第1章『異世界来訪』第4話~異世界人との初会話・思っていたのと何かが違うんだけど…~
誰かの声が聴こえる…聞き覚え、いや聞き慣れた声だ……
「……に…ゃん」
それに、誰かの姿がぼんやりと見える……すごく見覚えのある感じがする…それにしても…
「ねぇ……」
うぅ…頭が凄く痛い、ズキズキする…風邪だろうか?薬、あったかなぁ…
「…おにい……ゃん……」
…うぅ……この声、千鶴か?
なぁ千鶴…痛み止めを取ってきてくれないかな?頭痛が酷いみたいでさ…
「お義兄ちゃんってばぁ……」
…千鶴?先に痛み、止めを…………
「ねえ…お義兄ちゃん…」
あれ?……確か…『ちゃん』は恥ずかしいからって今日から義兄さんって呼ぶから…って…朝、出掛ける前に…あぁ、懐かしいなこれって確か…中学の入学式……あれ、今はもう三年生で…?
『早く…私を見つけて……待ってるよ?お義兄ちゃん……』
言葉と同時に霧が晴れるように、見知った微笑みを浮かべる女の子の姿…それは…
「千鶴っ!」
「キャッ!?」
慌てて手を伸ばすも何も掴めないまま空を切る、と同時に聞こえたのは誰かが驚いた声だった
「……………え?」
声の方に振り向くとそこには見知らぬ女の子が座っていた…間違いなく千鶴ではないのは確かだ……
そして、その手には濡れている布(といっても少々厚みがあるから折り重ねているのだろう)を持っている
「…き、気がつきましたか?」
「……きみ、は?」
って今、聞き間違えてなければだけど……
「私はミューレ。ミューレ=トゥールと申します、貴方は…?」
やっぱりだ!ちゃんと言葉がわかる!それにこっちの言葉もわかるみたいだ……違う世界でも言語が共通、してる?いや、そんなわけ……でも、現に会話が成立しているしな…これはどういう事だ?
「……あの?だい、じょうぶですか?」
返事がなかったからか、少女は俺を覗きこむように顔を見る。…結構可愛い…っ、いやいやいや!?なにを不謹慎な事を!
「…お、俺は…冬麻…九条冬麻…」
俺の名乗りに少女…ミューレは少し首を傾げる
「…トーマ…クジョー?」
何かがしっくりこないようで、しきりにクジョーとトーマを交互に呟いている……気になるのは発音、だろうか?それなら…
「…呼びにくいなら、冬麻でいいから」
俺は慣れない笑顔を浮かべ、ミューレに声をかける。
「トーマ……不思議な感じがしますが良いお名前ですね」
ニコッと笑顔を向けられて少しドキッとしたが、今はときめいてる場合じゃないな…しっかりしろ、俺!
「あ、ありがとう……えっと…ミューレ、だったよな。ここは…何処なのか教えてもらえるか?」
俺の問いにミューレは再び微笑むと背中の翼を一度広げバサリ、と鳴らす
「はい、構いませんよ」
そして俺の眼は再び、彼女を捉える。
今度は背中に生えている漆黒の翼に……って、翼!?
さぁ、待望の異世界人との初遭遇です!
漆黒の翼を持つ彼女はヒロインなのか!?違うのか!?