11.アルイさんは人間じゃねぇ!
「今日は16メルクも狩れました! りょうさんが籠を持っててくれたおかげです!」
うん。改めて分かった。アルイさん人間じゃないわ。
一言で言うと体力と素早さが馬鹿みたいに高い。
1メルクから2回ついていったが登り坂でも速さ変わらないし、むしろ加速する。
常に全力疾走以上で走っているのに、息切れしている所を見たことがない。
冷静に考えれば山育ちの野生動物を己の足のみで追い付くんだよな……
そりゃあアルイさんに体力で勝てるわけないわ。
という訳で4メルク入った辺りから川で待機した。
もう凄いね。今さっき森に入ったかと思えば、
「2メルク分狩れました!」
って帰ってくるんだもん。
それも連続。
あまりの早さに気になって心の中で数えてみたら、2分で帰ってきた。
最初の10メルク30分はあながち間違ってはいなかったかもしれない。むしろ遅いくらいかも。
もはや凄すぎて最初の気分悪くなったのが吹き飛んだ。
アルイさんが「願い」していたとしたら、絶対「狩人になる事」だよ。
普段は籠を自分で持って行っていたみたいだからもっと時間がかかっていたらしい。
籠を背負ってあの速度で走ってそれでも狩れる……
うん。人間じゃないんじゃないかな。
それとアルイさんと最初に村に行く時の「2メルク」っておかしいんじゃないの?
と思ったら半分距離みたいな扱いで言っていたらしい。
あの爆走速度で走り回っているのに対し俺は並の人間の速度。しかも途中でさらにスピードダウンで進んでいたから余計遅い。
そして出たのが「2メルク」だ。
実際はもっと山の中を走り回っていたそうだから村に直線で進んでいたと考えると4、5メルクくらいで村に着いたんじゃないかな?
どのみちアルイさんはやばい人だと分かった。
話を戻そう。
籠が一杯になった。これ以上は入らないので、今日はもう村に帰るだけだ。
普通の人間基準で歩き、アルイさんに異世界語を教えてもらいながら帰った。
しかし、そのまま平和に帰ることはできなかった。
初日の夜に見た大きなコブを持つ猪が現れた。
しかもこちらを見つめている。今にも突進してきそうだ。
アルイさんが咄嗟に戦闘態勢に入る。
「アルイさん! あの猪は狩らないで帰ろう」
これ以上は持ちきれないし、仮に持つとしたらアルイさんが持っていくことになる。
慣れないといけないかもしれないがまだ解体とか見たくはない。
アルイさんはこちらに顔を向け頷く。それと同時に猪が走り出した。
やばい!猪の突進なんか受けたら間違いなく死ぬ!
籠を背負っている上に、俺はアルイさんほど速くはない。猪の突進を躱せるかというと自信はない。
「っ!? アルイさん! 避けてください!!」
アルイさんは依然として戦闘態勢のまま動かない。
「大丈夫」
そう言うとアルイさんは猪を片手で止めた。
「は!?」
思わず驚きの声を上げる。猪の突進を躱すどころかその動きを止めた。しかも片手で。
「トロベーカはコブを押さえれば簡単に止められるんだよ」
トロベーカとはその猪の事だろうか。猪はまだアルイさんを押そうとしているが、アルイさんは全く動かない。
いや、それにしても片手って。
「え? いやこう……衝撃とか……」
「ううん。このコブはそんなに硬くないから痛くないよ」
衝撃とか吸収するっていう仮定は本当っぽいな。
ん?これもしかしなくてもアルイさんって力までやばい?猪の馬力って決して低くはないだろ。
馬力じゃなくて豚力?猪力?
まあ、どれでもいいや。
未だに諦めていない猪。
腹が減っているのか?
ポケットに手を突っ込む。
昨日寝る時それどころじゃなかったから朝心配だったが、初日に手に入れた木の実を取り出す。
よかった。潰れてなさそうだ。
それをアルイさんに押さえられている猪の前に差し出す。
すると猪はアルイさんを押すのをやめて木の実を食べ始める。
アルイさんもコブから手を離す。
「あれ? それミシューじゃないですか。いつの間に持ってたんですか?」
ミシュー……この木の実の名前か。
「会った時から持ってたんです。非常食にしようと思ってて」
あんまり美味しくないんだよなー、この実。
それでも猪は満足したのか俺達に背を向けて歩いていった。
「ミシュー、まだ持ってます?」
「うん。まだあるよ。どうしたの?」
「ミシューは村の人達にも人気なんですよ。料理する時の万能調味料なんです」
万能調味料?この木の実が?
マジか。単体だと全く味がしないこいつが調味料だったとは。
「昨日のスープにも使われてるんですよ」
なん……だと……!?
どんな効果があるんだこの木の実……!
アルイさんにミシューの事について詳しく教えてもらった。
その後は本当に何事もなく村に帰る事ができた。




