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前篇

連載の息抜きで書いた物語です。

テンプレ及びご都合主義満載で、のりと勢いで書いていたため、細かい設定に対しての突っ込みはご容赦願います。


短編ですが、長くなりましたので三話に分けて投稿します。※編集出来次第順次投稿します。


この作品が、少しでも暇つぶしのお供になれれば幸いです。









「聞いていらっしゃいますの?」


 はいはい、聞いていますよ。


「貴女が幾人もの殿方を籠絡しているのは噂で聞いております。その中にはわたくしの婚約者がいらっしゃるという事も……」


 そうですね。

 いますね。

 麗しの王子様こと、この国の第一王子、センディエル様が……。


「貴女は理解しておられるのですか? 殿下を、いいえ、わたくしからあの方を奪うという事がどれ程の罪になるかという事が!」


 罪、ねぇ……。

 別に奪った訳じゃなくて、ただ単に付き纏われているだけなんだけどなぁ~。


 あ~、これはあれですか?

 悪役令嬢によるヒロイン虐めの場面ですか?

 もしかして、イベント?


 でも、おかしいよね。

 だって、貴女の背後に控える、いや、どう見ても貴女を守るように陣取る4人の殿方たちは、本来なら私の攻略相手でしょう?


 それにさっきの殿方を籠絡しているって……それは私ではなく、貴女だと思うんだけど、違う?


 目の前で怒り心頭の如く私を睨みつけている令嬢は、金色の巻き毛に抜けるような青空の瞳をした勝ち気そうな美少女。その身分も高く、この国の宰相を務める侯爵様のご令嬢アンネローズ様です。


 今まで一度も私に接触してこなかったはずなのに、どうして今になって?

 

 確かに殿下とは懇意にしているけど、別に令嬢から奪おうなどとは思っていないし、しかもこの令嬢、どうも、記憶もちみたいなんだよね~。

 

 あ~あ、めんどくさい……。


 なんで私がこんな目にあわなくちゃならないんだろう?

 これはあれか? 

 いくら、避けようとしてもまるで無駄な努力と言わんばかりのゲーム補正ですか?


 しかもこれって、悪役令嬢側に補正、かかってないか?

 おかしいでしょう、このゲームのヒロイン、私なんだけど……。




 ええ、お察しの通り。

 私が乙女ゲーム転生を果たした悪役令嬢――いやいや、純然たるヒロイン事、サラ・ネクリスト。没落寸前の貧乏子爵家の娘です。




 ★




 事の始まりは、2年程前。 


 生まれ持った魔力の資質を買われ、貧乏子爵家でありながら王立学園魔術科に入学を許された時に全てが始まった。


 それまで、将来の生活の為に――仮に没落しても生きていけるよう――自分の力で収入を得ようと学園で頑張る決意を秘めていた私は、壇上であいさつをするこの国の第一王子殿下を見た時、突然の頭痛に襲われた。


 激しい頭痛とともに溢れて来るのは、所謂、前世の記憶。

 なぜ、前世の記憶と思うのかは、自分でも分からない。ただ、そうだと認識せざるを得ない程の知識がいっぺんに思い浮かんでくるのだ。

 その記憶の量は半端なく、ぐるぐる回る視界と止むことのない頭痛で、案の定、私の意識は途切れその場で倒れました。


 その時、私を医療室に運んでくれたのは、あろうことか第一王子殿下その人。壇上から私が倒れたのを見つけ、周りの制止を押しとどめて運んだという事だ。


 後で気づいたのは、これがイベントだったという事実。


 ただし、倒れた理由が違うけど……。


 ゲームなら、学園入学が嬉しすぎて寝不足がたたり貧血で倒れる、だったはず。でも、今世の私にそんな可愛げがあるわけがない。


 前日? しっかり眠りましたよ。

 だって、これから頑張って将来安泰な花形職業である王国魔術師を目指さなきゃならないんだから、入学式で躓くわけにはいかないでしょう? 


 まあ、何はともあれ、殿下にはあれ以来妙に可愛がってもらっている。

 ええ、可愛がってもらっているだけであって、別に恋をしているわけでは決してない。ここ、大事!


