第5章『父娘、救出・後編』第10話~師弟契約③~
[冬麻の精神世界・深層領域第二層]
〔…では、改めて。と、いっても毒気を抜かれてしまったので本題に入っても構いませんか?そちらも時間に余裕は無いのでしょうし〕
「…お陰さまでな」
〔偽者のくせに気が付く振りをするとは…偽者のくせに…偽者のくせに…偽乳のくせに…〕
〔何を言ってるんです!?〕
「…………」
(コイツ…反省してねぇ!!)
レーヴェの吐いた台詞に呆れた冬麻は思わず沈黙。が、その沈黙を違う方向に受け取った者が居た。
〔え!?いや、違いますよ!?本物ですからね!本当です!本当ですよ!?〕
(きゃぁぁぁ!?初対面の男の人に誤解されるような事を言わないでぇぇ!!)
焦る侵入者を見て余計、冷静になれた冬麻はなるべく視線を合わせて話すようにしていた…けして胸は見ていません、と言わんばかりに。
「いや…うん、そんな必死にならなくても疑ってはいないから。うん、だから落ち着こう、な?」
(おかしいな?敵だよな、この女?敵で合ってる…よなぁ?なんか、最初は怪しく思えたが少なからず敵意は感じないんだが…)
〔うぅ…唐突に辱しめられるなんて……もう帰りたい…〕
「……。」
(何だか俺達が悪者に思えてきた!どうしよう!?)
どこか投げやりな侵入者(実母に瓜二つ…らしいが)にレーヴェがすぐさま噛みつく
〔む!?何を勝手な事を!帰る前に本物かどうかこの私が確かめ「と、とりあえず!さっさと俺の精神から出てってくれるならこっちからは何もしない、約束する。
あんたの言う通り俺達は時間との勝負の真っ只中で、人の命がかかってるんだ。それとレーヴェは黙れ、マジで」…はい。〕
(……つまりは見逃すから出てけって事ですか、いやまぁ…いきなり現れた相手に対して当たり前と言えば当たり前なのですが…。
それにしてもこの男の子、えとトーマ君…でしたか?強大な魔力の波動を放出してるから興味本意で精神侵入しましたが、色々な不思議な所も《異世界人》なら納得です。こっちの少女も規格外っぽいですが…《神器》に宿った《魂》にしては精神体の自己形成までしてる以上、かなり上の等級なのは間違いないでしょうね……うん。これは思わぬ収穫です)
シュンとする蒼髪の少女に侵入者は然り気無く『魔力感知』を発動させるが…
(これは…!?なんて魔力容量…上限が計り知れない…って、感知遮断された!?)
〔…断りもなく相手の情報を見ようとは…次はお仕置きしますよ?……主に性的に!〕
〔…っ!〕
(この感じ、レベル差による『威圧』ですか…ますます興味深い!けど怖い!色々な意味で!!)
「はぁ……レーヴェ、どうしたら追い払える?」
冬麻の問いにレーヴェが眼を輝かせて即答する、が
〔辱しめれば良いと思い
ゴスッ!
