第3章『2つの神器』第1話~冬麻の魔法~
「っ……ふっ……!」
ヴィーチェに後を任せ、気で身体強化を施した冬麻は更に効率を上げるべく下半身を増強して脚力と跳躍力を上昇させ先を急ぐが、集落までの距離が思ったよりもあるようでなかなか着かない事に焦りを感じていた…
「……ッ!まだ、着かないか…!?」
(ミューレの安全を確認したらすぐに戻ろう!どうにも嫌な感じがする…………っと!何だ…何かが、来る?…回避、間に合うか!?)
上昇した速度を維持したまま走り、時には跳躍して木々を通り抜け…やがて開けた場所が視界に見えた時、冬麻は自身の背に差し迫る『何か』を感じると無意識に身体を捻り『何か』の確認と回避する準備を同時に試みる。
「……槍!?しかも複数!?」
(しかも全部が光って…いや、放電?してるのか?まさか、魔法か!だとしたらヤバイ!)
直感的に『魔法への対策は同等以上の魔力による威力相殺、もしくは大きく距離を取って回避が基本』と、脳によぎった冬麻は…迫り来る十に近い光の槍に対し、咄嗟に自らが制御可能な気を全身強化+下半身1段階増強から、全身強化+両腕1段階増強に切り替えて更には気を前方に展開しつつ身体を覆う盾の形に固定し衝撃に備えるよう体勢を整える。
「はぁぁぁぁ!!」
(あの槍……全部が魔力で生成した攻撃魔法だ!しかも放電現象を起こしてるなら着弾と同時に爆発するタイプかもしれない!気の盾で防ぎきれるか!?)
ズキン…
「っ……ぁ……」
(何だ……心臓が……痛い……!?)
【………者よ…汝は…………を宿す……】
(…ぐ…っ……なん、だ?この声は…)
【…心せよ…汝に迫る………は……近い……】
(……はぁ、はぁ……!誰だ?何を言ってる!?……それに…これは、呪文?言葉が頭に浮かんできて……これは…これを、使えばいいのか?)
…【顕現せよ】
頭に浮かび上がる『力ある言葉』
これが…魔法の詠唱、なのか?
それとも…
【あらゆる一撃を阻む楯】
言葉を紡ぐ度に、俺の中にある『何か』が大量に失われていく…文字どおり、喪失する感覚…
【害ある全てを遮る楯】
でも……何故だか理解できる
『この力は俺だけの力だ』と…
この世界でのみ許された俺が使える力…
【死を拒む極光の護り】
気を消耗するのとは明らかに違う感覚……これが魔力なのか?なら、これはやはり魔法……こんなのポンポン使える奴の気が知れないな……
【不敗を誇るは七つの熾天】!
気がつけば…前方にそびえ立つは気の楯、ではなく淡い光を放つ綺麗な……そう、一枚の輝く光の楯が…目の前に存在していた
(…冬麻さん…貴方に宿る《固有魔法》…その名は…)
「《熾天覆う七つの円環》!!」
冬麻の叫びに形成していた気の盾は完全に形を無くし、代わりにハッキリと姿を現したのは……冬麻の魔力が生み出した、光の楯。
見る人が見れば、余りにも滅茶苦茶な高密度の魔力に唖然とするのは間違いない規格外の魔法……それが異世界に来て初めて冬麻が行使した魔法だった。
そして、《熾天の楯》は目前に次々と迫っていた魔力の槍を見事に受け止め着弾と同時に開放される魔力の爆発に冬麻は包まれていった……
そして、数分後……爆発により生じた煙がまだ晴れぬその場には四人の騎士達が現れていた。