出会い
草木も眠る丑三つ時。気持ち悪いほど静かで、飲み込まれそうなくらい濃い闇。そんな中で二人の少年が立っていた。そして地面には、百人ほどの人間がボロ雑巾の様な状態で倒れている。
「なぁ、悠吾」
自分の血や返り血で、血みどろになっている少年が言った。
「ん~? どした~茂ちゃん」
綺麗な格好で、動かない人間を重ねた上に座る少年が応える。
「俺、もう喧嘩やめようと思うんだ」
それから、無敵喧嘩師は巷から姿を消した。
「てな感じの事があってから二年以上経過したわけだけど、最近どう?」
「……はぁ?」
ある日の昼休み。いつも通り悠吾と飯を食っていると、いきなり昔の話をしてきた。それも俺が一番やんちゃしてた頃の。
「いやー、だってあれから全然危ない話聞かないんだも~ん。つまんな~い」
「知るか」
サンドイッチを頬張る。今日は無難にタマゴサンドだ。
「ねね、また無敵喧嘩師の歴史作んない? 多分昔よりも強い人いるんじゃない? 茂ちゃんより強い人いるかもよ?」
「いても関係無ぇよ。俺はもう喧嘩しないし」
「もー、面白くなーい! そんなサンドイッチばっか食ってないで喧嘩してこいや~。伝説作ってこいや~」
文句を垂れつつ弁当をかきこむ悠吾。こいつは昔から全く変わらんな。その話はそれだけで終わり、昼休みが終わるまで俺達は他愛ない話をしていた。
廊下がガヤガヤと騒がしくなってきた。
「ん? 何かあったのかな?」
悠吾が首を傾げながら廊下を見た。俺もつられて見ると、皆中庭の方を向いている。
「誰かがふざけてるんじゃないか」
「そんな風には見えないけどな~」
野次馬魂を擽られたのか、悠吾はさっと立ちあがりそそくさと雑踏に混ざっていった。全く、まるで子供みたいだな。
悠吾はすぐに戻ってきた。心から楽しそうに
「茂ちゃん! 大変だよ! 大変大変!!」
と言いながら。
「とても大変そうに見えないんだが」
「いいから来てみてよ! ほらほら!」
悠吾は俺を急きたて、腕を掴み無理矢理立引っ張って行った。
雑踏を掻き分けて、窓から中庭が見える位置に来た。中庭には、明らかに不良な男子三人と、怯えた顔をしている女子、その子の前に立って不良を睨む女子の五人がいた。不良が女の子に絡む決定的瞬間だった。こんな時代遅れなことがまだあったことに、俺は少し驚いた。
「ほらほら茂ちゃん。か弱そうな女の子二人が暴漢に襲われてるよ? 助けなくていいのかな? かなかな?」
悠吾がウザいほどに絡んでくる。顔が滅茶苦茶楽しそうだった。
「先生呼んだ方がいいだろ」
「そんなの全然面白くなーい。なぁに? 茂ちゃんは、女の子二人も救えないほどになよなよしくなっちゃったわけ? 全く、情けないね」
「……あ?」
「ほら、そんなに怖い顔や声出しても、女の子を救えないような男ってぇ……情けないにもほどがあるよ?」
瞬間、俺は窓から飛び出していた。ここは二階だが、俺は三階までなら飛び降りる自信があった。そして、不良共の前に着地してから気がついた。俺は、悠吾の上手いように踊らされたのではないのか、と。しかし、気づいた時にはもう遅かった。
「んだよテメェ」
「二階から飛び降りてくるとかマジ超馬鹿じゃねぇの?」
「ま、その勇気は褒めるけどねー」
いきなり俺が跳んできたことに驚いていた不良だったが、すぐ眉間に皺を寄せ俺を囲ってきた。女の子二人は、未だにびっくりしているようだ。ちょっと声かけて安心させるか。
「あー、もう大丈夫だー。ちょっと離れててねー」
「茂ちゃん棒読みすぎー!」
首が千切れんばかりに振り向くと、窓から悠吾が身を乗り出して満面の笑みでこっちを見ていた。
「後で覚えてろよ……悠吾」
「何ブツブツ言ってやがんだ、ァア!?」
不良一が胸倉を掴んできた。イライラポイント1。
「テメェそんな調子こいてっと痛い目見せんぞゴラァ!!」
顔の近くで大声+唾を飛ばす。イライラポイント2。
「ガンバレー! 茂ちゃーん! 負けるなー!」
心底楽しんでいる悠吾の声。イライラポイント3。限界一歩手前。
「あっ、もしかして、喧嘩する勇気も無いくせに飛び込んできたの? でもそれ、逆にかっこ悪いよ?」
不良三の空気を読まない発言。イライラポイントMAX。何かがキレる音がした……。
「あ、やば――」
珍しい、悠吾の焦った声がした時には、もう手を出していた。
右手で不良一の後ろ髪を掴み、頭突きを食らわせる。一回、二回、三回。三回目の時には、胸倉をつかむ手が離れた。俺も髪を離し、顔面に左の拳をめり込ませた。綺麗に不良一は飛んでいった。
「やるか? ぁあ?」
睨むと、残りの不良は全力で逃げて行った。クソ、こいつ片づけろよ。あーもう!! イライラする!
「あ、あの……」
頭をかきむしっていると、絡まれていた女の子が声をかけてきた。それで、俺は冷静を取り戻した。
「あぁ、ごめんね。大丈夫? 怪我とかしてない?」
「は、はいっ。大丈夫です。その、ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
二人は深々と頭を下げた。
「いやいやいや、そこまでされるようなことはしてないから。大丈夫ならそれでいいから頭を上げて」
全く……俺に頭を下げるなんて……。気恥ずかしさで、俺は早口で別れを告げて、素早くその場から去った。
教室に戻ると、悠吾がニヤニヤしながら絡んできたから脛を蹴りあげてやった。
これが、俺と後輩との最初の出会いだった。
続かせたいと思って投稿しました。
……登場人物などの設定をまた考えなければ……