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十二、反せし者 53

 その時、全ての視界が晴れた。

「……」

 廊下中を満たしていた光が静かにおさまっていく。

 そのことを廊下に居た全員が力の限り閉じた瞼の裏で感じる。

 瞼を閉じてもなお抑えきれない光が皆の瞳に飛び込んでいていた。

「ちょっと、どうなったのよ……」

 その眩しさに耐えんと、匿われた速水の背中に顔を押し付けていた彼恋。それでもできる隙間を塞いでいた腕からゆっくりと力を抜いていく。

「さあ、どうッスかね……」

 その彼恋を背中で守っていた速水も、右手のヒジの内側を目に押し当てていた。

 速水もこうでもしていないと耐えられなかったらしい。

「おさまったの?」

 彼恋が速水の背中で身じろぎするように体を動かした。

「まだ、目は開けないほうがいいッスよ、彼恋ッチ」

「あんたの目なら、これぐらい平気でしょ? どうなってるのよ?」

「自分、目細いッスけど。スリット機能付ってわけじゃないッスよ」

「うるさいわね……ナノ単位で開けれそうな、目してんじゃない……こんな時こそ、役に立ちなさいよ……」

「ひどいッスね、彼恋ッチ。まあ、確かに……終わったみたいッスね……」

 速水がその細い目をわずかに開けた。

 まだ押し付けていた腕越しに、速水が前方の様子を確認する。

 そこには肩を強張らせた女子生徒の後ろ姿が光の中に浮かび上がっていた。

「千早さんが……ちょー怖そうッス……あの背中は、近づきたくないッスね……」

 その背中に速水がわざとらしく身震いしてみせる。

 当然その背中に体を預けていた彼恋の体も小刻みに揺れた。

 それで背中を押されたのか彼恋がようやく速水の背中から顔を上げる。

「もう、大丈夫よね?」

「光はだいぶおさまってきたッスよ」

 速水の言葉通り周囲の光は急速におさまっていく。

 その光を生み出していた雪野が手を振り下ろしたまま背中を向けていた。

 もうそれ以上魔力で光を呼び出さないのは、その止まってしまった背中が物語っていた。

「見えないわ……」

 彼恋が目を瞬かせて前に顔を突き出す。

「もう、光はおさまってるッスよ。やっぱ吊り目よりも、細目ッスね」

「残像が目の奥に残ってるのよ。こりゃ、しばらく無理ね」

「そうッスか? まあ、説明するッスよ。千早さんが、立ってるッス。それで微動だにもしてないッスね……全て終わったんじゃないッスかね……」

「千早さんが立ってるってことは、生徒会長さんは負けたの?」

 彼恋が目を手の甲でこすった。

 光の残像が目の奥に焼きつきどうにもならないようだ。

 彼恋は首まで左右に振るがそれでもまた手の甲で目をこすり始める。

「カイチョー? 見えないッスね……いや、千早さんの向こうに立ってるッス……ありゃ、まだやられてないッスか?」

「ちょっと、まだやる気なの……てか、うちの姉は無事なんでしょうね……」

 彼恋がそのつり目を細めて前を凝視した。

 光の残像が残る目はそれでようやく前方の様子を確かめられるようだ。彼恋は焦点を合わすのにも一苦労と目を細め、鼻の頭にシワまで寄せて前を見る。

「……」

「……」

 雪野と時坂が無言で対峙していた。

 視線と視線が相譲らないように真正面からぶつかっている。

 互いの視線はぶつかりその視線を双方が打ち抜いていた。視線は鋭く相手の瞳を射抜き合っている。

 二人は光の奔流の中で最後まで互いに目をそらさなかっようだ

 だが戦いは終わったようだ。

 雪野の振り下ろした魔法の杖が時坂の頭上に振り下ろされる形で止まっていた。

 雪野の一撃は時坂の額を割る寸前のところで、紙一重のところで固まってしまったように動かない。

 実際時坂の額から垂れてきた一本の髪が、額と杖の間を通り抜けずに引っかかって止まる。

 雪野が振り下ろせる杖を自らの意思でそのぎりぎりのところで止めたのだ。

「いや、終わったみたいッス……カイチョーさんの負けッスね……まあ、目的は果たしたかもしれないッスけど……」

「そう。まあ、どうでもいいわ。うちの姉は?」

「美しき姉妹愛に目覚めてるッスね」

「うるさい。こっちはまだよく見えないのよ。探しなさいよ」

「はいはい……ああ、見えないッスね……」

「ちょっと! もう少し真剣に探しなさいよ!」

 彼恋が拳の腹で速水の背中を叩く。

「痛いッス。見えないのは、あれッスよ。ラブラブだからッスよ」

「はぁ?」

「うちの遅刻魔の男子にがっしり肩を抱かれてるッスね……あっ、男子が殴られたッス! 理不尽ッスね! 守ってもらってただけッスのに! 同情するッスよ、河中!」

 速水がケラケラと声に出して笑った。

「とにかく……無事なのね……」

 速水の言葉に彼恋がもう一度目を細めて前を見つめる。

 彼恋が目を凝らしたその先では、

「……」

 花応がゆっくりと無言で時坂の背中に近づいていた。

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