第3章『2つの神器』第3話~冬麻、苦戦する~
「……いつ見てもフィンの魔法は大したものだな…この威力、個人にむけるものではあるまいよ」
現れた四人の視線は先程まで冬麻が立っていた場所に向けられていた、今も煙で隠され遺体の確認すら出来ない事にジオは感傷に浸る資格は自分には無いと知りつつも…唐突に命を奪われたであろう名も知れない相手の事を考えてしまっていたのだ……
「……副隊長、お叱りなら後程お受けします。それよりも今は……」
「……ジオ様、騎士として私も心苦しくはありますが、今は団長とお嬢様の為にも……」
「わかっている……すまないな、フィン…」
「いえ…全ては御二人の為ならと、あの愚物に従っているだけですから…」
フィン、リーファ、ジオの三人はまだ立ち止まれないとばかりに森の外……目標である『黒い翼の女』がいるはずの集落に向かう為その場を後にし始める……が程なく歩みを止める事となる。四人目の騎士、グエンに呼び止められたからである
「副隊長、フィン、リーファ…この場を離れるのはまだ早いぞ」
「……グエン?どうしました?早く目標を連れていかないと……」
グエンの反応にフィンが返すもグエンの視線が森の外に全く向いてない事に怪しむと……その場の誰でもない声が四人の耳に聞こえてくる
「ふぅ、参った参った…他の三人は誤魔化せたのに、おっさんにはバレてるみたいだな?」
「「「!?」」」
驚きつつも、三人はグエンの下に駆け寄りジオを相手から護るように立ち塞がる。前衛の中央をフィン、両脇をリーファ、グエンでフォローするシンプルな陣形である。
「やはりか…大した小僧だ。フィンの魔法を防いだ上に気配まで殺していたとは…とはいえ、俺も半信半疑だったんだがな……」
「そうなのか?じゃあ…もう少し死んだフリしていたら不意をつけたかな?」
「フッ……かもしれんぞ?」
軽口で言葉のやり取りを終えたとき、ようやく煙が散り始め…人影が四人の前に現れる
その姿はやや土埃で汚れているものの、傷と言う傷は一つも見当たらなかった事にフィンは不思議に思う
「君、まさかとは思うが……私の魔法を全部避けきったのかい?」
「いや、全部当たったよ?これでも避けようとはしたんだけど……大した魔法だなアレ。危うく死ぬところだった……」
「「「「…………」」」」
(フィン……?)
(副隊長、私は一切手加減はしてません。あの魔法……大猪ですら肉片に変える威力ですからね?)
(グエン…どう思います、あの子?)
(私見と直感混じりだが……フィンの魔法を完全に防いだ上で、我等に不意打ちまで仕掛けるつもりだったのだろうな、あの小僧……。)
冬麻は立ち尽くす四人に向かい、歩き出す。その左腕には、いまだ顕現し続けている《楯》が展開されていた
「さて……追い付かれた以上は仕方ないよな?」
(集落まで連れていくわけにはいかない…なら、ここで俺が倒すしかない!)
「「「「!」」」」
(なんて量の気…!?)
(この子、何者!?)
(あの外見で、この密度……)
(まるでクルツ隊長、いやリンネ総隊長に近い…この重圧感、只者じゃない!)
フィン、リーファ、グエン、ジオはこんな場所ではありえない筈の敵と遭遇した事で一瞬、ほんの僅かであろうとも冬麻が纏う高密度の気による『威圧』に硬直を余儀無くさせられてしまう。
「…フィン!」
「ッ!……【穿て雷槍・宿すは爆雷・顕れ出よ・殲滅の……
ジオの声に返事すら惜しんで詠唱を始めるフィン。リーファとグエンはそれぞれの得物を構え冬麻を見据え……
「判断は早いけど行動が遅いな!」
た時には全員が冬麻の姿を見失っていた。僅かな気の光を後に残して……
「な!?」
「どこに!?」
瞬時に四人は周囲に眼を配るも影すら捉えられず……
「…ぐはッ!?」
「フィン!?」
「「!?」」
気付けばフィンの腹部に拳を叩き込み、苦悶の表情を浮かばせていた。
「な…………」
「…………速い」
「……!」
ジオは一瞬のやりとりに驚きを隠せずにいた……
ヴォルフ率いる傭兵団に居た時も、ガルディアお抱えの傭兵騎士団となった時にも見たことの無い動きに…である。
当然、気による身体強化は傭兵や冒険者を含めたこの世界で生き残る為には必要な技術だ。
個人差も当然ある。だがそれにしても……
「………っ」
詠唱を終える前にフィンは一撃で地に崩れ落ちる…ジオ達のすぐ側で…フィンは魔術師ではあるが槍を得意とする戦士でもある。詠唱中とはいえ隙を突かれるほど接近戦が苦手な訳でもない。なのに……
「っ小僧!!」
「あまい!」
「っ…そこっ!」
「おっと…惜しいな、お姉さん?」
ほんの一瞬、ジオが戸惑った間に仕掛けたグエンの剣をバックステップで避けた先にリーファの槍が三連続で放たれるも冬麻には掠りもしなかった事にリーファとグエンは内心驚きを隠せなかった
「…グエンさん」
「あぁ…俺達が見失う程の速度にフィンを一撃で沈める力、どれも一級品だ…。それも“超”がつくかもしれん……見た目に惑わされては俺達も二の舞になるぞ!」
「はい!本気で仕留めます!」
「……あ、本気になっちゃった?」
(もう少し、油断させて数を減らしたかったんだが……いや、逆に言えばそれだけ『場数』を踏んでるってことだよな、人殺しの……)
冬麻の眼には瞬間的にリーファとグエンの気の放出量が跳ね上がる様子が見えていた。
(……とはいえ、こっちは殺すつもりは無いから力の制御はしなきゃならないが、速度だけなら加減しなくても良いよな?)
