落ちて新世界
耳にごうごうと風の音が五月蝿い。
今どんな状態かだって?
ついさっきまで原付に乗っていたん。浮き砂に後輪掬われて原付ごとガードレールの隙間から吹っ飛んだのは覚えている。
だが気付いたら俺は遥か高いお空の上から真っ逆さまだ。
なんで山から降りてて山より高い位置を飛んでるかなんて俺に聞くな。寧ろ俺が知りたい。
思えば悪い人生じゃあなかったとは思う。
早死にしちまったが取り敢えずは高校までは出してくれた両親。
結婚なんて柄じゃないがそれなりの恋愛もできた。
世間一般じゃ羨まれるような可愛い幼馴染みもいた。
そう、悪い人生じゃあなかったさ。
――それではもう未練はありませんか?――
やりたかったことがない訳じゃないが成仏はできそうだ。
どこからともなく聞こえる声に答える。
――では現し世とのお別れも大丈夫ですか?――
まあ良いんじゃないか? 少々間抜けな最後だが、それなりに楽しめたさ。
落下先は池だか泉だか知らんがどうやら底の見えない水溜まりらしい。しかしこの速度ならどうあがいても無理だろう。
……てか、どこだよここ。せめて知ってる場所で死に――
――ようこそ春彦、私達の世界エレィニアへ――
そこで俺の意識は途切れた。それが如月春彦の幸せとは言えなかったが不幸とも言い切れない人生が終わって、よりクソッタレな人生の幕開けだった。
2016年05月24日 タイトル修正