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五、招かれざる者 18

 突如飛んで来たジョー。ジョーは氷室の後頭部にその飛んで来た勢いのままにぶつかった。

「うわッ!」

「ペリッ!」

 もつれるように倒れ込むジョーと氷室。二人は悲鳴をももつれさせたように生け垣に突っ込んでいく。防寒着の厚手の生地をさらし背中を向けて氷室は生け垣に頭から突っ伏した。その上に羽毛をまき散らしジョーが覆い被さる。

「でかした! ペリカン!」

 その様子に宗次郎は右足を半歩後ろに身を退いた。退いた右足を軽く折り曲げ作りて体重を後ろに預ける。宗次郎はそのまま右足の溜めで作り出したバネで前に飛んだ。

「来い、ペリカン!」

 宗次郎は倒れ込んで来た氷室の上を飛び越える。生け垣と氷室の身を飛び越えながら、宗次郎は左手を下に伸ばしてジョーの首根っこを掴んだ。

「グワッ! ペリ……」

 突如喉元を掴まれ珍しく水鳥らしい声を漏らすジョーは、自尊心からかそれでも苦しげに語尾を続ける。

「この……」

 自分の背後に着地する一人と一体を先ず振り返って睨みつけながら、氷室は思わず着いた形の両手に力を入れる。生け垣の柔らかい反発に手をぬかるみに取られたかのように左右に交互に沈めながら、氷室はその身を直ぐに立ち上がらせた。

「おっと、もう立ち上がりやがった」

 その様子に宗次郎は警戒心あらわに斜めに後ろに身を傾けて振り返る。

「ペリ……」

 喉元をむんずと掴まれて我が身を振られたジョーは、羽毛を周囲にまき散らせながら無意味に羽を羽ばたかせる。

「気をつけろよ、ペリカン……氷室のヤツ――どっか我を忘れてる感じがするからな……」

「ペ……リ……」

「逃さないよ……」

 氷室はじりっと右足を擦るように前に出しながら宗次郎に向き直る。

「下手に逃げりゃ、後ろからやられるな……」

「ぺ……」

「さて、どうするか……」

「……」

「どうした、ペリカン? 怖くて声も出ないか?」

 声が細くなっていく一方のジョー。その様子に宗次郎は苦笑いを浮かべながら振り返る。

「――ッ! ペリカン! お前真っ青じゃないか!」

 宗次郎は何故か羽毛なのに真っ青になったジョーの顔に驚き慌ててその手を離した。ジョーを拾い上げる際に掴んだ喉元を、宗次郎はそのまま無意識に掴み続けたようだ。気道を喉元からくびり続けジョーの息を止めてしまっていた。

「ぷはっ! ひどいペリよ! ひどいペリよ! ひどいペリよ!」

 真っ青になった羽毛をこちらも何故か一瞬で赤く染め上げジョーが興奮もあらわに捲し立てる。

「悪りぃ、悪りぃ。慌ててたんでな気がつかなかったよ」

「殺されるところだったペリよ!」

「悪かったって」

「ペリペリペリ!」

「おい……」

 顔と嘴を突きつけ合わせて言い合う宗次郎とジョー。その一人と一体に氷室が呼びかけるが、

「そう怒んなよ。謝ってんだろ?」

「謝ってないペリよ!」

 宗次郎とジョーはその氷室の呼びかけに応えずに掛け合いを続ける。

「おい……」

「そうか? だがよく来てくれた」

「ととと、当然ペリよ! ジョーは不思議生命体! ゆゆゆ、雪野様のマスコットキャラペリ! これぐらい、あああ当たり前ペリ!」

「その割には、ヒザから下ががくがくに震えてるが?」

 宗次郎はジョーの足下に目をやる。水鳥特有の水かきの着いた黄色い足が左右前後に不規則に震えていた。

「おいってば……」

「こここ、これは――『無茶震い』ペリよ!」

「それを言うなら、『武者震い』だ」

「ペリ? 言い間違っただけペリよ!」

「分かった。無茶してんのは、名実共によく分かったよ。とにかくありがとな」

「ペリ」

「僕を無視するな!」

 いつまでも己の呼びかけに応えない宗次郎らに、氷室は苛立ったように右手を内から外にふるう。

「――ッ! なっ?」

「ペリ!」

 その瞬間にジョーが体をくの字に曲げて後ろに吹き飛ばされた。ジョーは体一つ分後ろに飛ばされると、その場で横倒しになりながら地面に倒れ込む。

「ペリカン! 大丈夫か!」

「ペリ……」

 その様子に宗次郎が慌てて振り向き傍らにヒザを着いてジョーを覗き込んだ。

「何か当たったペリ……」

「そうか。言い忘れてたが、あいつ遠距離攻撃できるみたいなんだ」

「先に言って欲しかったペリ……」

「大丈夫か? ヤケドとかしてないか?」

「ヤケド――ペリか?」

 ジョーが不思議そうな顔で先ずはその長い首を起こした。氷室の攻撃が当たったと思しき腹部に、その長い首を不思議そうに傾げながら目を向けた。

「そうだ。ヤケド――」

 尚も心配げにジョーの体を覗き込む宗次郎の背中に、

「何処までも――僕を無視して!」

 氷室の苛立った声が浴びせられる。

「――ッ」

「今度は君が食らいたい? 河中くん!」

 氷室がこれ見よがしに右手を振り上げた。

「待て、氷室!」

「ペリ!」

 慌てて振り返る宗次郎と、大口を開けて驚くジョー。

「いいえ。あなたの相手は――」

 そのジョーの嘴の中に横からおもむろに赤くなった手を突っ込み、

「私よ。氷室くん」

 不意に現れた雪野がその嘴から取り出した魔法の杖を氷室に突きつけた。

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