「戦技『迅雷』ッ!」
「戦技『剛雷』ッ!」
リーファは蒼い雷を、グエンは紅い雷を『身体強化』の上に更に纏う様子に、さしもの冬麻も驚きを隠せなかった
「………え」
(気による強化に加えての二段強化かアレ?戦技って奴はそんなこともできるのかぁ……いいなぁ)
などと、本気で羨ましがっていた。
……ただし、知らぬは本人ばかりだが冬麻は既に二段強化の方法を習得済みである。
気による『身体強化』は本来、使い手なら誰でも行使可能な技能だが……強化状態から『更に』増強する冬麻の『脚力増強』などは既に秘伝の域に達している事を当人は知らない。そして見た目にも相手に気づかれることは無い。纏っているのはあくまで気だからである。
「ハッ!!」
「うぉ!?」
(お姉さん、速っ!?)
慌てて身体強化状態から更に『脚力』を1段階増強し、リーファの『迅雷』からの連続攻撃に冬麻は対応する
「はぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
(嘘でしょ!?初見で私の『迅雷』を見切って避け続けるなんて……速度だけじゃなく反射神経も一級品てこと!?)
「ぬんッ!」
(『迅雷』状態のリーファから逃れ続けるとは…末恐ろしいな、この小僧!)
リーファの速度に追い込まれつつ時に放たれるグエンの一撃を更に避け、いつしか冬麻は防戦一方となっていた……無論、反撃しようとは思うが隙が無い上に不慣れな高速戦闘で回避で精一杯なのが現実だった……
「ッ!ちぃっ!」
(あのおっさん…無駄な動きをせず剣の間合いに入る瞬間、先読みして一撃を放ってきやがる……良い腕してるな!一対一なら倒せるが……)
「やぁぁぁ!!『瞬刃穿』」
(この子、何者!?私の攻撃が全く当たらないなんて…このままじゃキリがないわ!)
「ッ…お姉さん、速すぎだろ!?」
(今のはヤバかった!一瞬、攻撃が加速したぞ!?当たるかと思った!森の中だから何とかなってるが…広い空間だったら捉えられてた!!こうなると…さっきの魔法を使う人を先に倒しておいて良かった!)
「君のような凄腕に、お褒めいただき光栄、ね!!」
(惜しい!今のはもう一押しってところかしら!)
逃げ続ける冬麻に食い下がるリーファ、そしてリーファが上手く誘導した先でグエンが一撃を放つも冬麻が避ける……終わりが見えない激しい戦闘の中で、グエンはジオに向かって声を荒げる
「副隊長!!!」
「!?……グエン」
珍しくジオが立ち尽くしていた事にグエンは今更ながら驚いていたが、その理由に思い当たることがあったため…声をかけるのを躊躇っていた……が、そうも言ってられない状況だとグエンは判断していたのだ
「あの小僧…戦いに慣れている訳では無さそうだ、といってもこのままでは俺もリーファも打つ手が無い…副隊長も手を貸してくれ!」
「……っ、しかし」
「忘れるなジオ=グラハム!我等が何故、アルベルトなんぞに従っているのかを!思い出せ!今も苦しむ同志達を!我等の団長とラピス様も戦っておられるのだ!我等が救わずに誰が救うのだ!?」
「……ッ……すまん、情けない姿を見せた。許せとは言わん、謝罪は行動で示そう!」
腰から片手剣を抜き放ち、グエンの横にジオは気を纏わせ並び立つ。戦いを終わらせ『黒い翼の女』を捕らえ一刻も早く、目的を成し遂げるために……
そして……
「ッ!」
(あ、ヤバイ気配………あの騎士の人か…間違いなく指揮官クラスだな…この二人と同格以上となると……これは無傷で勝つのはやっぱり無理っぽいな)




