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四、クラスメート 6

「……」

 雪野は終業のチャイムととももに荒々しく席を立った。授業中苛立ちにちらちらと廊下側最後列に視線を送り続けた雪野。雪野は授業が終わるや否や席を立つ。

 向かった先は勿論速水颯子の席だ。雪野は肩を怒らせてずんずんと音を立てんばかりに教室を行く。

「どうしたッスか? 血相ってやつが、変わってるッスよ、千早さん」

「放課後になったし、この後時間どう? と、思ってね」

 雪野が敵対心もあらわに速水の前に立つ。有無を言わせず従わせようとする気迫が、その大きめに開いた両足と組んだ両手に表れていた。

「自分とッスか? 最近は桐山さんべったりなのに、あっちにいちゃつきに行かなくっていいんッスか?」

 対する速水は席に着いたままだ。眉間に皺を寄せる雪野に対して、余裕の笑みで相手を迎える。

「ええ……さっきは話の途中だったしね……」

「『いちゃつき』スルーッスか? ま、そうッスね」

 雪野の剣幕に気にした様子も見せず、速水は授業で使っていた教科書などをカバンにしまい出す。実に適当な放り込み方だ。速水は手当り次第に机の上の物をカバンに放り入れる。ペンケースに入れ忘れたらしき消しゴムすらそのままカバンに放り込んでしまう。

「雪野……」

 花応が遅れて近寄ってくる。

「おい、桐山」

 その花応の手を宗次郎がとった。宗次郎は花応を近づけさせまいとぐっと引き寄せる。

「何よ?」

 それでも前に進もうとした花応は一度大きくバランスを崩してから立ち止まる。

「とりあえず、千早に任せとけって」

「何でよ?」

「分かってんだろ? こいつは科学的にどうこうって話じゃない」

「でも……」

「邪魔になるだけだって」

「う……」

 花応は身を引かれたところで立ち尽くし、対照的な睨み合いを続ける二人に心配げな視線を送る。

「何処でお相手すればいい?」

 雪野がすっと目を細めた。

「『お相手』? 何の話ッスか?」

「ここまできて、とぼけないで――」

 雪野がそこまで口にするとチラリと周囲の様子を窺った。生徒は三々五々帰宅や部活の為に教室を出て行っている。

「……」

 教室にまだ残っていた一人――天草杏子が怯えた目でこちらを向いていた。天草以外の残っていた生徒も、互いにささやき合いながら雪野と速水に視線を送ってくる。

 皆が教室の端で起こっている異様な雰囲気に気づいているようだ。その中でも天草はその中心が雪野であることの更なる意味に気づいたのだろう。

 天草は雪野と目が合うとそそくさと視線をそらした。

「む……」

 その様子に花応が不快げに眉間に皺を寄せる。

「流石にここで――って訳にはいかないでしょ?」

 雪野が声のトーンを落として速水に向き直る。

「皆、ひそひそちらちら――と、うっといッスよね。かかわりたくないってくせに、興味半分で自分達は安全な場所から取り巻いたまま――そんな連中、気にしなくっていいんじゃないッスか?」

「そうもいかないわ」

「流石ッス! 優等生は発言が違うッスね! 人は生まれながらにしていい人――そういう系ッスか?」

「別に……クラスメートのことを心配して、何か悪い?」

「その心配――が、相手のことを思ってのことなら、そうッスね?」

 速水がカバンを手に立ち上がった。

「? 何が言いたいのよ?」

 雪野が半歩右足を後ろに引いて身構えた。 

「自分バカなんで、うまく言えないッスね」

「じゃあ、気にすることじゃないんじゃない?」

「そうッスか? でも勘違いしてるッスよ」

 速水はカバンを肩に担ぐ。

「『勘違い』? 力が欲しくないかって、ささやかれたんでしょ?」

「そうッスよ。力欲しくないかってささやかれて、欲しいッス――って、即答したッスよ」

「――ッ! そんな軽く――頼っていい力じゃないわ……」

 雪野が両の拳を怒りもあらわに握り締める。

「……」

 その様子に速水はすっと目を細める。

「あなたが私の敵に回るのなら、容赦しないわ……」

「そこが分かんないッスね」

 速水は鼻の下を無造作に空いていた左手でこする。

「何?」

 雪野のその様子に少々気迫の鼻先をくじかれたようだ。身構え怒らせていた両肩から力が抜けた。


「何で、力を手に入れたら〝敵〟ッスか?」


 自分、戦う気ないッスよ――そう続けながら速水は、驚きに目を見開く雪野に見透かしたような笑みを向けた。

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