第4章『父娘、救出・前編』第19話~それぞれの切り札①~
〔フローレスの森・ガルディア軍駐留拠点・中心部〕
「ミューレ!ウルリカ!俺に構わず目の前の敵に全力を注げ!こいつらの纏う血の匂いの濃さは普通じゃないぞ!」
(……『匂い』?何故かは判らないが、やはり『匂い』としか言いようがないな…このヤバイ気配の女が目の前に来てから妙な感覚がチリチリするんだが…なんなんだ、コイツ?)
ユーリと対峙した瞬間に無自覚で警戒レベル・戦闘意識を最大まで一瞬で引き上げた冬麻は即座に知覚できる範囲内で感じ取った情報をミューレとウルリカにも訴えていた。
「…………ふふ」
(私との実力差を無意識に感じ取り、即座に現時点での最高値の戦闘状態に切換したみたいね…それにしても…何て素晴らしく純度の高い気なの…流石は、トウマ…だからこそ…君は私が…………)
キィィィン…………
フードを被った少女の瞳の色が漆黒より金色に徐々に変貌を遂げるのを誰にも知られる事なく終えると……ユーリの身体に異質な気配を漂わせる気が満ちていくのだが……その異様さに気付けるものは居なかった…。
(『俺』が護り鍛えてやる!お前を天使共の好きになどさせるものか!)
〔ミューレ視点〕
「わ、わかりましたトーマさん!全力で目の前の敵に集中します!任せてください!」
(私だって、皆に負けていられない!この魔術師は私が倒してみせるんだから……!お願いします…大賢者様……力を!皆と共に戦う為の力を!私に貸してください!)
「うふふ…お嬢ちゃんの精霊干渉力は間違いなく一級品だけど、私の対抗魔術を打ち破るには一歩足りないわねぇ?」
(とはいえ…私が本来、得意とするのは妨害系の術式なのよねぇ…基本通りなら大技を撃たせ続けて、お嬢ちゃんの魔力切れを狙うのが定石なんだけど……って、魔力の波動が変わっ…!?しまった!お嬢ちゃんは《神器》の使い手だったわね!)
〔ウルリカ視点〕
「りょーかい!…というわけで君!お姉さんは忙しいので…………本気の本気で行っちゃうよ?」
(もう充分な休憩は取ったし…まずは数を減らさないとね?…………行くよ!《神兵》全力起動!!)
「いや、お姉さんって…年齢はボクと変わらないでしょうに……ッ!?【来たれ・鋼の魂・我が僕】…【守護者召喚】!」
(いきなり速さが段違いに!?間に合え!)
空中に描かれた召喚用の魔法陣から巨大な腕がのそりと出てくる…そして
「ウルリカァァァ!!パァァンチッッ!!!」
グシャァァァァァ!!!
「はぁぁぁぁ!!!?」
(お……押し戻したぁ!?今、召喚したの…拠点防衛用の魔法金属製ゴーレムなのに!?)
ラースの召喚を物理的に無理矢理押し戻して中断させた力技に術者であるラースはきょとん、とするがウルリカの満足気な表情に毒気を抜かれたかのように座り込んでしまう。
「…………まだやる?」
「……あははっ!流石に遠慮するよ。続けるにしても、小さいお姉さんの速度なら言葉通り一瞬でボクをどうにかできるでしょ?」
「♪」
ラースの言葉にウルリカは満面の笑顔で答える
「……これは相性が悪すぎた。ボクでは勝てないよ…完敗、だね」
「お…って事は?私が一抜けだね!やったよ、トーマぁぁぁ~♪」
短期決戦を得意とするウルリカのペースに呑まれ早々にラースとの戦いに決着が着くと、ウルリカは冬麻の下へ駆け出していく……。
「あれだけの戦闘能力を持つなんて…確か、有翼種族は魔術主体の筈なのに…例外、いや規格外が存在するっていうのはどの種族も一緒って事なのかな?ねぇ……ユーリさん?」
「………気付いていたの?流石はガルディア軍お抱えの傭兵ね」
「いやいや…たった今、負けたばかりだから流石ってのはちょっと…で、何の用かな?」
「…用事は至極単純なの…傭兵としての貴方を個人的に雇いたい。」
「……はい?」




