を下ろし、靴を脱いでベッドに腰掛ける。
アルイさんの髪を下ろした姿は初めて見る。水色の髪が窓からの光で青く光る。
ついつい見とれていたらアルイさんは普通に寝はじめた。
んぅえ?
なんで寝んの?もしかしなくてもこの部屋アルイさんの部屋?
「あれ? 寝ないの?」
アルイさんが眠そうな眼で少し体を起こして俺に言う。
「ぇ、俺屋根裏部屋とか家畜小屋とかで寝るの?」
「?」アルイさんがきょとんとした顔になる。
「一緒に寝るんだよ?」
!?
「え!? いやいやダメだって!」
なんでそんな当たり前みたいな顔してんのアルイさん!
「もう、夜遅いし村の人達に迷惑かかるでしょ! そんな大きな声出さないの!」
なんで俺が怒られてるんだろうか?
「ほら、こっちこっち」
そう言いながらアルイさんはベッドの空いているところをポンポン叩く。
心臓の音がうるさくなる。
急に緊張してきた。元の世界で女性との関係がなかった俺にはこんなイベントでさえ燃えそうなほど顔が熱い。
仕方がないので靴を脱ぎ、ベッドに横たわる。
正直アルイさんの方には体を向けられない。
というかアルイさんは危機感なさすぎるだろ……!
こんな感じで悶々としていたら最初のようになり、その日はあまり眠れなかった。