……ここはトウマさんの精神世界ですが、深くまで入り込まれた以上は手段は3つです……ちなみに結構、痛いです。〕
〔……涙目ですが大丈夫ですか?〕
「……自業自得だから心配は不要だ」
〔うぅ、気を込めた拳骨をくらって無事な私の頭を褒めてあげたいです…トーマさんの拳なら余裕で岩石すら砕くのに……〕
〔な、仲が良いんですね…〕
「………」
(この女…なんだか余裕綽々だな?何か裏があるのか?…まぁとりあえずはさっさと現実に戻って、ウルリカにお仕置きしないと……いやいや、さっさと本来の目的に戻らないと。お仕置きはその後だな)
〔さて…《異世界人》君、勝手に潜り込んだ事には謝罪しますが私は敵対するつもりはありません。〕
「…なに?」
〔ふむ?〕
[現実]
「…っ!?」
「…どうかしましたか?ウルリカ=リッケルト?調子が悪いなら代わりますよ?」
気絶した(正確にはさせた)冬麻を担いで走るウルリカ(当然、身体強化を発動中である)が突然身震いしたのを並走するユーリが気付いて声をかけるも
「い、いいよ!ボクの責任だから近くまではこのまま運ぶし!それにまだあんたの事は信用出来ないしね!」
「……まぁ、トウマ以外にどう思われても気にはしないからいいのですけど」
「……ふん。それよりもヴェルやリンネさんが苦戦してるって本当なんでしょうね?予定ではもう城に行ってる筈なんだけど?」
「疑うのは構いません。ですが、アレを見たら分かるでしょう?」
「アレって…あの巨大な狼と猪の事を言ってる?何なのアレ?あ、狼が猪を吹っ飛ばした!狼、スゴいけど…どっちが味方なのかがわかんない!」
「狼がこっちの助っ人です。猪は敵の召喚獣でしょうね」
(蒼い毛並みの巨狼…なるほど。あれが《鏡分身》からの情報にあった《蒼》の聖獣ヴィルサスですか。
それにしても、祖父と比べ術者の力量差による能力制限があるとしても…聖獣と渡り合ってるあの巨大な猪は普通じゃなさそうですね…さて、黒幕は誰でしょうかね?)
「ウルリカ=リッケルト。速度を上げますが、構いませんか?」
「ふふん、誰に言ってるのさ!そっちこそ置いてかれないように気をつけなよ!」
「なるほど、気を付けるとしましょう」
(分散させた《鏡分身》は城に1体…これは最終手段、マーベリック父娘とラースの身に危険が迫るまでは保険として隠しておきたい。
《転移門》からこちら側には残り2…いえ、さっき反応が途絶えたから残りは1体ですか…念の為に予備を出して正解でしたね…ミューレとヴィレッタの救助と説得は予備の『私』に任せて私も《転移門》制圧に集中しますかね…長時間の《鏡分身》の使用に分身数も一時的も含めて限度を超えている以上、今以上の能力減衰は不味い。
《結界》も使ってしまったし、残っている手持ちの札でやれる限りを尽くすしかないですね)
ウルリカとユーリは更に速度を上げて激戦を広げる《転移門》へと飛び込んでいく、そして…
ピクリ
「……っ…」
(どのくらい時間が経ったが解らないが、まだ身体が動かない…レーヴェ!)
〔はいはい♪能力確認…探査完了!
ユーリとの実戦稽古前と比べて基礎能力値は約3倍…《遺産》継承時からだと最早別格ですねぇ…あの時の三騎士…いえ、四騎士ですか?あの連中ともう一度戦っても楽勝だと思いますよ?
けど、まだ無理に動いてはダメですよー?能力の急成長に身体の細胞がまだまだ追い付いてませんからね?〕
「…………っ」
(了解だ。なら、このままウルリカに運んで貰うとしよう。男として格好悪いが仕方無いか…次、リエラ!)
〔はい!現在は簡易治癒術式にて身体の回復力を高めつつ、レーヴェ様が解放した継承魔術の術式改良を実行中です。
これが終われば自己負担を最低限まで抑えて使うことが出来ますのでトーマ君の即戦力及び切り札の1つにもなります!〕
(そうか、なら動ける頃には使えるようになるんだな?
確か術名は…)
〔自己強化系術式《加速空間展開》…です。今はレベルⅠ~Ⅲまでが使えますが加速倍率で身体への負担も飛躍的に高まりますので長時間の使用は注意して下さい!
ちなみにトーマ君の能力値ならレベルⅠでも充分に驚異的ですよ!〕
(わかった…ありがとう、リエラ。この恩は忘れない)
〔いえいえ、元はと言えば私の興味本意でしたから礼は不要です。それに、こちらの頼みも聞いて貰えた以上…これは立派な契約ですし?これほどの才能…是非とも私の手で育てさせてください!〕
(お、おう!あー…なら師匠って呼んだ方がいいか?)
〔ぇ!?い、いえ…それはなんというか…ちょっとむず痒いので、リエラ…でお願いします。〕
(…わかった、宜しくなリエラ!)
〔ええ、こちらこそです〕




