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十二、反せし者 34

「なっ……」

 目にも止まらない速さで雪野との攻防を繰り広げていた速水。速水はその背中に突然加えられた攻撃に驚き目を剥く。

 雪野に撃ち込まれていた拳が止まった。

 同時に速水の方がふるふると震え出す。怒りに一気に血が昇ったようだ。剥いた目の下ではピクビクと頬が痙攣し、その間では話の柱に深いシワが一瞬で刻まれる。

「何処の誰ッスか……魔法少女同士の戦いに――割って入るバカは!」

 速水が怒りに震えるままに振り返る。

 振り返った勢いのままに右の拳を振り上げた。

「速水さん!」

 雪野がとっさに手を伸ばすが、既に速水は完全に背中を見せていた。

 雪野が伸ばした手はその拳を掴まえられずに空を切る

 速水は突風を巻き起こしながら右の拳を己の背中に蹴りを入れた人物の眉間に撃ち込んだ。

「――ッ!」

 だが速水の拳は相手の眉間の上、寸でのところで止まる。

 速水の拳が作り出した風はその拳が止まっても止まらない。拳にまとわりつくように生まれた風が、それだけが離れつむじ風のように相手の眉間を襲う。

 その風は額にぶつかりそれ以上は進めず、少女の顔を舐めるように同心円に広がっていった。

「はぁ? 私だけど、何?」

 少女はまつげを派手に揺らす風にその特徴的な吊り目を細めた。

 上に逃げた風は少女の髪を巻き上げるように散っていく。派手に揺れる髪を構いもせずに少女はその吊り目をそのまま細めたまま速水を睨み返して来た。

 下に逃げた風は決して豊とは言えない胸を下り、腰から下のスカートを派手にはためかせた。私服のスカートの裾が音を立てて暴れる。

「……」

 少女はやはり乱れるスカートを構う様子も見せずに速水を無言で見返してくる。

「な……」

 速水の拳が落とした影。

 その影の向こうで吊り目が速水をじっと睨み続ける。

「『な……』って、着拒の次は、それ? 絶句? 芸がないわね」

「な、何でここに居るッスか……」

 握り込まれていた速水の拳が緩む。

「居ちゃ悪い?」

 私服の少女がその拳に右手を添えた。そのままゆっくりとその拳をずらす。

「彼恋ッチ……」

「あら、まだ名前は呼んでくれるのね」

 速水の拳の影から現れた私服の吊り目の少女――桐山彼恋が、険しく目を細めたまま応える。

「……」

「……」

 緩んだ拳とそれに添えられた手を挟んで、速水と彼恋がしばし無言で相手の目を見合った。

「彼恋……」

 その彼恋の背中に花応が呼びかけた。

「何、花応? 今ちょっと、取り込み中なんだけど?」

 彼恋が振り返らずに応えた。

「いや、彼恋……お前、帰らなかったのか?」

「帰ったわよ」

 ようやく彼恋が背中を振り返る。

「いや、だって。今朝私、お前と別れたばかりなんだけど……もう、こっち帰って来たのか?」

 取り巻く野次馬を背中に花応が困惑に眉間を歪ませて訊いて来た。

「今時の高速鉄道なら、片道一時間の距離よ。できるビジネスパーソンなら、日帰りの距離だわ。お爺様みたいなこと言わないで」

「そ、そうか……お爺様に会ってきたのか? なら、確かに行って帰って来たんだな……でも、お姉ちゃん……今朝、お前と涙なみだのお別れを、したつもりだったんだけど……」

「号泣してたのは。花応、あんただけよ」

「いや! 彼恋だって、泣いてたし! てか、私号泣まではしてないし!」

「あっ、そ。じゃ、今取り込み中だから」

 ムキになって応える花応に、彼恋が軽く鼻で笑って前を向き直る。

「彼恋!」

「今は、あんたね……」

 背中に食い下がってくる花応の呼びかけを背中で受け流し、彼恋は目の前の速水を睨みつけ直す。

 振り返っていたいた間中も速水の拳は握ったままだった。

「……」

 速水は握られたままの拳を引っ込めようとする。

 だが彼恋にその手を強く握られ途中で止まってしまう。

「離すッスよ……」

「はぁ? 〝話す〟のは、あんたでしょ? 何やってんのよ、これ?」

「離すッス……」

「まず、話しなさいよ……」

「何度も言わせないで、欲しいッスね……」

 速水の細い目がすっと更に細まる。

「じゃあ、〝離し〟なさいよ……あんたの力なら、それぐらい雑作もないでしょ?」

「……」

「話すのも、嫌。離すのも、嫌。我がままね……まあ、それぐらい我がままじゃないと、こんな惨状作り出さないか……」

 彼恋が呆れたように鼻から息を抜いて辺りを見回す。

 廊下は人だかりで人間の壁ができていた。

 教師まで含めて人間離れした雪野と速水の攻防に近づくことすらできずに遠巻きに取り巻いてた。

「野次馬多いわね。逃げりゃいいのに」

「さっきまで、煙の向こうの教室の中で戦ってたからな」

 花応が彼恋の疑問に応える。 

「あ、そ。で、何のケンカよ?」

「『ケンカ』じゃないッス……光と闇の戦いッス……」

「『光と闇』。ああ、随分と古典的ね。まあ、古典の授業中だったみたいだけ」

 花応がちらりと視線を横にずらした。古典の教科書が散らばる教室に、不敵な笑みを浮かべた時坂が居る教室がその視界に入った。

「分かったら、邪魔しないで欲しいッスね……光と闇……相反する者同士の――」

 速水がもう一度握った拳に力を入れ直すと、

「光の反対は光よ……」

 彼恋がその拳を包み込むように握り締めた。

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