第5章『父娘、救出・後編』幕間~ガルディア四強対黒騎士②~
加筆修正しました!
「大人しく寝ていろ、ラピス」
「…はい父様。って!父様こそ「寝ていろ!」…は、はぃ…」
薄暗い室内でぼやけた視界がようやく定まると最初に眼に入ったのは父様の両手首に見える囚人を縛り付けるために使われる古びた鉄の鎖でした。
勿論、気も何らかの形で封じているのでしょう…でなければ父様がこのような姿を晒すわけがありません。
「父様…御無事でなによりですが、ラース様は?」
「……………チッ」
「…?」
え?今の舌打ちですか?
な、何だか機嫌が悪く見えますが気のせいでは…なさそうです。
どうしたのでしょうか?
「僕ならここだよ、ラピス…お互い無事で何よりだね、うんうん」
聞き慣れた声がする方に自然と視線(あ、ダジャレではありませんよ?)を向けてみると思わず眼を見開いてしまいました。
「ラース様…何故そのような…?」
「いやぁ…参った参った。あっはっは」
ラース様は……
ぐるぐる巻きになっていました。
紐でもなく縄ですらありません。
なぜか
鉄製の鎖で
ぐるぐる巻き状態でした。
どうやったらこうなるんでしょう?というか、なぜ鎖で?
「こいつ、お前を介抱するとか言い出したのでな」
「は?はぁ…」
「だって、一時間近く目を覚まさなかったからさ?大丈夫かなって、思ったんだけど」
「一時間も…それはお気遣い有り難う御座います、ラース様」
「ふん!動機はともかく、近付く眼がイヤらしかったからとりあえず縛り上げたまでだ」
「はは…誤解なんだけどね、信じてくれなくて困ってたんだ」
「そうでしたか……。えっと…父様?少々やりすぎではありませんか?」
「何を言う、縛り上げただけだ」
「父様?」
私は満面の笑みで父様をじーっ、と見つめます。
父様が私を大切にしてくださるのは嬉しいですけど、やりすぎはいけません。
時に諫めるのも娘としての役目なのです。
「……う、むぅ」
あ、眼を逸らしました。
少しは反省してくれたようで何よりです。
「ま、まぁ…ヴォルフにとってはラピスに近付く異性全てが敵、だからなぁ…拳や蹴りが飛ばなかっただけマシだと思ってるよ。」
「父様…」
普段、武骨な父様に心配されたのは嬉しく思いますが…戦友としてそれなりの長さであるラース様をいきなり捕縛するのは少々気にしすぎ、とも思いますが…それでもやはり娘としては嬉しく思います。
(…でも、このままでは私…生涯、独り身になるかもしれません。正直、恋…というものに憧れはあるのですが、父様には言わないでおいた方が良さそうです)
「…ふん、それよりもだ。ラース、あの《黒騎士》をどう思った?貴様は何かに気付いたからラピスを逃がそうとしたのだろうが」
……恋、かぁ。
できれば…運命的な恋がしてみたいです。
今の状況みたいな危機を助けてくれる白馬の騎士様…とか?
「《黒騎士》…大した使い手だよねぇ。技無しでアレだよ?…いったい、どんな手札を持ってるのか気になるよね」
え?《黒騎士》?いえいえ、やはり乙女は白い…
ん?黒……?
は!?そうです!《黒騎士》!私を一瞬で気絶させた、あの武人は一体……い、いけません。妄想に逃げ込むところでした……猛省せねば!
「あ、ちなみに…気づいたっていっても全部じゃないけど?」
「構わん、言ってみろ」
「お、教えてください、ラース様!」
ぐるぐる巻きで転がされていたラース様はゆっくりと巻かれた方向とは逆回転に転がってゆっくりと鎖をほどき始めていく
(……かわいい)
(見てて無様だな、ラース)←鎖で巻いた当人
「…まぁ、まずアイツ自身だけど人間ではないね。
十中八九で魔族。純魔族か魔人族かまではわからないけど」
「……ラース様や父様とまともに撃ち合える程の高位魔族となると……そう多くないとは思いますが」
「そうだね。純魔族なら魔王の親衛隊クラスか幹部クラスの実力者かな。
半魔族なら前回の《三界戦争》で生き残った本物の強者。
つまりは人族と魔族双方にかなりの恨みを持つ者……。
なんだけど、まぁどちらであっても…気を封じる《結界》ってのは厄介すぎるね。
あれ1個でも形成逆転されちゃうよ?現に僕達がこのザマだし?」
(あとは……実は魔王の一人だった~…とか?あっはっは。……いやはや、我ながら笑えないジョークだね)
「確かにな…純粋な肉体能力だけでは魔族に有利だろう、戦技が何も使えないのでは話にならん。対策が必要だな」
さて、この世界で生きる私達には幾つかの種族があります。
大まかにわけると……
①人族……人間、有翼人、獣人など人体を素体とする生物の総称ですが例外もあります。
②魔族……100%の純血種、つまりは祖先より代々続く血統を受け継ぐ者を純魔族、割合が微かでも他種族が混ざった者を半魔族、または魔人と呼びます。
③神族……神そのもの、もしくはその卷族である天使達も含めての総称です。別世界に居を構えているためか魔族に比べて目撃する事は滅多にありません。が、例外もあります。
人族との間に子を宿したり、自らの力の一部を譲渡…つまりは加護を与えるなど親身になって下さる神や天使もいるようです。
他にも竜族を頂点とする魔物の種族もいますが、こっちは説明は不要でしょう。
当面は魔族を警戒せねばなりませんから……
まぁ……捕まってしまいましたが、というか
「ラース様、父様。この国……今、かなりの危機ですよね?」
「そうだね」
「そうだな」
「……アッサリと認めてますけど何故そんなに落ち着いてるんですか?」
「いや、だって捕まった以上は何も出来ないしね?」
ニコッと笑顔で答えるラース様ですが、にこやかに答えて良い状況ではありませんからね?
「ラース様?仮にも国の守護を任された将軍職があっさりと言ってはいけないと思いませんか?」
「いやぁ、それについては申し訳ない。ガルディア王国には祖父の頼みで居るだけだから、大して愛着は無いんだ。」
「事情は聞いてますが、でも……」
「仕方あるまい。そもそも王国最強の《剣聖》を辺境配置なんぞどう考えてもアルセムの謀としか思えん。今、俺達が生かされてるのが不思議なくらいだ」
た、たしかに……そうなのですが……ん?
「…どうしたラピス」
「二人とも、少し静かに願います」
「……?」
「【魔力よ・我が身に巡りて・刹那の解放を】…《全能力向上》」
私は唯一使える魔力での身体強化呪文で違和感を払拭すべく耳に意識を集中させると……
「……これは……悲鳴?」
「「!」」
鎖をほどき終えたラース様がすかさず立ち上がると父様を拘束する鎖と鉄枷を手刀一振りで断ち切ってしまう………あれ、父様が驚いてますね、珍しい……んん?あ、あれ?
「あの、ラース様?今どうやって…?」
「お前、この《結界》の中で気が使えるのか?」
「ん?部分的な身体強化ぐらいならね」
「え……」
「…ラース、お前…」
私達はラース様に呆れた視線を向けてしまいました。
……だって、ねぇ?




