14.城に住む怪物
こんな所でじっとしてられるか!
タボの手を引いて走る。
「痛いって! そんなに~~~~なって!」
なんでそんなに冷静なんだ。危機感はないのか?
背後で大きな音がする。この城の柱が崩れたんだろう。それはビルが倒壊するように壊されたに違いない。
この城に住むゴブリンによって。
全く、何でこんな城に入ろうと思ってたんだタボは。
寂れていて壁がボロボロの所まである。
何か目的がないとこんな所来ないぞ。
それなら何の目的で来たんだあいつ。
「タボー!」
呼び掛けても返事はない。ただむなしく俺の声がこだまする。
城の廊下を右に曲がり左に曲がり、廊下が無限のように感じた時。
「グオオオォォォォォォォォ…………」
獣の唸り声の、いやもっと恐ろしい声が城の廊下を駆け巡る。
まずいぞ。この城、もう使われていないどころか危ない奴が引っ越してきてやがる。
「タボ! タボー!」
あの危ない奴に見つかるかもしれない。だが、捕らわれていたり食われそうになっていたとしたら、俺の声を聞き向かってくるだろう。
「グオオッ!! オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
うあぁ!うるせぇ!!
怒りのようにも感じるその咆哮はあまりにも大きく、耳を押さえていなければ鼓膜が破けるのではないかとさえ思う。
まさか、と思う。
今のでこの声の出処が分かってしまったかもしれない。
ゆっくりと背後を振り向く。何も無い事を祈りながら。
だが、その祈りは届かない。
今まで何故襲ってこなかったのか分からないほど息が荒くなった怪物がそこにいた。
汗がサァッと引いていく。
その怪物は肌が緑色で、年老いた中年のようなでっぷりとしたお腹。
目付きは鋭く、口からは涎が垂れて糸を引き、それが切れたかと思うとぴちゃっと床に落ちる。
しかも、俺よりも1回りも2回りもでかい。
死を覚悟した。
このまま襲われたら待っているものは「死」のみと。
「はっ……あ……」
足がすくむ。口も回らないし体が思うように動かない。
俺の2回目の人生はここで終わるのか?
「グオオウ、ガァウ?」
何かを語りかけるように怪物は俺に話しかける。
だが俺はそれに応えない。
怪物は眉間に皺を寄せる。
その時俺の体は勝手に動くように走り出した。
頭の中では分かっている。あの怪物からは逃げられない。
それでも何もしないよりも良いと思った。たとえ逃げた事で苦しみ死んだとしても、そのまま殺されるよりも良いと。
だから、俺は藻掻く事にした。
最期まで足掻く。
足を前に出す。
手を前に出す。
後ろを見ない。
「おい!」
意識がハッとする。
目の前にはタボがいる。
あの怪物は?俺は生きている。逃げきれたのか?
まだ城の中だ。またあいつに会うかもしれない。
タボの手を引く。
「痛いって! そんなに~~~~なって!」
うるせえ!こんな所でじっとしてられるか!
タボも見つけたし俺は村に帰るぞ!
その時地震のような揺れと騒々しい音が鳴り響く。
あいつだ。
冷静になった頭で考える。
緑色の肌。中年のような腹。
ゴブリンか。その特徴に該当するモンスターはそれしかない。
だが、あれは大きすぎないか?
ゴブリンってもっと小さいイメージだったのに。
城は古く寂れている。それは内部もそうだ。
崩れた。
床が。
「うわあああ!」
タボと落ちる。
床が崩れるなんて予想外だ。しかも落ちたところは牢獄らしき部屋。
これじゃあ落とし穴に引っかかったようなもんだ。
瓦礫が邪魔になって戻れない。
くそっ、1つ1つ片付けて登るか。




