一、科学の娘5
「科学の娘ペリか?」
「そうよ。おばさんの口癖なんだけど、私も気に入っているの」
「そうペリか」
「じゃあね。あなたのことは、一瞬で忘れることにするわ」
花応はそう言うと、スクッとベンチから立ち上がる。
「何故ペリか? 生死を共にしたというのに、素っ気ないペリ――モガッ!」
花応のカバンがペリカンの顔面にめり込んだ。
「私は巻き添えを食っただけ? 違う?」
「ち、違わないペリ……」
ベンチから吹き飛ばされたペリカンが、地面に突っ伏し息絶え絶えに応える。
「じゃあね」
「待って欲しいペリ! 頼みたいことがあるペリ!」
公園の出口に向かう花応に、ジョーが慌ててついていった。
「ついてこないでよ」
「冷たいペリ」
「うるさい。ペリカンに親切にする理由なんてない」
花応は注意深く辺りを見回しながら公園を出た。また狙われてはかなわない。
「科学がお好きペリか?」
「もちろんよ。化学薬品が手放せないわ」
「……ペリ。それはどうかと……」
「何?」
「ペリ……」
花応はいつもの通学路に戻る。やはり人通りは少ない。
辻々にさしかかる度に、一筋外れた大通りが見える。その大通りでは花応と同じ制服を着た生徒が、何人かで楽しそうに通学していた。
「あっちの方が賑やかペリよ」
「ほっときなさいよ。私はこの道が好きなの」
「また襲われたら大変ペリ」
「襲われたのはあなた。私のことが心配なら、離れてくれない? てか、何でついてくるのよ?」
「花応殿、寂しいこと言わないで欲しいペリ。一人じゃ不安ペリ」
「だったら尚更こっちの道でしょ? ペリカン引き連れて、あんな大通り歩ける訳ないでしょ?」
「ジョーのことなら心配無用ペリ。不思議生命体は不思議がられてなんぼペリ。むしろ女子高生にちやほやされたいペリ――モガッ!」
「うるさい」
花応のカバンがジョーの後頭部を直撃した。
「痛いペリ。花応殿は暴力が過ぎるペリ」
「うるさい。怪我見てやったんだから、もう用はないんでしょ? どっかいきなさいよ」
「そうもいかないペリ。ジョーはこの世界に人を捜しにきたペリ。見つかるまで帰れないペリよ」
「人捜し?」
「そうペリ! 魔法少女を捜しているペリ! とても大事な仕事ペリ。できれば手伝って欲しいペリ」
「魔法少女? はっ! 非科学ね……何で私が……」
「できる限りでいいペリ」
「そう……できる限りね……」
花応が眉をひそめて深刻な顔をしてうつむく。
「手伝ってくれるペリか?」
「できる限りならね」
「本当ペリか? 魔法少女の名前は――」
「あっ、ゴメン! もう学校着いちゃった!」
いつの間にか目の前に現れていた学校の横手のブロック塀。それを見上げて花応が嬉しそうにジョーに振り返る。
「ペリ?」
「もうこれ以上は無理。できる限りの限界点!」
花応はまくしたてるように言うと、大通りに面した校門に走り出す。今まで見せたことのないような笑顔で、ジョーに手を振って去っていく。
「じゃあね! お互いすぐに忘れましょうね!」
「ひどいペリ……」
ジョーは一人取り残されぽつりと呟いた。