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17.一時の日常

なんだろう……

この安心感は……

まるで春のような心地よい暖かさ、程よいそよ風、そして草原が広がっていた。


俺は、そうだ。

アルイさんに助けてもらって……

その後どうなったんだっけ?


「おーい! カワー!」


後ろから声が聞こえる。

気になって振り返ると優しそうな青年が立っていた。


「カワ。元気だった?」


なんだろうこの人、気さくに話しかけてくるけど、1度も会った事無い人だ。まるで俺を知っているみたいな素振りをしている。

でもこの人には、何故か安心感を感じる。


そう思っているのも束の間だった。

突然その青年は豹変して俺の首を絞める。

俺を憎しみ恨んでいる、そんな目をしていた。

俺でも殺意だと分かった。


何故この青年が突然そうなったかは分からない。

草原は荒廃して、暖かい春は一変して寒い冬になった。


「我等に触れるとは……いいだろう。そなたに力を与える」


どこからともなく声がして、絞められた首から最後の息を吐いた時、目が覚めた。






「だぁっ! はぁっ……はぁっ……」


夢……か。

乱れた息を整えて落ち着く。


……毛布?ここは家?

軽く見渡す。昨日寝る前に見た部屋だ。

違いはアルイさんが椅子に座って見ていた事だ。


「大丈夫? 凄く魘されていたけど」


「そ、そういえば! あれからどうなったの!?」


ベッドから飛び上がるように起きる。

何か違和感を感じるな。気のせいか?


「大丈夫大丈夫。りょうさんが時間を稼いでくれたおかげでタボも助かったよ」


「そうか……良かった。というか俺は気絶してしまったのか。ごめんな」


タボも助かった事に安堵する。それと同時に自分が足手まといな事に悔しさを感じる。


「そんな事ないよ! だってフェダウン(ゴブリン)は日本にいないんでしょ?」

「むしろりょうさんは良く頑張ったと思う。もし私が逆の立場だとしたら途中でダメになってたかも」


アルイさんが慰めてくれる。

フェダウン(ゴブリン)か……あいつを蹴り飛ばしただけでも凄いし、あれはアルイさんにしかできない事だと思う。


「うわ、もう朝じゃん。もしかしてずっと看ててくれたの?」


「うん。 傷はないけど、フェダウン(ゴブリン)に握られてたみたいだから」


ん?フェダウン(ゴブリン)

アルイさんも違和感に気が付いたみたいで目を丸くする。


「りょうさん! この村の言葉、喋れるようになったの!?」


どうやら、そうみたいだ。






「いやー兄ちゃん助かるねぇ! やっぱり若いって大事だね! 俺も若い時は……」


やりたかった村の手伝いをする。何故か異世界語が喋れるようになったのでアルイさんの仕事の手伝いだけでなく、他の人の仕事も手伝えるようになった。


「じゃあ、次の手伝いもあるので!」


話が長くなりそうなおっちゃんを尻目に次の家に駆け出す。

ただ飯食らいじゃなくなった!ご飯の時の申し訳ない気持ちがこれで晴らせる!


次は木工職人のドマールさんだ。

確か昨日、キュイアーさんが言ってた人だ。


「お前がりゅうか?」


「いや、りょうです。りょ! です」


毎度の事ながら名前を訂正する。もうこの流れか何回目だか分からないな。


「なんでい、言葉が話せないって聞いたのに、ペラペラに喋れるじゃねえか」


何故か残念そうなドマールさん。オーバーオールを着ている、いかにもって感じの職人だ。


「ま、それはともかく、今日はお前にスプーンとやらの品定めをしてほしいんだ」

「スプーンを知っているのは、この村ではお前しかいない。だから、イメージを掴むためにお前の意見を聞きたい」


そう言うとスプーンをずらっと並べる。

持つ手が長すぎる奴。スプーンというよりおたまみたいな奴。どうしてこうなったのか分からないフライパンみたいな奴。

そんな感じの奴が……見た感じ20、いや30くらいあるな。


「この中で1番近い奴を教えてくれ」


「はいっ!」



うーん、見ただけで5個くらいには絞れたけどそこからが難しいな。

これも近いし、これよりこいつの方が持つ手が短い。

これも器の部分が少し大きめで掬いやすそうだし……


うん!これだ!


「ドマールさん! こんな感じの奴です!」


他の作業をしていたドマールさんを呼ぶ。一旦作業を止めてスプーンを受け取る。


「分かった。こんな感じの奴だな」


スプーンを手にしながらまた作業場に戻っていくドマールさん。

これでスプーンを使って食べやすくなる。

昨日はスプーンを使わなくても良かったけど、箸とか必要そうな料理を素手で食べるのは抵抗がある。

早めに作れそうでよかった。



村を歩いていると、昨日会ったタボに出くわした。

タボは俺を見ると露骨に嫌そうな顔を浮かべる。


「昨日は無事で良かったよ」


俺が喋れるようになった事を知らなかったのか少し驚いた顔をしてから、


「は! あんな雑魚、俺だけでも倒せたっつーの」


ははは、強がってんなあ。無理しなくてもいいんだぞー。

強がる子供を微笑ましく見ていると、それを察知したのか、「見んな!」と返された。


今日はとても平和だ。こんな日常がずっと続いたらいいのにな。

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