悪巧み
壁には、数々のビールや焼酎、ウイスキーが飾られて、並んでいる。ここは、NPCの経営していた酒場であっただろうという建物だ。
ちょうど、俺も『リーフオンライン』をし始めた頃に、情報交換をしていた。デスゲームが始まってから、NPCもプレイヤーもめったに来ることはない。
俺は、五年間ゲームでしていたように、あることをしようと企んでいた。しかし、所持金が5万コインしかない今、他人を利用するしかない。
誰か、利用しやすいバカな奴はいないかと考えた。ちょうど、お金に困っていて、直情的、状況が悪くなっても俺のお金は確保できる捨て駒は……っと。
いるじゃないか、手ごろな奴が。お手頃な彼を呼び出した。
ギィー、バタン! カランカラン……
ライ様ご入店~♪
「ライ、良い儲け話があるんだ。やらないか?」
俺は、気持ち悪い作り笑いで、ライに話しかける。
「ここでか? お前、ヒョロそうな見かけによらず大胆だな。せめて、あそこの公衆トイレで頼む」
ライは、流れるような自然な動作で、自分の胸のボタンをとり、衣服をはだけさせる。
「……ん?」
俺は一瞬頭が真っ白になる。……危険な匂いを察知。違う。そっちじゃない。
「儲け話といったんだ。俺がするのは、いつだって商売だ。穴掘りじゃない」
「……だとしたら、お断りする。どうせ、ろくでもない話だろ」
ライは乗り気じゃないようだ。というか、お前、ノンケじゃなかったのか。まさかの二刀流か、芸達者め。
「お前、アンチ自由の革命軍っていうギルド立ち上げたばかりで、軍資金が必要なんだってな?」
さぐりをいれてみる。
「……」
ライの整った顔立ちは、ピクリとも反応がない。
「うまくいけば、ユリもお前に振り向いてくれるかも、だぜ? ホモサピエンスのお前には興味はないか」
ライの頬がピクリと動く。
こいつギルドより、恋路かよ……ギルドマスターってなんだっけ。
それより、ライの食いつくツボはっけ~ん。にた~っと笑いそうになるのを堪えると、俺は早口で畳みかける。
「あ~ぁ、もったいないな~。せっかく、お前だけにとっておきの話をしに来たんだけどなあ」
ライの聴覚をくすぐるように、声量を上げて特別感をアピールする。
そして、俺は、両手を振りながら、出口に向かって歩く。
出口手前で、ピタリと止まる。
よし、トドメの一言だ。
「気持ち悪かったよ。ただ、楽しかったよ、お前とは。もう二度と会うこともないだろうな。さようなら、ライガ。永久に」
ま。なんの思い入れも元々ないのだが。
俺はバーの扉をバタンと閉めて外に出る。
「……っだぁ~っ! もう分かったよ! で、なんなんだよ? その儲け話ってのは?」
「まぁ、そう急かすな。急いては商機を見逃すぞ。話は簡単。俺の5万コインとお前の1万コインで回復薬を買い占める。そして、高価で売りさばくだけだ」
「勝算は?」
ライがブルーの綺麗な瞳で、いぶかし気に見つめてくる。
「90パーセント!」
俺は少しはったりをかませて強く言う。
現に、『リーフオンライン』の頃に道具屋で店売りしていたNPCがいなくなり貴重品になった。しかも『回復薬』の言葉通り、死ねば消える今、命に直結するアイテムだ。
「よっしゃぁっ! 乗ったぁっ!!」
ライがガッツポーズをして、耳鳴りがするくらい大きな声で叫ぶ。
はい、ミッションコンプリート。
「なぁっ! しかも、俺がユリとうまくいくように協力してくれるんだよな?」
両手の人差し指をつんつんしながら、ソフトマッチョなライが言う。
お前、やはり、ノンケなのか。シャイボーイめ、少しきもかわいいぞ、コイツ。俺はフッと微笑んだ。
そして、すぐにブルッっと身震いした。いかんいかん、危ない扉を開けるな、俺。
「ああ、分かったよ(本当はなにもわかってない)」
うまくいくかなんて、お前しだいなんだがな。俺はからかうように笑った。