5.異世界転生者発見
「ちょっ……ちょっと待って……!」
逃げる時よりかは遅くしてくれてるみたいだけど、山に慣れていない俺には充分過ぎるほどに速かった。
正直少女よりも体力がない事にショックが大きい。
俺の悲痛な叫びを聞き取ったのか結われた髪を振りながらこちらに顔を向ける。
「もっ……はぁ。はぁ……もう少し遅く……」
「ご、ごめんなさいっ!」
謝られた。こちらが遅いのが悪いというのに謝られると申し訳なくなる。
「あのっ……も、もう少し遅く……歩きますか?」
歩く……あれは歩いていたのか……
ゆっくり走ってたんじゃ……なかったのか……
「お、お願いします……」
しばらく歩いて体力が戻ってきた。
だが、森を抜けそうな雰囲気はしない。もしかしたら森の中にそのままあるのかもしれない。
俺の少し先を歩く少女は全く喋らない。こちらを向こうともしない。
俺が疲れて弱音を吐いたのに気付いたのは単に耳が良かったのかもしれない。
あとどのくらいで村に着くのか聞こうと口を開けようとした時、突然少女はこちらに振り向く。
「あ、あなたは……日本人ですか?」
思いもよらない質問に俺は驚く。
「なんで……? 知っているんだ?」
異世界だと思っていたのに、日本人という聞くことがないはずの単語にただ理解を拒み、質問に質問を返す。
「それは……その……私が、日本人だったからです」
余計混乱した。日本人?異世界なら俺しか日本人はいないはずじゃないのか?
勝手に決めつけていた先入観が崩れていく。
「あまり……前世のことは覚えていないのですが……私は、赤ん坊の頃から前世の記憶があったのです」
「この森に住んでいる人達の言葉を覚えて……日本に住んでいた時よりも充実した生活を送っていると思います」
少女の口から出る言葉をそのまま受け入れている時、ふと疑問が湧く。
赤ん坊の頃から?それってこの子は正真正銘の異世界転生者?でも前世の記憶はおぼろげらしい。
「私の村は日本語とは違う言語で話しています。知らない事があったら私に聞いてくださいっ」
同じ日本人だと分かったからか急に流暢に話す少女。この事を先程から言いたかったのか、顔に達成感が見える。
「じゃあ……村まではあとどのくらいですか?」
元々聞こうと思っていた質問を投げかける。
「あと……そうですね。10メルクくらいですかね」
「メルク?」
「あっ……すみません。メルクは時間の単位で10メルクだと……」
少女は悩んでいる。1メルクが1分というわけではなさそうだ。
「あと30分です!」
あと30分……
少女は自信たっぷりと残り時間を伝える。
しかし、すぐに不安そうな顔になる。
「あっ、待ってください。ちょっと、いや全然違うかも……」
「えーと、1メルクは、えと、日本では、どのくらい……うぅぅぅー」
すごく微妙に誤差があるのか、計算に悩む少女。顔を赤くして涙目になり唸っている。
できれば30分より短くなっている事を祈る。
頭がパンクしそうになっている少女を軽く慰め村に再度歩みはじめた。