第4章『父娘、救出・前編』第8話~協力者③~
「…………以上だ」
「…………」
「…………はぁ」
「…………ふぅん?」
「…………ふむ。」
アルベルトがユーリ達に伝えた内容はまとめると『捕縛対象』は『有翼種族』であり、拠点を転々とする習性があり一ヶ所に留まらない連中だが今回は運良く拠点の発見に成功。
軍を派遣し、目的地手前まで進軍するが『神器保持者』の護衛を務める『魔女』と遭遇、交戦した結果部下が全滅してしまい自身も危機に陥る…。
そこに駆け付けた『剣聖』と『二刀使い』の加勢で魔女に重傷を負わせるが相手側の『邪魔者』の介入により止めには至らず、二人の進言によりリンネを残し部隊再編の為に撤退…増援要請を申請、今に至る……という内容であった。
アルベルト視点なのでそれなりに都合良く解釈されているが…
(要約すると…敵対戦力の主力を弱らせたのに…?)
(後から来た少年に邪魔されて~?)
(こちらの最大戦力を殿にして撤退……)
(その後、偵察兵からは音信不通…交代要員を送るも戦闘により生じたとされる最後の爆発音を皮切りに連絡は来ず……と。そもそも名を馳せた歴戦の兵が相手ならともかく若造一人を相手に最大戦力を残して撤退、それこそが愚策極まりないな。)
「……有翼種族に紛れた黒髪の人族…か」
(現れると同時に三人を同時に『縛る』、となると……考えられるのは3パターン……
①『発動タイミングは視界に入った瞬間、一定範囲内を縛る』…この系統の異能は正式な手順を簡略化するほど体力の消耗が激しい上に、実力差がある相手には殆ど効かないタイプだからこれは違う…となると
②『視線を合わせた対象を縛る』…可能性はありそうだが、三人同時ならこれでも無いな。全員が抵抗する間もなく拘束されるなぞ…まずあり得ない。……故意に捕まる、というのもありえるが……やはり違うだろうな。だとすれば…)
「ユーリちゃん?どしたの?」
「……その少年、恐らく『神器保持者』だな。それも上級の中でも指折りだ。」
四人がそれぞれ黙考するなか、ユーリが一言呟くとローブの女が反応し問いかける
「なっ!?あんなガキが!?」
「「!」」
「……ユーリ、根拠は?」
「あるとは言いきれん。俺の勘だからな…が、その前に1つ聞こう。アルベルト、その少年は武器の類いを持っていたか?」
「いや……なにも……それが?魔法ならば武器の類いなど無くとも……」
「……その少年が『保持者』と仮定するなら武具を召喚する類いである具象化型神器……では無さそうですね」
「…その通りだ。それだと三人の動きを縛るのは不可能。無手なのは体術使いの可能性もあるからな。そして、魔法もあり得ない。『発動言語』をあの剣聖が聞き逃すとは思えんからな。
だから俺は……未知の神器だと思っている。」
「「「…………」」」
「……ユーリ、貴方の勘は何を告げたのですか?」
「空間干渉系だ」
「…………な」
「…あら、それって」
「……間違いなく上級、それも希少能力ですね」
「…習熟してなかろうとも使えるだけで脅威となりえます…どうやらその少年が『排除最優先』のようですね」
隊長格の問いにユーリは躊躇わずに答えを出すと他の特務隊員も危険性を改めて認識する
「……その黒髪の『神器保持者』は俺が一人で相手をする。貴様等は手を出すな……うっかり殺されたいなら話は別だがな」
「……任せて良いのですね?」
「愚問だな。俺の二つ名を知ってて聞いているのか?《魔術師殺し》?」
「……フフ、確かに愚問でしたね。では…『未知の神器使い』は任せます。《英雄殺し》?」
「……あら?これってもしかしてぇ……?」
「ええ、方針が決まったみたいですね…」
不敵に笑う二人の近くで残りの特務隊員は呆れるとすぐに気を引き締め、アルベルトに向き直る
「団長さぁん?貴方の騎士団には攪乱をお願いするわぁ?」
「その間にまずは主力を削りますので…『捕縛対象』の確保のタイミングは任せますが、邪魔はしないで下さいね?」
「なっ……きさま、ら……」
「アルベルト=マーベリック、俺の邪魔をすれば……『最初に』死ぬのは貴様だ…わかったら口を開かずにさっさと作戦を騎士共に伝えてこい」
「…………っ!?」
アルベルトが激昂する刹那、喉元、心臓の前後、頭頂部、それぞれに短剣が添えられ強制的に黙らせる…またも瞬きする間もなくユーリが四人、いや本体も含めると五人となったユーリがテントの中に存在していることになるが…問題なのは『誰一人』としてユーリの異能を欠片ほども理解出来ない部分である
(隊長……?)
(…………魔法ではないね、私が感じなかったのだから間違いないよ)
(じゃあ、この人も《保持者》ですか?こんなの…まるで対暗殺者専門の暗殺者みたいなんですけど…?)
「……貴様等も理解したな?……王命もギルドの依頼も関係無い。何処の誰が相手だろうと俺の邪魔をするやつから殺す……以上だ」
告げると同時に風景に溶け込むようにアルベルトを囲む四人のユーリは本体と共に姿を消し、その場から跡形も無く居なくなる
「……アルベルト殿、我等三人は王命により共闘を取りますが、ユーリに関しては……」
「わ、わかっている……皆にもそう伝えればいいんだろう?」
「ええ…お願いします」
「……じゃないとここの傭兵騎士団全員が皆殺しだものねぇ?お姉さんも流石にその惨状は見たくないわぁ」
「……誰だって嫌だと思うよ?姉さん…」
そして……再び冬麻達へ物語は戻る……