22.失われた信仰
サフェダウン……
名前がいかにもフェダウンの近縁種って感じだ。
フェダウンと同じ緑色の肌をしているが、その体はフェダウンのようにお腹は出ておらず、服を着ていた。その服はアルイの着ている服にどことなく似ている。
「サフェダウンはフェダウンと違って私たち人間側の魔物なんです」
へぇー。サフェダウンは魔物なんだな。
「はい、私たちは大昔に人間に助けられて以来、人間の役に立ちたいと思っているのです」
サフェダウンがアルイの説明に補足する。
「大昔って、どのくらい前ですか?」
「100トルク前です。その時戦争があり、魔王軍が私たちフェダウンの食糧を奪って集めていたため、食糧難になったのです」
「え? 元々フェダウンだったんですか?」
「そうなんです。私たちがサフェダウンになれたのは、食糧難の時に助けてくれた勇者様のおかげなのです」
「勇者様の魔法によって醜い体からこのような人の姿のサフェダウンになれたのです」
俺の質問に快く答えてくれるサフェダウン。
「へえ、勇者ってすごいなぁ」
あの絵本の勇者だろうか?それに魔法という言葉。興味深い話だ。
サフェダウンについて歩いていくと、暗闇の中に1つの灯りが灯されていた。
洞窟だ。
その洞窟から松明を持った他のサフェダウンが現れる。
「人間だ! 久々に見たねえ」
「これは今日は腕を揮わなければね!」
「皆さん、おもてなし好きですね」
「そうです。サフェダウンは人間が好きですからねえ」
アルイもサフェダウンに感心している。
正直俺もここまで歓迎されるとは思わなかった。
サフェダウンたちが作ってくれた料理はトロベーカと山菜の炒め。
すごくうまそうな匂いに鼻孔をくすぐられる。
しかし、ここ最近の肉は少し気が進まない。
あのピョップの狩り以降、命について深く考えるようになっていた。
しかし作ってくれたものは粗末にできない。それはしっかり食べる。
右手に左手を被せる。これはあの村でみた食べる前の決まり事だ。
「いただきます」
サフェダウンから合図がでる。
この決まり事はどうやらご飯を作った人がいう決まりらしい。
さて、食べ……
ぅっ……
腐っている訳ではない。しかし、この料理にとてつもない拒否感を示す。
チラッとアルイの方を見るとどうやら食べるのを悩んでる様子。
「おやおや、食べないんですか?」
サフェダウンは心配して俺たちを……
いや違う。こいつ口元が笑ってやがる。
「これ……何が入ってる?」
「ちょっと……りょう」
「アルイも分かってるだろう? この料理は何か入ってる」
「くふふふふ、バレちゃったかー……」
サフェダウンはニヤニヤして薄気味悪い表情を見せる。
「やっぱり、狩人って勘が良いんかねぇ?」
「その料理に毒が入ってる事に気付くなんてね」
「毒!?」
俺とアルイは声を揃えて驚く。
「あれ? 気付いてなかった? あちゃーちょっと言うのが早かったかなー?」
「でも、関係ないけどね」
ぞろぞろと他のサフェダウンも武器を持って集まりだす。
「どういう事だ? アルイ」
「知らないですよ私も! 毒を盛るなんて聞いた事ありません!」
「そりゃそうだろ。皆生きて帰れなかったんだから」
俺たちの疑問に正直に答えるサフェダウン。
だが、その答えは俺たちを恐怖に陥れた。
「100トルクも前の事、当事者でもないのに俺らが人間にへーこらする必要あるかよ!?」
「ねえよな!!?」
「ねえよ!」
「俺らは関係ねえ!」
野次が飛ぶ。
「……どうやら当時の勇者の信仰は無くなってしまったみたいです」
「ま、そういうこったぁ。大人しく食われてくれ」
マジかよ……!
このまま食われるのは嫌だ!
アルイに目配せをする。
「どうしますか? 私は戦った方が良いと思いますよ」
戦う?俺にできるのか?実戦経験ゼロだぞ!




