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四、クラスメート 21

「こういうお店なら、大抵のものが揃うのよね?」

 花応がぐるりと周囲を見回した。

 花応が居るのは雑然とした店内。これでもかと詰め込まれた商品がずらりと商品棚に並んでいる。

 放課後。花応は狭い店内に商品が山積みにされた店に来ていた。

 目に入る限り雑貨の山だ。そしてわざと間隔を狭く設置された商品棚が視界を圧倒する。左右を見ても前を見ても、それこそ天井を見上げても、視覚的に大量の商品が目に飛び込んでくる。天井からも商品が吊るされているのだ。色とりどりな商品はそれ自体がディスプレイの役割を果たしており、見ているだけで購買意欲をわかせる造りとなっていた。

 だがそんな目移りする店舗の中で、今日だけはすれ違う他の客の視線を一人と一匹が釘付けにする。

 花応がぶっきらぼうに商品棚を指差した。

「ほら、ジョー。それ取りなさない」

「ペリ」

 ジョーが自慢の白い羽を棚に伸ばした。その姿を見て他の客は更に目を剥く。ジョーは更に反対側の羽に買物かごまでぶら下げていた。水鳥にあるまじき姿だ。

「返事は『ぐわ』とかにしときない。皆注目するじゃない。ただでさえ、ペリカン連れで入店。普通じゃないだからね。いい」

 花応は何処か不機嫌のようだ。言葉の端々に表れている。短く言葉を区切り、一方的にジョーに命じるように終わらせる。

「ぐわ」

「よろしい。あれも買っとくか」

 花応が別の商品を指差した。花応は自分の手が届くところにあったものも、ジョーに羽を伸ばして取らせようとする。口調は相変わらずぶっきらぼうで不機嫌だ。

「ぐわ……」

「あれ、何? ジョー知ってる?」

「ぐわ……」

 内容も分からないような商品を指差した花応を、ジョーが長い首を困惑に傾げながら見上げる。

「『ぐわ』じゃ分かんないでしょ?」

「ぐわ? 返事は『ぐわ』って言われたペリ」

「ふん……じゃあ、『ぐわ』に高低強弱付けて、何とか意志を伝えなさいよ」

「ぐわ、ぐわあ、ぐぁわ……ぐぅぅわわわぁ……ぐ、無理ペリよ……花応殿、何かヤケになってないペリか?」

「だから、しゃべんな。皆びっくりするでしょ」

「しゃべらないと、知ってるか訊かれても、答えらないペリよ……非科学ペリよ……やっぱり何かおかしいペリよ……」

 ジョーは一応周囲を気にしたのか、声をひそめて花応に応える。

「ふん。どうせ日曜日の準備に、いそいそと放課後に買物に来てる私は変よ。いつもの私らしくないわ。だいたい雪野が人の気持ち知らないから悪いのよ。私に『普通』がどんなに大変か知りもしないで。それにそうそうおかしな連中に襲われるもんですか。それこそ普通に考えれば分かるわ。お店にペリカン連れてくるぐらいに普通のことよ」

 花応がろくに商品も確かめもせずにジョーの持っていた買物かごに放り込み始めた。

「言ってることが、支離滅裂ペリよ……」

 重い商品も気にせず無造作に放り込まれ、ジョーの体が買物かごの方に傾いていく。

「支離滅裂結構。今日の私は少し非科学。出迎えに来たペリカンとお店に来るぐらい、非科学で普通じゃないわ」

 花応は話せば話す程思い出して不機嫌になるのか、

「それは、雪野様が心配したからペリ……電話で呼び出されたペリ……」

 大げさに傾いでいくジョーに構わず買物かごに商品を次々と放り込んでいく。

「あんたも、人の家の電話勝手に取らないでよ。知らない人からだったらどうすんのよ。一応これでも――実家からとか……電話あるかもなんだからね……」

 商品を乱暴に放り込んでいた花応の手がようやく止まる。

「大丈夫ペリ……ちゃんと登録されてた雪野様の名前が、表示されてたのを確認したペリ……」

「そんな登録、した覚えないんだけど?」

「どうせ花応殿にはできないと思って、ジョーがやっておいたペリ……」

「ぐ……ホント、人の電話に勝手してくれちゃって……あっ? すいません……」

 商品を再び取り始めた花応の手がビクッと引っ込められた。見れば同じ商品を取ろうとした他の客の手とぶつかってしまったらしい。

「いえ。あれ? うちの学校の人?」

 その客は花応の顔と制服姿を見て目をしばたたかせる。

 花応と同じ男子生徒のようだ。花応と同じく制服に身を包み、その男子はにっこりと花応に向かって微笑む。

 男子は背が低く、その微笑みは花応の顔と同じ高さから真っ直ぐ向けられてくる。人懐っこい笑みだ。

「え? ええ……」

 花応がジョーを背中に隠しながら困惑げに眉をひそめて応えた。

「何で今更、ジョーを隠すペリ……」

「ペリカン連れなんて、同じ学校の生徒に見せられないわよ……」

 花応が背中に手を回しジョーから買物かごをひったくる。

「てか、それペリカンだよね? 大丈夫?」

「あ、そうですね。いやだ、このペリカン。お店に勝手に入って来たりして。あははは」

 花応は作り笑いを浮かべると、踵でジョーの黄色い足を蹴り出した。

「痛いペリよ……」

 後ろ足で蹴られたジョーが抗議に首を伸ばすが、

「あははは!」

 花応は乾いた笑い声を上げながらその嘴に肘を叩き込んだ。 

「ペリッ……」

「とりあえず、この場は出て行きなさい……」

 花応は後ろ振り返ると、ジョーの耳元にささやいて強引にその体を後ろに押し退けた。

「ペリ……ひどいペリ……」

「えっと……」

 押し退けられるように商品棚の向こうへと消えていくペリカンの背中を見送りながら、男子生徒が困惑に眉をひそめながら口を開いた。

「ホント、お店にペリカンって、普通あり得ないですよね。あははは。それじゃあ」

 慌ててその場を去ろうとする花応に、

「えっと、間違ってたらごめんなさい。桐山さん――ですよね?」

 男子生徒がその名を呼んで呼び止める。

「えっ?」

 花応が立ち止まって振り返った。名前を呼ばれたことに不思議そうに眉根を寄せる。

「ほら、僕。氷室ひむろ。氷室零士れいじ

「?」

「いやだな。誰って顔して。一応――」

 氷室と名乗った男子生徒は困ったという風に己の頬を掻き、

「クラスメートなんだけど?」

 いまだ困惑の表情を向ける花応に何処までも人懐っこい笑みを向けた。

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