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十二、反せし者 45

「――ッ!」

 時坂が両手の指を次々と鳴らし始めた。

 教室と廊下とを隔てる開けられた窓の脇に立つ時坂。教室のこちら側に立った時坂は、指先だけ廊下に差し向けてその指を鳴らす。

 その音は高く響いた。

 だがその指の音が鳴る度に同時に起こる爆発音に、それ自身がすぐに掻き消される。

 爆発音は閃光を伴っていた。

 音と光が時坂が指を鳴らす度に廊下と教室の方々に現れる。

「きゃっ!」

「おおっ!」

 廊下では花応が堪らず小さな悲鳴を上げ、宗次郎が小さな雄叫びを上げる。

 宗次郎は叫び声を上げながらも、爆発から花応を守らんと更に強く花応の頭を抱きしめていく。

「ちょっと……」

「隠れてるッスよ!」

 廊下の反対側では彼恋が困惑に顔を歪め、その前では速水が細い目を鋭く凝らしていた。

「ペリッ!」

 教室の中ではジョーが羽をまき散らして飛び回る。

 爆発と閃光に驚いて羽をばたつかせ、翼のあちこちから羽が抜けて飛び散った。

 抜けた羽は宙を舞い、更なる爆発に煽られ更に宙を舞う。

 教室中に爆風にあおりを受けた羽がまかれていた。

「時坂先輩!」

 雪野が堪らずか魔法の杖を斜めに震った。

 切り下ろすように振られたその杖は時坂と己を隔てていた窓枠越しにふるわれる。

 窓の向こうに居る時坂目がけて雪野の杖の先から電撃がほとばしった。

「ふふ……」

 時坂の姿が不意に消える。

 雪野の放ったいかづちは教室を横切り外側の窓まで飛んでいった。

「ペリッ!」

 教室中を慌てふためき飛び回っていたジョーがちょうど電流に当たりそうになり更なる奇声を発する。

 代わりに撒き散らしていた羽の一部が雷に打たれていた。

 羽は真っ黒になって燃え上がる。

 直撃していればどうなっていたかは、電撃に触れられたその羽が物語っていた。

「酷いペリ!」

 ジョーが実際は少し電流にかすられていたようだ。

 尻尾の羽の一部を焦がしながらそれを消さんと羽で叩き始める。

「消えた!」

 だがジョーには構っていられないとばかりに、雪野は消えた時坂の姿を求めて視線を左右に鋭く巡らせた。

 その姿は教室の何処にもない。

 雪野は杖をぐっと握り締めながらそれでも時坂の姿を求めて窓枠に身を乗り出した。

「千早! 後ろだ!」

 その雪野の背中に宗次郎の声が響く。

「――ッ!」

 その声に雪野がとっさに振り返ると、

「動かない方がいいよ……」

 その視界の端に突き出された指先が飛び込んで来た。

 それは今にも打ち鳴らさんとして親指の腹が中指の腹に押しつけられていた。

 それはまるで一つの軍隊の部隊のように奇麗に指が構えられている。

 たとえるならそれは大砲を撃つ前の五人の小隊だ。

 隊の指揮を執る士官のように人差し指はひとつだけすっと自然体で伸ばされている。

 親指と中指は大砲を構える一対の砲手のように、いつでも打ち鳴らされる形で待機していた。

 薬指と小指が脇にひざまずくように折り畳まれ、こちらは砲弾を補充する人員のように控えていた。

「く……」

 その威力を威嚇するかのような指先を耳元で――己の視線の端に突きつけられて、雪野の動きが止まってしまう。

「距離はあまり関係ないんだけどね。それでもこうやって耳元に突きつけられると、それなりに恐怖だろ?」

「……」

 雪野は目だけ時坂に向けて答えない。

「ふふ……認めたくないかい? まあ、どうでもいいけど。それよりも、こうして耳元をとるとあれだね」

「……」

「君に〝ささやい〟たら、どうなるのか知りたくなるね」

「……」

 雪野の目が憎悪に歪んだ。

 目の端ぎりぎりまで瞳を動かしていた雪野。その瞳が更に奥に向かおうと震え、まぶたが感情のままに歪んだ。

「怖いね……ああ、やっぱり……僕は、君に恐怖を感じていたんだね……」

「何を……」

「恐怖だよ……言ったろ……僕は君に昔助けられた……今のような混乱の戦いの場でね……敵に〝ささやか〟れそうになったところを――ううん、〝ささやか〟れてしまったとろでね……」

「恐怖?」

「そうさ……君は親切で、正義で助けに来てくれたんだろうけど……」

「間に合わなかったのは、気の毒に思います……助けられなかったのも、申し訳なく思います……ですが……」

「そう、君に責任なんてない。だが、僕があの時抱いた感情は、今なら分かる。恐怖だよ。敵も。敵の向こうを張って、恐ろしいまでの力を示していた君も!」

 時坂が指先に力を入れた。

「――ッ!」

 その様子に雪野が目を剥き、

「僕はあの時の感情を、乗り越えないといけない! それがたとえ、次元を超越すことだとしても!」

 時坂は今まで一番力強く指先を鳴らした。

次回は1/23の更新予定です。

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