第5章『父娘、救出・後編』第11話~《紫電》のリンネ~
時は少し遡り…
[フローレスの森:《転移門》付近にて]
『蒼い雷』を纏う剣士と騎士、それぞれが互いに一撃必殺の斬撃を放つも回避もしくは己が一撃を以て相殺…その領域は戦場の範囲こそ狭いものの紛れもなく激戦区と化していた…
二刀を振るう騎士の瞳は生気を感じられず表情もまた無表情のままで変化は無く、まるで疲れを知らぬが如く剣士に必殺の斬撃を放ち続けていた
「せやっ!」
(全く、キリがありません!かといって…あの魔術師が居る以上は隙を見せるわけにも!)
「…………」
1対多数…リンネの実力ならば苦にはならないものの知り合いが相手では本気も出せないのも当然の消耗戦となってしまっていたがそれでも続けねばならない状況である
「破ッ!」
(…先程から相変わらずの力任せによる遠距離の斬撃飛ばしの一手のみ!威力は驚異だけど……)
「オォォ!!」
既に数えるのも無駄に思えるほどの気合いの一閃がリンネに再び放たれるが
「『飛燕』っ!」
(私を相手にこの戦い方では無駄だというのに……クルツにしては単調すぎる!やはり操られているの!?……それとも)
クルツの斬撃飛ばしに対してリンネは『飛燕』で相殺…一見、戦況は互角に留まってはいるもののリンネはクルツだけでなく背後にいるもう一人の『敵』にも注意を向けねばならない為に迂闊な隙を作らないためにも味方の援軍が来るまで防御に撤する必要があった。
「……リ…ンネ…」
「…クルツ!」
(まだ意識がある!?ならば救う手段を……ッ!)
僅かな一瞬、リンネの意識がクルツに向いた刹那
「【稲妻よ・果てより来たりて・踊り狂う嵐を誘え】」
魔術詠唱が突如始まり、リンネ達の足元に大きな術式が描かれる
「…範囲攻撃、いえ広域殲滅魔法!?」
(いけない!急いで離脱しないとクルツ達まで巻き添えになる!)
即座に『迅雷』による速度強化でクルツから距離を取り単身で魔術を迎撃すると決めたリンネだが
「ガァァァッ!!」
「…くっ!?」
リンネが行動を起こす前にクルツが突然叫びながら突貫、二刀による直接攻撃を次々と叩き込む
「…っ!」
(動作が雑だけど、この連撃の型は…!ラピスの連撃剣舞に似ている!)
「……くくっ」
クルツの力任せではあるものの隙の無い連続攻撃に足を止められ焦り始めたリンネの耳に敵の含み笑いが聴こえていた
「そこの魔術師!私の仲間達にいったい何をした!!返答次第では……その首、斬り飛ばす!」
クルツの猛攻を凌ぎ、周りの騎士達の立ち位置も確認しつつ魔術師が待機させている攻撃魔術にも警戒しているリンネの心の中は仲間を助けて敵を倒しヴォルフ達の下へ駆け付ける。
ただ、それだけを考えて達成する為の手段を常に模索していた。
「ほう?……そのような啖呵を切るとはつまり、剣聖殿は既に死んでいる仲間達を助ける事が出来ると思っていたのか…?いやはや、たとえ神の奇跡であっても難儀だと思うのだけど?」
…………
……………………
「……なん、ですって?」
(あの男は今なんと?馬鹿な、クルツが…皆が死んでいる?魔術師一人に第三騎士団の皆がが遅れを取る訳が…)
敵の言葉にリンネは思わず気をとられてしまっていた。
理解してはいけない、身体の動きが止まってしまうと頭は判断するも心は言葉の意味を噛み砕いて理解しろ、聞き捨てならない一言をコイツは発したのだ…と。
さぁ、気を確かにして考えろアイツは何て言った?
死んでいる…?
誰が…?
(既に…いや、私が此処に来た時点で手遅れだった!?)
信じてはいけない一言を耳にした以上、行動を起こさねばならない。何故なら……
(それが、友と交わした約束なのだから!)
〔…リンネさん。誰が黒幕かハッキリしない以上は団長とお嬢さんの救出を最優先に動くべきだ。だから…俺も、俺の部隊もいざとなれば切り捨てて動いて欲しい。まぁ、むざむざと殺されるつもりはないけど…その時はどうか…頼みます〕
〔クルツ…ヴォルフ殿もラピスも、そして貴方も含めた我々は同じ意志の下に集った同志です。『いざという時』なんて考える必要はありません。全力で務めを果たすのみ、ですよ?〕
〔……そうですね。ありがとうございます、リンネさん。では、まず最初の一手を……〕
〔えぇ。ヴェル殿ならば我等に力を貸してくれます、彼女の力を借りてヴォルフ殿とラピスを助け出しましょう!〕
〔了解です!〕
「~~ッ!!…貴様ぁぁぁ!!よくも!」
リンネが叫び剣気を走らせ更なる闘気を瞬時に纏うが、その色は『紅』でも『蒼』でもない『紫』の雷……
複数の戦技を掛け合わせる特異な才を持つリンネが開眼させた強化系固有戦技その名は……
「覚悟を決めなさい外法使い!《紫電》の剣技、その身に刻んであげます!」
「それは楽しみですね……さぁ、殺れ!我が下僕共!そして受けよ!我が魔導の奥義!【狂えし稲妻よ抉れ暴虐の風】!!」
リンネを、クルツを、かつての仲間達を纏めて葬る無慈悲にして獰猛なる風刃と雷撃の嵐が襲いかかる
キィン……
だが、響き渡るは僅かな金属音
「許せ、我が同志達……すまない友よ……」
《紫電》を纏うリンネが刀を鞘に納め、流れるような動きを以て居合いの構えを取る
「外法使い!我が怒りの一太刀…手向けに受け取れッ!」
気合いと共に鞘から放たれた一刀は気の斬撃のみならず《紫電》の稲妻を伴い放たれる電光石火の刃と化す!
