プロローグ⑥
…俺は今、貴重な体験をしているのだろう…
いわゆる魔法陣…義母さんが言うには《陣》にも色々あり俺の足元にあるのは《方陣》と呼ばれるもので、冒険者ならば誰もが使う事が出来る《内包された力》(プラーナと言うらしい)を《方陣》の範囲に比例して大量に消費する事で高レベルの《儀式魔法》や《干渉魔法》を発動させる事が出来るのだ、とか何とか……
「……何か体が凄い熱っぽいんだが?」
「…………これは……なるほど、うん。予想よりもマズイ、かしらね」
《方陣》の中央に立たされた俺に対して、陣の外側に立つ義母さんは両手をこちらに向けて翳しながら眼を瞑り何かに頷きながら集中しているようだ。
「義母さん…?」
「冬麻さん、今から言うことをよく聞きなさい。」
「…?」
…ますます熱くなってきたうえに、なんだか眼がボヤけてきたような…
「……本当はもう少し事情を説明しておきたかったのだけど、私の力が思った以上に弱ってたみたいで《真実の泉》の展開と貴方に施している《儀式魔法》で限界に近いみたい」
「……は?なん……義母さんは、大丈夫なのか?」
いかん……立ってるのがつらくなってきた…
「聞きなさい、冬麻さん!《儀式魔法》で私から貴方に《継承》させたのは3つの《魔法》と1つの《神器》!危ないと思ったら迷わず使いなさい!千鶴に生きて会いたいなら躊躇ってはダメよ!わかった!?」
「…っ、あぁ……」
《魔法》と《神器》…?戦う力、生き残る為の力ってやつか…信じたくないけど現実味を帯びてきたな……《異世界》ってヤツが迫ってきてるってことか……
「それから貴方には元々備わっている《魔法》があります!その力は《異世界》でしか使えない《魔法》ですが、必ず貴方の助けになります!自分自身を信じなさい!」
「任せてくれ……俺は義母さんの息子だからな、自分を疑った事なんて1度もないから問題ないよ」
…体がゆっくりと光に覆われていく…微かに見えるこの風景が《異世界》なのか?
「流石は自慢の息子ね。まずは《世界》をよく見て見聞を広めなさい。貴方の思う通りに…ね?向こうで貴方に会える日を楽しみにしてるわ♪」
「…………必ず会えるよな、義母さん」
「当たり前でしょう?まだ冬麻さんの初めてのキスを貰ってないのにこのまま生き別れるつもりはないわ。千鶴ちゃんに譲る気はさらさらありません!」
「…相変わらず愛されてるなぁ、俺……そんな良い男ってわけでもないのに……」
……そろそろ、時間かな…なんか不思議と落ち着いてきたな…義母さんのおかげだろうか?
「貴方は私や千鶴にとって最高の男性よ、だから…胸を張りなさい冬麻さん」
……俺にとっても二人は最高の女性だよ……二人には小さい頃からどんなに助けられたことか、感謝してもしきれない……
だから……俺に何をさせたいのかよくわからないけど、義母さんや千鶴が俺の『力』を必要とするなら説明なんか何も要らないんだ。
俺は、俺の意思で《異世界》を歩き続けて二人と再会してみせるから!
「義母さん!行ってきます!」
「っ!…行ってらっしゃい、冬麻さん!」
義母さんの『行ってらっしゃい』…しばらくは聞き納めになるかな?
そう思うと同時に視界が完全にホワイトアウトし、同時に急激な浮遊感がおれを襲ってきた…
ー《真実の泉》にてー
無事に《儀式魔法:継承》を終えて冬麻さんを見送った私は余程、疲れていたのか一息をつく
「……ふぅ、何とか《送還魔法》は間に合ったみたいね」
「今のが、リュミエールの秘蔵っ子?地球の人間にしては少々規格外な《プラーナ》と《マナ》を秘めてるみたいだね」
「……あら、いたのねリベラルディア?」
突如、姿を見せたのは(私より二回りは小さい)胸を当たり前のように見せつけ……って、それチャイナドレス?にしては胸元開きすぎのような気がするのだけど…まぁいいか
「あ、相変わらずのそっけなさね…リュミエール」
「……用件は?私は貴女と違って暇じゃないのよ?」
キィィィィン
パリンッ!
「ディア?…今のは何の真似かしら?」
瞬時に放たれたのは《魂狩り》と呼ばれる攻撃魔法で、対上級魔族や死霊など精神と肉体が同一または密接の関係にある対象に限り致命傷を与えることが出来る魔法である
それに対し私は自分の構築した《真実の泉》の内部に『もう1つ』の《真実の泉》を展開し、ディアが放った《魂狩り》を無効化したのだ。
「流石は元《四大聖天使 》筆頭にして《代行者》様ね、リル?」
「…………」
…………ごめんなさいね、冬麻さん。
そちらに行くのは少しばかり遅くなるけど、必ず行くから心配せずに待っててね…………
さて、プロローグはこれで終了となります。
次回より《異世界》に降り立った冬麻が千鶴を探しつつ世界を渡り歩く、本編・第一章が始まります。
定期更新を心がけますので皆様、少々お待ちくださいませ!