第4章『父娘、救出・前編』第12話~奇襲①~
「………」
「ねえ?さっきからトーマが静かなんだけど………ハッ!?もしかして、お腹痛いのかな!?」
「ウルじゃあるまいし、んなわけなかろう!」
(………龍帝殿との話、長引いておるようじゃの…?駐留しておる傭兵騎士達、城に居る近衛騎士や魔術師達…どちらも敵側に戦力がありすぎる以上、可能ならば龍帝殿の《神威》があると心強いのじゃが……さすがに無理が過ぎるかのぅ…)
「やはり、お疲れなのでしょうか…?………気にはなってたんです。トーマさんは《異世界人》ですし…なし崩し的に私達の事情に巻き込んでしまったのに、ここまで連れてきて…本当に良かったのでしょうか?」
暫く前から悩みを抱えていたのか、ミューレは内側に溜めていた悩みを思いきって皆に打ち明ける。今までなら相手が諦めるまでひたすら逃げ続けていれば良かったのに………今回は後手に回り、トーマは集落の為にと追っ手と戦うも徐々に追い込まれ、ウルリカとミューレの加勢で難を逃れた…
少女が心配するのは当然の事であった…並外れた才能があるのは間違いない。が、だとしても《異世界人》である以上…トーマが命を賭けるべき相手は行方不明の家族達のはずだと思ったのだ…。
「あ。それウルも思った!」
「………トーマなら大丈夫じゃ、妾の旦那になる男じゃからな!あの程度、朝飯前に片付けて貰わねば困る!」
「ヴェル殿…流石にそれは難度が高すぎますよ?…とはいえ、私もヴェル殿同様で心配無用と思います。…手合わせした私が太鼓判を押します。彼は強い…もしも、良き師に巡り会い…武の道を進めばきっと…私よりも強くなるでしょう」
「………そりゃ凄ぇな。最強の剣士と魔術師に認められたなら、戦力としては申し分無い…よな?」
「トーマさん!」
「トウマ殿!」
「トーマ!」
(龍帝殿の話は終わったか…さて、これでこちらの戦力は整った!妾も可能な限りの魔法を待機させておかねばな!)
「トーマ!お腹痛いのはもういいの?」
「………は?何を言ってるんだウルリカは?」
「あはは…き、気にしないで下さいトーマさん………それよりも、あの…」
「………シチュー」
「は?」
冬麻の発した単語はミューレの予想していたどの言葉でも無かったため、間の抜けた声で返してしまった事にミューレ自身は気付けなかった。
「…何で地球と異世界で同じ名前の料理があるのかはわからんが……ミューレのシチューは本気で美味いと、俺は思った。」
「は、はい…ありがとう、ございます…?」
(シチューって………ウルに食べられたあのシチュー、だよね?)
「…だから、今度はちゃんと食べるから…もう一度作ってくれないか?」
「………え。あ、はい!よ、喜んで!!」
(もう一度…今度はちゃんと食べるから…って、なんだろう…な、何か嬉しいかも!?)
「あ、ウルも食べたい!」
「ウルのは鶏肉無しよ?」
「え」
ミューレの言葉にウルリカは「何故!?」と驚く
「あら?………トーマさんのシチュー………鍋ごと奪って食べ尽くしたのは誰だったかしら?」
「ご、ごめんなさい!!」
ミューレの放つ威圧感漂う雰囲気に、あっさりとウルリカは降伏し、許しを請うことにしたのだった。
「お主ら…敵陣近いのじゃから、もう少し緊張感をじゃなぁ……」
「あはは…流石はヴェル殿の仲間、ですね…心強いですよ」
溜め息のヴィーチェと苦笑いのリンネ、二人は微笑ましい一時を見納めするかのように視界に納めると、次に冬麻に視線を揃って向ける。