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エレィニアの救世主  作者: Archangel
『救世主』はじめました
2/13

おはよう知らない女の子

 目を覚ますといつもの部屋だった。

 ……せめて無機質な病院の一室だった。


 なんてことを期待しながら目を覚ましたのはどう贔屓目に見ても病室とは言い難かった。


 セミダブルほどのサイズのベッドに薄く堅いマットが敷いているのは春彦の好みだ。身を包む毛布や頭を乗せている枕からは良い香りが漂っているくる。

 木造の部屋の天上には照明はなくベッド脇に置かれたサイドテーブルに置かれた卓上スタンドのような照明だけが室内を照らしている。身を起こし明るくできないかと思って弄ろうとしたがスイッチの類いが見当たらない。しかも掛かっている傘の下には電球のような構造体はなく水晶の結晶のような六角柱が光っていた。


 部屋の隅には春彦のバックパックが壁に立て掛けられてあり、ここからは荒らされた形跡は認められない。

 近所というには少し離れてはいるが、普段現実逃避に籠っている山からの帰りだったので色々詰め込んでいるものだ。記憶通りならあとは食糧さえ用意さえすればまたいつでも行けるはずだ。


 ポケットに押し込んでいた小物と共にサイドテーブルに並べられていた携帯電話の時計は十九時半を示している。たしか十時半頃に山小屋を出たはずだから八時間は寝ていたことになる。きちんと時間か進んでいればだが。

 意識を失う直前の状態と傍にある見たこともない照明から予想はできていたが改めて電波が届いてないことを確認できてしまうと溜め息が出る。


 なんとも落ち着かない不安から取り敢えず何か身を守るものが欲しくバッグの奥からナイフを引き摺り出して腰にホルダを引っ掛けながら一枚だけある窓から外を覗くと夜らしく殆ど何も見えない。


「妙に暗――ああ、あの池か」


 月が出ていないようで遠くまでは見えないが、今いる建物は気を失う前に見えた池の傍らしく窓からの明かりが届く範囲にきらきらと水面が見えた。


 窓から室内を改めて見ると壁にタペストリが掛けられていた。

 上段三分の二くらいに肩に白い鳥を乗せて正面を向いた女性が描かれている。その右手には半分くらいのサイズの稲だか麦の穂束を抱えた女性、左手には西洋式の騎士のように甲冑に身を包み盾と槍を持つ者(多分男らしい)が描かれている。

 下段には真ん中に向かって男女が跪き、その外側に獣と人の混ざったような者や獣そのもののようなものまでいて、一番外側には耳の長い男女が手を広げて上段を仰いでいる。


「耳が長い人というと、エルフ? ……なわけないか」

「これは天与(てんよ)様、エルフをご存知なのですか?」


 見入ってタペストリの直ぐ前まで寄っていた春彦の独り言に誰かが応える。咄嗟に振り返るとそこには食事らしき物を載せた盆を持った少女がいた。

 肩よりは少し下まで伸ばした癖のない金色の髪を揺らし、窓際のテーブルに盆を置きこちらに改めて向き直り春彦に対して跪く。そして何かを言いかけるのを無視してその娘に問いかける。


「この絵はなんだ? これがエルフと言うなら下段のは人や獣人とでも言うのか? それにこいつらはなんで跪いている」

「それを説明するには先ずは上段におられる方々の説明が必要になりますがよろしいでしょうか?」


 タペストリに再び向き直り娘を見ずに続けろと指示を出す。


「先ず中央の方はこの世界で最も尊いとされる太陽と命を司る女神エレナ様にございます。その右手に控えるのはエレナ様の伝令にして豊穣の娘、左手にはエレナ様の盾にして剣の天上の守護者でごさいます。下段の者達はこの世界の人々の象徴であり、エレナ様達を跪き崇めております」

「エレナ……世界……エレィニアか」

「はい、この世界はエレィニアと申します」


 気を失う直前に聞こえていた声が世界エレィニアと言っていたのを思い出し呟くと娘が肯定する。


「それで、お前は誰だ?」

「私は太陽の泉の守り手にして天与の巫女として天与様に身を捧ぐべくお待ちしていたアリスと申します。どうぞ何なりとお申し付けください」

「テンヨ……?」

「はい、天神エレナ様より世界を救うべく我ら下界の者にお与えになられた希望である貴方様のことです」

「俺が? 天与?」


 振り向き胡散臭そうに尋ねる春彦にアリスと名乗った少女は跪き俯いたまま答える。


「何なりと、だと?」

「はい」

「じゃあなにか? 俺が今晩床を共にしろと言えば俺と寝るのか?」

「……はい」

「それでは死ねと言えば?」

「……て……天与様が死ねと言われるなら……し、死ぬの――」

「わかった。悪かった。もういいから顔を上げろ」


 震える肩があまりにも哀れに思い溜め息混じりにそう言って止めると「ふえ?」と間抜けな言葉と共に見上げる娘の青い大きめの瞳は涙で潤んでいて罪悪感に苛まれた。


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