「『残光細雪』一ノ太刀!!」
リンネを襲う害意全てを斬り伏せる一刀は襲いかかる風と雷を容易く切り裂き
「な…!?」
「二ノ太刀!!」
(みんな…すまない、非力な私を許して下さい!)
返す刀の一振りがかつての仲間だった騎士達を瞬時に斬り飛ばす!
「っ…」
(死兵共が壁にもならないか!
それに斬撃の範囲が振るう度に拡がっている!もっと距離をとらねば!!)
「…ッ…三ノ太刀!」
(クルツ…ごめんなさい)
更なる一振りがクルツと外法使い目掛けて斬撃の嵐を送り込む
当然、魔術師は距離を更に開けるが不可視の斬撃は右腕を掠めとるようにあっさりと千切り飛ばしていた
「ぐぉぉぉぉあぁぁ!?」
(この距離でも届くだと!?くっ、右腕が一瞬で持っていかれた……あとほんの僅かに遅ければ身体の半分が持っていかれていた!
それに、常時発動している三重防御術式を難なく切り刻むとは…剣聖リンネ、紛れもなく我等にとってこの者は驚異だ!
時間稼ぎなどもういい!コイツはこの場で何としても仕留めなければ!!)
「この技で仕留めきれないとは思いませんでしたが…どのみち逃がすつもりは「ぐぅぅ…おおぉぉぉぉぉッッ!!!」……ッ!?」
歩み寄るリンネだが、突如の咆哮と魔術師の肉体が膨れ上がるのを見て思わず足を止めてしまう
グァァオォォォォッッ!!
「魔獣化ですって!?この男…高位魔族だったのですか!?」
(巨大な…猪!この質量となると獣化と共に跳ね上がった魔力を単純な肉体増強に費やしているわね…まさかガルディアに、このレベルの魔族が潜んでいたなんて)
「ククク…リンネェェェッ!ガルディアトトモニホロブガイイッ!!」
「ッ!」
(ガルディアと共に…?まさか王国内部でも何かしているの!?…不味い!《転移門》を壊されないうちに仕留めなければラピス達が危ない!)
見上げるほどに巨大な猪と化した魔族に対して全力を以て短期決戦を挑もうとするリンネだが…
「ほぉ?異常な魔力を感知したから何事かと思えば……巨大な猪とはのぅ?ふぅむ…これは食材としてはどう思う?我が戦友よ」
空より軽やかに現れる少々刺激的な衣装に身を包み、一対の白き翼を自慢げに広げる魅惑的な美女(と本人は自負するだろう)だった。
「!……マトメテクワレニキタカ…トゥールノマジョ」
(ちぃ…あの暗殺者共、もう少し足留め出来なかったのか!!)
「……ふ、貴女はこんな物を食材と呼ぶのですか?私なら切り刻んでから灰になるまで焼きますが…どう思います我が戦友よ?」
「……キサマラ、ワレヲグロウシテイルナ」
(ふん…まぁいい、魔獣化状態の私は対上級魔術無効化能力を備えている!《魔女》ごときが相手になるものか!)
剣聖と魔女は巨獣を前にしてそれぞれが不適な笑みを浮かべる。
「ふむ。貶されている自覚はあるのか?ならば話は早いのぉ♪」
「ヴェル殿!《転移門》を壊されぬよう注意を!」
《紫電》を纏い刀を振りかざすリンネの横に魔力による身体強化を施したヴィーチェが豊かな胸部を強調するように腕を組んで並び立つ
「任せよ!たかだか魔獣一匹なぞ妾の敵ではないのじゃ!木っ端微塵にしてくれようぞ!」
(高位魔族の魔獣化ならば基本で魔術無効化を備えておるはず!じゃが、やりようはあるわい!魔王軍側近クラスならば露知らず、妾を《魔女》と知ってなお挑むとは無謀極まりないわ!…………じゃが、ろくに休んでおらぬ上に敵対関係を演じる為とはいえ結構な血も失ったからのぅ…こやつの背後に同レベルの敵が居ないのを願うしかないのぅ……せめてミューの援護があれば大技の連発で仕留めるんじゃがなぁ…とほほ)