 それと気になるゲームの名前だけど、はっきり言って覚えていない。


 前世の私は相当な乙女ゲーム好きらしく、とにかく手当たり次第遊んでいたようです。だから、ゲーム内容は兎も角、タイトルは全くと言っていいほど記憶にない。

 ただ、攻略キャラの名前や容姿はなんとな~く記憶にあるので、こんなゲームあったなぁ、と思う程度。

 その攻略内容だって、記憶の奥に霞んで簡単には思い出せない。イベント後、ああ、あれイベントだったんだ、と思うくらい。かといって、攻略するつもりは毛頭ないけどね。


 面倒だし……。


 でも、近頃そうも言っていられなくなったんだよね。理由は簡単、件の悪役令嬢と呼ばれる侯爵令嬢アンネローズ様のせいなのです。




 ★




「ローズにつかまったって?」


 にこやかに、それはもう楽しそうに私に問いかけるのは麗しの王子様こと、第一王子、センディエル様。

 その見た目は、ゲーム中でも一番人気だったはずのキラキラ王子。

 銀糸の髪と翡翠の瞳、溢れる気品と見事な立ち居振る舞いは見るものすべてを魅了し、その整った顔立ちは中世的ではあるが決して女性と見間違えることは無く、むしろ成長と共に凛々しくなっている。

 視野も広く、その知識の広さは私も舌を巻くほど……。

 この方が将来王になると思うと、我が家の実情は兎も角、この国は安泰だな、と感じられずにはいられない。


 しかし! 私は知っている。

 この殿下が、優しげに見えて、その実かなりの苛烈な面もあると―――


 何時だったか、学園の実習で王都のすぐそばにある森に行った時の事。

 学園の令嬢令息を狙った強盗団が現れ、運悪く私が捕まった時、助けに来てくれたのが殿下だった。…までは良かったんだけど、その時の殿下の情け容赦ない――見るな、と言われたので目を閉じていました――制裁は、言葉で語るにも恐ろしいものでした。


 尋問もあるから殺すまではしてないみたいだけど、後で聞いた話、死ぬ寸前だったとか……。


 助けられた私も、


「君はいったい何をしていたんだい? 一人でふらふらと奥に進んで、私が気づかなかったらどうするつもりだった? まさか、一人で立ち向かえるとでも思っていたのかい?」


 いや、そこはむしろ「無事で良かった。君に何かあったらと思うと気が狂いそうだったよ。もう、私に心配はかけないでくれ」じゃないですか? だって、これ、明らかにイベントでしょう? 別に狙って起こしたわけじゃないけど……。


「なにか、言いたいことがあるような顔だね、サラ」


 呼び捨てですか――それほどお怒りだと……。


「いいえ、なんでもありませんわ、殿下。助けて頂いて感謝いたします。それと、私の愚かな行動でご迷惑をおかけしたこと謝罪いたします」


 丁寧に礼をする私をふわりと包み込む腕。


 ん?


「無事で良かった。心配したよ、サラ」


 艶やかに耳元で囁かれる殿下の声音。

 僅かに心臓が跳ねたのは、気のせいと思いたい!






 若干ゲームと違っていたけど、やっぱりあの時のあの事件はイベントだったんだよね。


 確かあの時、ビシバシと突き刺さるような視線を感じて目を向けた先にいたのは、殿下の婚約者アンネローズ様。

 抱き合っている私たちの姿を見て、怒り心頭に割って入ってくるのがゲームの定番だけど…。


 素通りしたんだよね~。


 アンネローズ様はいつも睨みつけては来るけど絶対に接触してはこない。

 あれってイベントを警戒しているというより、極力フラグを回避しているという感じに見える。いや、おそらく回避しているんだと思う。


 それに、まるで金魚の糞の如く令嬢にくっついている4人の殿方たち。


 いずれも殿下と遜色ない見目麗しい殿方たちではあるけど、みなさんアンネローズ様に好意を持っているように見えるんだよね。その証拠に、私に向けられる視線は冷ややかそのもの。


 ええ、ええ、それはもう恐ろしい程に―――


 本来なら、私の攻略相手のはずなんだけどね~。

 入学した時にはすでに令嬢の取り巻きと化していたなんて、なんか、笑える……。


 これはあれですか?


 前世の記憶をもって転生したら、悪役令嬢でした。最悪なエンディングを回避するために奮闘していたら逆ハーになっていました、という、俗に言うヒロインざまぁな展開の悪役令嬢もの、ですか?


 確かにこの乙女ゲームの悪役令嬢の末路は、ヒロインを執拗に虐め倒し、しまいには殺害しようと企てた挙句それを見咎められ、好色家と名高い父親よりも年上の隣国の貴族の元に嫁がされる、だったっけ? 詳しくは覚えてないけど、確かそんなエンディングだった気がする。


 いやだなぁ――

 こっち、ヒロインに転生したはいいけど、攻略するつもりさらさらないし、殿下だって、とてもじゃないけど身分が違いすぎるでしょう? かといってこのままざまぁされるのもなんだかなぁ、って感じだね。


