18.作られた馬鹿
思ってた以上に1話の最初を早く使いました。
これ50話も行かずに終わりそうだなあ。
喋れるようになって気付いた事。
この村の人たちはどうやって生きてきたんだろうという事。
「ドマールさん! 木刀作ってくれませんか?」
「木刀……? なんでえそれは?」
ほらな。
「剣です。剣。木を鋭く加工して敵に大きな損傷を与える事ができるんです」
「初めて聞いたなぁ……そんな物で本当に攻撃が通じるのか? 殴った方がはええだろ」
殴って済むなら元の世界には剣なんてできなかっただろうなぁ……
とまあ、こんな感じで本来あってもおかしくない物が多くて困っている。
そして、今日は村の市場に来た。ドマールさんが作った大量のスプーンを持って。
アルイさんにこれ以上は必要ないと伝えたら、市場で交換してくるといいよって言われたから来たんだけど……
おいおいおいおい、一体いつの時代なんだ。
「……あの、これ、いくらですか?」
「いくら? なんだねそれは」
「あぁ、何でもないです!」
物々交換だと?せめて硬貨位あると思ってたのになぁ……
「君、君、その持っている物、なんだい?」
肩を叩かれて振り向く。他の村人よりも少し髭の濃い人だ。
「えっと、これは『スプーン』というんです。主にスープなどを掬うのに使って、食べる時口に運びやすくする道具です」
とりあえずスプーンの紹介をする。髭の濃い人は顎をさすって興味深そうに聞いている。
「しかし、それは1度しか使えない物では?」
は?何を言ってるんだこの人。
「いえ、水で洗えば何度でも使えます。大切に使えばそう簡単には壊れないので長持ちします」
「何!? そ、それは皿でも一緒なのか!」
髭の人は動揺している。嘘だろ?もしそうだとしたら皿は使い捨てしてたのか?
「はい、皿でもこのスプーンでも、洗えば綺麗になって何度でも使えますよ」
「こ、これは! 大発見だ!! 皿は洗えば何度でも使える!!」
は?いや、ちょ、え?
周りがざわめきだす。
「洗うと何度でも使えるってマジか!?」
「皿って洗えたの!? 何個も捨てちまったよ……」
こんな事ってあるか?どう考えてもおかしいだろ。
洗うというニュアンスは通じて、皿を洗うという常識は大発見。
矛盾といってもおかしくない。
「あ、当たり前だろ……?」
つい口から零れる。それを村人は聞き逃さなかった。
「当たり前ですと!?」
「ほ、他にはどんな発見があるんですか!」
「も、もっと俺たちに教えてくれ!」
その時、気付いてしまった。もしかして、「願い」って、そういう意味?
「な、なあ! もっと色んな事を教えてくれよ!」
「俺」が世界で1番頭が良くなれる……つまり、俺みたいな奴でさえ頭が1番という扱いになる……?
それじゃあ、こいつらは……
不気味だ。
なぜ、スプーンが無かったのか。なぜ、メルクが仕事という時間設定なのか。
なぜ、剣という物が無いのか。なぜ、皿を洗うという概念が無いのか。
気味が悪い。
「教えてくれよ! 出し惜しみしないでさぁ!」
俺よりも、無理やり馬鹿という設定が滲み出ている。
俺の「願い」は天使には届いていなかった。
なんで、俺は天使に勘違いされる「願い」をした。俺は頭が良くなれる、学習できる能力が欲しかった。
こんな事なら俺はあんな願いをしなかったのに。
「おい! 聞いてるのかよ!」
持っていたスプーンが手から零れ落ちていく。
もう、嫌だ。
俺は、こんな世界になんてきたくはなかった。
俺は、こんな風に持ち上げられたくはなかった。
俺は、自分の努力でのし上がりたかった。
こんな世界で上を目指しても、意味がない。
人の群れから俺は逃げ出す。
いや、人ではない。こんな奴ら。
頭がどうかしてる。明らかにおかしい。
俺はこいつらを人と認めない。
気付いたらアルイさんの家に帰ってきていた。
スプーンは全て落としてしまった。
家の中でアルイさんはのんびりしていた。
「スプーン、全部交換できたの? すごいね!」
異世界語を話すアルイさんは日本語とは違って飾り気のない言い方になる。
でも、この世界にいるということは、やっぱり俺よりも……
何かおかしいとは思ってたけど、まさかこんな事だったなんて。
「ねえ、アルイさん」
「何?」
「皿を洗うのって、どう思う?」
「え?」
これ以上聞くのは怖かった。でもここで聞かないと断ち切れないような気がした。
「当たり前でしょ? 普通皿は洗うものじゃない?」
え?どういう事?
「ス、スプーンはなんで使ってなかったの?」
「? 皆使ってなかったし、そういう文化かと思って。お母さんに言う時伝わるかなぁって思ったよ」
「さっきからどうしたの?」
もしかして、転生者は影響を受けない?




