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消息

作者: pinkmint

さようなら

さようなら

お別れするのはつらいけれど


予感がなかったわけじゃない


天井につかえて首の折れそうなヤシの木

ヒカゲヘゴのぐるぐる

ガラスの壁を這いあがる蔦

蝶も鳥も花も木々も湿度計も温度計も

不安そうにゆらゆら揺れながら

小さな声で囁きはじめていた


誰も見ては駄目 誰も見ては駄目

誰も見ては駄目 誰も見ては駄目


月曜の午後は誰も来ない

ガラスの割れる音がする

二階に幻の売店の影


アイスクリームケースを開けてちょうだい わたしはそっと呼びかけた


あなたは木陰からひっそりと出てきて

わたしにアイスを差し出した

冬に生まれたちょうちょを

行き場がないから預かってと手渡したら

両手でやさしく受け取って

ぼくはもう駄目になるんだ といった


オレンジ色の蝶は 粉砂糖のように手の中で散った


ぼくは蔦を着てぼくのかたちの緑になる

もう何も怖くない


ぽたりぽたりとおちてくる

あなたの涙の雫を

エボシドリが首をかしげて受けている


緑の壁を透かして陽の光は湖の底のよう

ガラスの割れる音がする

字も読めないころからずっと

ずっとあなたが好きだった

そういったら

水の香りのするきれいなからだで

さいごにあなたはわたしを抱きしめた


あなたに抱かれて朽ち果てたかった

水滴が絶え間なく落ちてくる

あなたの中に閉じ込められて

瓶から生まれた蝶のように

途方に暮れてあなたの中をさまよいたかった 

あなたにしがみついたまま

みどりいろの廃墟になるのが夢だった



鮮やかな鳥が一羽また一羽と消えてゆくのを

蔦を通して最後の夕焼けを

あなたはがらんどうの目で見て

長い長い溜息をついて

それから眠りについたときいた




おやすみなさい




わたしのいとしい温室






挿絵(By みてみん)











*2013年6月2日に閉館した、井の頭自然文化園の熱帯鳥温室に捧げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひとつの建物を、生きているものとしてとらえる、その手法が素晴らしいと思いました。 [一言] 緑の壁をすかして~廃墟になるのが夢だった このくだりが好きです。 小説も素晴らしいですが、詩も…
[一言] こんばんは。詩、初めてと仰るけれど。 小説の中に挿入されたものもあるし、詩的な文章をお書きになることでもあるし読むほうはどーぞどーぞ、助走ナシでやっちゃって下さいー、なんですけども。 いきな…
[一言]  良い場所だったのですね。  心が癒される場所だったのですね。  小さい時からの思い出が詰まっている場所だったのですね。  そんな場所が消えていく、自分の身を切られるような錯覚を感じさ…
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