表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桐山花応(きりやまかのん)の科学的魔法  作者: 境康隆
二、ささやかれし者
30/323

二、ささやかれし者11

「……」

 校舎裏に踏み入れられた雪野の足。その主の慎重さと警戒の表れか、その足先が打ち込むかのようにアスファルトを力強く踏みしめる。

 雪野が履くのは靴ひも要らずの皮のローファー。学校指定の校則通りの靴だ。

 舗装された通路脇に、砂利が敷き詰められた校舎裏。雪野は校舎裏に平行に延ばされた通路を慎重に歩いていく。

 通路も半ばまでくると、雪野は校舎裏を見回した。

 人の気配がない。

「呼び出しておいて、待たせるつもり……」

 雪野は警戒に耳をすましながら呟く。

「さて……花応が仮に自分の部屋まで走って帰ったとして……」

 雪野が目をつむる。増々神経を耳に集中しているようだ。そのまま周囲の気配を耳で集めようとしたのか、雪野は軽く身を翻させる。

「ジョーだけそこから飛んでくるとしても、全部で十五分ぐらいかかるかな……」

 雪野が目を開けた。

「……」

 そして開けると同時に眩しげに目を細める。

 まだ高い陽の光を背に、遠目に一人男子生徒が立っていた。

 だが男子生徒だとはシルエットだけでしか分からない。

 太陽の光を反射して、眩いばかりにその男子生徒の右手が光っている。胸元まで上げられていたその右手の光が、男子生徒の全身を判別不能にしていた。

 生徒の顔も表情もその光に隠れてしまっている。雪野からは全く読めない。

 しかしその口元は笑っているようだ。それもかなり人をバカにした形に。唇の両端が卑しいまでにつり上がっていた。

 男子生徒が輝く右手をゆっくりと上げていき、陰影の綾が一瞬その口元の様子を雪野に見せつける。

「女の子呼び出して、自分は遅れてくるんなんてサイテーね。どちらさんよ?」

 雪野が光を遮らんと己の手の平を額にやる。手の平で陰を作り相手の姿を確認しようとした。

「……」

 男子生徒は雪野に答えず、己の顔をその右手で覆った。

 光が男子の顔全体を覆う。

「名乗る気もなしなのね。サイテーな上に失礼ね」

「……」

 やはり男子は応えない。そのまま右手をゆっくりと喉元に向かって降ろす。

 男子の光は更に増した。降ろした右手で一度隠されたその顔。その顔すらが光に反射して金属質に輝き始める。

「――ッ! 金属の仮面? いえ、やっぱり金属人間って訳ね……」

「……」

 男子は応えない。

 降ろされる右手に連れて、男子生徒の全身が輝き始める。

「あの子戻ってがくる前に片付けてやりたいけど……魔法の杖はジョーがこないと取り寄せられないし……」

 雪野が目を覆っていた手の平をどけながら、相手に聞こえないように呟く。

 既に慣れてきたとでもいうのか、雪野の視線は相手の眩いばかりの輝きをその目で直視する。

「……」

 全身で反射光を煌めかせた男子生徒。その金属と化した足でアスファルトの通路を蹴り、無言のまま一気に雪野に飛びかかってくる。

「舐めないでね!」

 雪野がその攻撃を身を翻して避ける。右足をその場に残し左足だけを己の背後にまわすと、寸前まで自分がいた位置をがら空きにする。

 ぶんとという重い空気を切る音ともに、男子生徒の攻撃は空振りに終わる。

「金色! 金塊なの? ゴールドの体なのね!」

 やっと太陽の反射から外れた相手の全身に、雪野はその正体を見破る。

 男子は肩から体当たりを仕掛けようとしていたようだ。避けられた雪野に丁度背中をさらして男子は、その場で踏み止まると背を伸ばして腕を振り上げる。

「ふん! 能面みたいな顔しちゃって!」

 雪野は今度も相手の攻撃をギリギリでかわす。振り上げられた拳を鼻先で見切るや後ろに跳んだ。

 そしてやっと確認できた相手の顔に悪態をつく。男子生徒の顔は全てが金色に輝き、目の光彩もなくしいていた。金属と化した故かその瞼は見開かれたまま瞬き一つせず、口元も口角をバカにしたように吊り上げたまま固まっている。

「表情の変化までなくして、何がしたいの? 人間性を失ってまで、力を手に入れて何になるの?」

「……」

 男子生徒が無言で殴り掛かってきた。

「復しゅう? 仕返し? 何かを見返したいの? それとも自分より恵まれている人間が、ただただウザいだけ?」

 雪野がその拳を右の手の平で受け止める。

 力負けして少々後ろに押し戻されながらも、雪野の手の平は相手の拳を己の眼前と押しとどめる。

 そしてそのまま雪野は相手の金色に輝く拳を握りしめた。

「……」

 表情は変わらないが男子生徒は驚いているようだ。己の拳を掴んで話さない雪野の右手と、相手の表情をそののっぺりとした瞳で何度も見比べた。

 そのまま男子生徒は己の足下を見た。金属と化した己の体重を支えたアスファルト。勢いよく着地したその場所は、男子生徒の足を中心にヒビが入っている。

 そんな体が繰り出す拳を、目の前の女子生徒は腕一本で受け留めた。

「そんなところよね? 感心しないわ。でも、まあ。私を一番最初に狙ったのは、褒めてあげる」

「……」

「だって他の人を襲うのだけは、絶対に許せないもの……」

 雪野がゆっくりと己の右手を前に押し出し始める。そして雪野の言葉を力と化しているかのように、徐々に互いの中間にまで戻っていく。

 互いに組み合っているのは己の右手。

 繰り出した右の拳と受け止めた右の手の平を斜めに交わし、雪野と男子生徒は力と視線を互いの中心でぶつからせる。

「あなたの相手は……ううん――」

 雪野が一瞬目をつむる。

 雪野の耳が何かを物音をとらえたのかピクリと動く。

「〝あなた達〟の相手は、いつでもこの私一人よ! ジョー!」

 そしてその目を相手を射抜く視線とともに開けるや、空いていた左手を空に向かって突き出した。

「ペリッ!」

 ジョーが返事とともに空を滑り降りてくる。

 ジョーと雪野の左手が交差するや、雪野は間髪を入れずにその左手を振り下ろした。

「食らいなさい!」

 雪野の左手に一瞬で握られた魔法の杖が、炎を上げながら男子生徒の金属の体に打ちつけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