 っていうか、うち、とてつもなく貧乏子爵家だから、何もしなくてもそのうち没落しそうだからほっといてほしいんだけどな……。


 無理か……。


 ふと、隣を見ると、明らかに楽しそうな殿下の顔。

 なんでこうまで私に構うのか理解できん。


「……殿下。私に構う暇があるのなら、婚約者様を大切になさいませ」


「君が被害をこうむる、と言いたいの?」


「見てわかりますでしょう? アンネローズ様が殿下に好意を持っているのは婚約者という立場からだけではないでしょうに。今回のことだって…」


「分かっているよ。君にローズの関心が向いているってことはね。いつも、居殺さんという目で君を見ている事も」


「でしたら――」

「それでも――」


 私の言葉に被せるように声を発した殿下は、徐に私の手を取ると、まるで懇願するかのように見つめてきた。


「……私の心は決まっている。君も覚悟を決めるんだ。どうあがいたって、君に覆すことは出来ないよ。君のすべては私のものだ」


 指先に軽く口づける殿下は見惚れるほどきれいで、さすがは麗しの王子様と言われる程。


 でもね、認めたくないものは認めたくはないんですよ、私は!

 だって殿下が欲しているのは、私ではなく、私の持つ力。

 この国では珍しい光と闇の属性を、両方とも持っている私を掌中に入れたいが為。そこに恋愛感情は無い、いや、無いと思いたい―――


 殿下のセリフにときめいたのも、強引さがちょっと良いかも、と思ったのも絶対に気のせい!


「諦めるんだな、サラ」


 そう声をかけるのは殿下の側近ジール様。

 薄紫色の長い髪と闇色の瞳を持つ公爵家の嫡男で私の従兄妹――母親同士が姉妹――でもある彼は、ゲーム上では各攻略者たちの情報をくれるサポートキャラ。

 その実、隠しキャラでもあるんだけど、他の取り巻きと化している殿方たちとは違って、アンネローズ様に好意は持っていないよう。


 殿下の側近となるべく幼いころから接していたはずだから、アンネローズ様の事も知っているはずなのに、その事を訊ねると決まって機嫌が悪くなる。


 私がジール様と従兄妹の関係だと知ったのも、入学して暫くたってからだから――母は駆け落ちの如く貧乏子爵家に嫁いだ手前、実家とは連絡を絶っていたらしい。因みに母は伯爵家の次女――ジール様から声をかけられた時はびっくりした。

 

 初めはお互い従兄妹だと知らなかったけど、何度か会話しているうちにジール様の方が気付いたんだよね。

 

 母の姉…ジール様のお母様は、常に母を案じていたらしい。その事を母に伝えたら、泣いて喜んでいた。 現在二人はとても密に連絡を取り合っていて、なんでも、子爵家が没落したら、使用人含めみんなで公爵家に厄介になるとまで話しているらしい。それを公爵様も了承しているとか……。


 本当に良いのか? それで――


 何はともあれ、そのおかげで没落後の生活はあまり心配していない。


「諦めろと言われましても、このままで済む問題ではありませんでしょう?」


 もうすぐゲームのエンディングにあたる卒業式が間近に迫っている今、悪役令嬢たる彼女からのざまぁを回避するには、絶対にその場での婚約解消は避けたい所。


 なのに、その悪役令嬢ことアンネローズ様は、入学してからずっと遠目で眺めているだけだったにもかかわらず、どういう風の吹きまわしか、ここ最近やたらと絡んでくるようになったのだ。


 曰く、なぜ殿下が貴女如きを庇いますの? とか、貧乏子爵家如きが、殿下につりあうと思ってまして? とか、貴女の存在そのものが目障りなのです! とか、特に酷い時には、令嬢の持つ炎の魔法で怪我を負わされそうになった事すらある。すんでのところで殿下に助けてもらったけど、その後の令嬢の癇癪には驚いた。


「わたくしというものがありながら、なぜそのような貧乏子爵家の娘を庇うのです! センディエル様は、わたくしを蔑になさるのですか! このような事、父や陛下が決して許されませんわよ!」


 捨て台詞のように叫びながらも、その表情は、まるで勝ち誇ったかのように笑んでいて、まるでイベントを楽しんでいるようにも見えた。


 だから、余計に分からなくなる……。


 なぜ、初めの頃は、極力イベント回避に徹していたはずなのに、ここに来て方向変換し、わざと私とのイベントを起こそうとしているのか。

 

 アンネローズ様の行動は、あえて婚約破棄のイベントを起こそうとしているようにしか見えないんだけど……。


 もしかして、本当にアンネローズ様は――いやいや、この前世の記憶もち令嬢は、ざまぁな展開をやりたいんだろうか? 卒業パーティーで婚約破棄されたところを、逆に私や殿下を断罪するというイベントを……。


 それ、可能か? 

 本当に虐めや危害を加えている段階で、かなり無理があると思うんだけど、良いのか? 


 まぁ、一つを除いては大した虐めじゃないけど……。


 アンネローズ様を見ていると、勝機は我にあり! な感じで嬉々としてイベントを起こしているんだよね。


 私、知らないよ。


 麗しの王子様を敵に回して、本当に良いの、アンネローズ様?




 


ありがとうございました!

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