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十二、反せし者 28

「ははっ!」

 速水が笑い声を上げながら雪野に襲いかかった。

 速水は拳を振り上げると握りしめたその先に電撃をまとわりつかせる。速水がそのまま拳を振り下ろすと本人よりも先に電撃が雪野を襲った。

「く……」

 雪野がその電気の奔流を即席の煙の盾で防ぐ。

 目の前にとっさにかざした盾が速水の雷を遮った。

 それと同時に遮られた視界。煙の向こうに一瞬消えた速水を再びとらえる為に雪野がすぐさま盾を下ろす。

 だがその時既に速水の姿はそこにはなかった。

「いない!」

「何処見てるッスか!」

 速水の声が雪野の背中から聞こえた。

「――ッ!」

 雪野がその姿を探してとっさに背後を振り返るが、

「あはは!」

 速水自身が雪野の背後で背中を見せていた。

 それは捻りを入れて体を回転させている途中の動きだった。

 速水の背中はすぐに消え、代わりに喜色を浮かべたその顔が露になる。

 顔から肩、胸、そしてまくれ上がる服の裾からヘソを曝し、速水は雪野に向かって捩じ込むように身を捻る。

 最後に現れた鞭のようにしなった足の先で、鋭いつま先が雪野に向けられていた。

「防ぎ切れるッスか!」

 スビードが乗った速水のつま先が、雪野のこめかみを襲った。

「ぐ……」

 速水の指摘通りに防ぎきれなかった雪野は僅かに傾けた頭にその一撃を食らってしまう。

 こめかみへのつま先の一撃こそは何とか避けた雪野の側頭部に、速水の足の甲が襲う。

「雪野!」

 ぐらつく雪野に花応が堪らず悲鳴めいた声でその名を呼ぶ。

「あははははは! いい声ッス! 脇役は、そうでなくっちゃッス! ははっ!」

 雪野に一撃を入れた速水が飛び退きながらこう笑を上げる。

 速水はそこら中の机やイスを体ではね除けながら着地した。

「く……」

 雪野がぐらつく身を何とかその場に踏みとどませる。雪野は頭を振り蹴られた方と反対側の目をつむる。力の限り閉じられたまぶたがゆがんだシワを周囲に作り出し、開いている方の目も苦痛にまぶたがいびつに揺れる。

 それでも雪野はかろうじて開いている方の目で速水の姿だけはとらえようとする。

「はは! 一撃でグロッキーッスか? 光の魔法少女様!」

 そんな雪野の様子に速水が嬉しそうに細い目を光らせた。

「この……」

 まだ頭を振る雪野に代わって花応が悔しげに速水を睨みつけた。

「おっと! 桐山さん! 場を盛り上げる脇役の出番もそこまでッス!」

「そんな話じゃないでしょ!」

「そんなお話ッスよ! 脇役は、解説に徹するッス! 決着まで、しゃしゃり出ないで欲しいッスね!」

「この……」

 雪野が最後に大きく頭を左右に振って身を立て直した。

「おやおや、この程度でふらつくなんて……もっと頑張って欲しいね……」

 その様子を時坂が薄め目を開けて挑発的に見る。

「てめえ……」

 そんな時坂を宗次郎が横目で睨みつけた。

「十年前の彼女の頑張りは、こんなものじゃなかった……そう……こんなものじゃ……」

 時坂が宗次郎にではなく自分に応えるように呟く。

「ん?」

「ふふ……何でもないよ……」

「雪野!」

 まだそれでも軽くふらついている雪野に活でも入れるかのように花応がその名を呼んだ。

「大丈夫よ、花応……」

 雪野が盾と杖を手に身構え直す。

「大丈夫なの?」

「ちょっと不意を突かれたわね……」

 雪野が大きく息を吐き出しながら花応に答える。

「一撃でふらふらッスね」

 速水が嬉しそうに軽くその場で跳ねた。

 ふらつく雪野に、飛び跳ねる速水。二人は一瞬で対照的な姿になって対峙する。

「流石のスピードね……ちょっと目を離したら、何処いったか分からなかったわ……」

「あはは! 褒めても何も出ないッスよ! だったら、無粋な盾なんて、捨てるッスね」

「そうすると、今度は電撃に炎でしょ? それも勘弁だわ……」

「そっちの方が魔法少女同士の戦いっぽいッスよ」

「こだわるわね」

「そうッスね! 生まれもって、そういう力を持った人には、分からないッスよ!」

「普通が一番よ」

 雪野がぐっと杖と盾を握り締め直す。

「聞いたような言葉ッス」

「何度でも言うわ。普通が一番よ。十年前に、私はそう思ったわ」

 雪野はそこまで速水に告げると、

「……」

 無言でこちらを見ている時坂にゆっくりと視線だけ向けた。

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