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新人研修

作者: 漂流 中

「課長、今日の新人研修よろしくお願いしますね」

 まだ、入社してそれほど年数の経ていないスミコがなれなれしくおれに言った。もっともスミコは女性の社員の中ではすでに古株の社員だが。

「新人研修って関東のお客様相談室の?」スミコと仲の良いカオリが聞いた。

「あたり、ピンポンピンポン」とスミコが人差し指を立て前後に振り、大きな口を開けて言った。

 何がピンポンピンポンだ、全く近頃の若い者は言葉使いがなっていない。だいたいここは直接応対することはあまりないにしてもお客様をサポートする部署だ。折を見て、正しい、丁寧な日本語を使うように言い聞かせているのだが、全く馬の耳に念仏で困ったもんだ。

 おれの勤めている会社はここ名古屋に本社を置いている家庭用品の中堅メーカーだ。おれはここでカスタマーサポート部門の課長をしている。今日は、関東に開設しているお客様相談室で新たに採用した新人の本社研修がある。お客様相談室は以前は名古屋の本社ビルの中にあった。運営上はその方が望ましいのだが、電話回線の設置しやすさ、人の集めやすさ、純朴さ、人件費、オフィスの借りやすさ等から数年前、関東の田舎へ移した。

関東に移したことによる問題が無いわけではない。

 どうしてもこの名古屋にあった時に較べるとお客様への応対、言葉使いが粗野になりがちだ。そのためにフォローが欠かせない。今日の新人研修もその一環だ。そして、おれは今日、午後最初の研修の講師を担当することになっている。

 何と言ってもここ尾張名古屋は、織田信長公が天下を統一し、名古屋に幕府を開いていらい日本の中心だ。爾来四百年余り、それは明治の維新以後も日本の首都となり変わらない。長い年月を経て培われた文化は何ものにも変え難い。料理、風習など何をとってもやはり名古屋は洗練されていて、関東は野暮ったい。


 昼休みが終わり午後となってから、おれが研修ルームに入ると新人たちはすでに席に着いていた。おれは自分の持ち時間の終える間際まで、お客様の声を聞くことの重要性、お客様対応が企業の命運を分けることを実例をあげて新人たちに説いて聞かせた。そして、締めくくりに新人たちに最も大事なを言って聞かせた。

「いいですか、みなさん、お客様対応の基本はまず言葉使いです。お客様相談室にお電話くださるお客様は、あなたがたがまさか関東から応対しているとは思われていません」

「いざと言うときにぼろを出さないためにも、たとえ関東に住まわれていても、今日からは、日常生活、常日頃から、正しい日本語、標準語でお話しされるように心がけてください」

 ここまで言って一息ついてからさらにたたみかけるようにおれは言った。

「それではみなさん、これから、関東のみなさんがよく間違える、あまり身につけておられない標準語をこれから言ってみますので、みなさんあとからついて言ってみてください」

「おみゃーさま、どえりゃあ、ちょーだゃあ、してちょお、まんだ、よーけ、はいお願いします」

「おみゃーさま、どえりゃあ、ちょーだゃあ、してちょお、まんだ、よーけ」

新人たちがおれのあとから声をそろえて言った。

「いりゃあせ、めちゃんこ、だがや、ちょこっと、ほかる、えびふりゃ、はい言ってみてください」

「いりゃあせ、めちゃんこ、だがや、ちょこっと、ほかる、えびふりゃ」

 よし、ちゃんと言えた、どうやら今年の新人はみな、どえりゃくスジが良さそうだがや。

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