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十二、反せし者 23

「はぁ? 時間稼ぎして、何かと思えばしょっぼい盾ッスか!」

 速水が一歩前に足を踏み出した。

 その足は大きく前に踏み出され上半身が前に屈む程だった。

 そして力も強く踏み込まれていた。

 教室を軽く揺らして速水は一歩前に出る。

「確かに見た目しょぼいわね」

 雪野が右手に持った盾を軽く振ってみせる。煙の盾が風を切ってぶんぶんと振られた。まるで重さなどないかのように雪野はその盾を振ってみせる。

 似たような盾が雪野の足下に転がっていた。少しずつ色合いが違う煙でできた盾が軽く山積みになっている。

「雪野様……ジョー頑張ったペリよ……」

 雪野の言葉にジョーが長い首を力なく垂れた。

「ああ、ごめんなさいね。そうね、ジョー。ありがたく使わせて頂くわ」

 雪野が右手で盾を構え、左手で杖を突き出す。

「いっぱしの魔法使い気取りッスか?」

「いいえ、魔女よ」

 雪野の目が妖しく光る。蛍光色に光るその目はゆらゆらと揺れながらも鋭く速水に向かって放たれていた。

「それじゃあ、そっちが――悪役っぽいッス!」

 速水が右手を突き出した。その掌の先から電撃が放たれる。

「――ッ!」

 雪野がジョーの盾でとっさに身をかばった。

 電流は方々にほとばしりながら雪野の身を襲う。

 だがとっさにかかげられた盾に阻まれ閃光とともに弾けて消えた。

 いや弾けたのはいかづちだけではなかった。速水の電流と相打つように雪野の煙の盾も弾けて四散する。

「ちっ……」

 その様子に速水が舌打ちをし、

「ありゃりゃ……」

 雪野が他人事のようにふざけた声を漏らす。

「雪野! 次の拾って!」

 そんな雪野に花応が足を踏み鳴らしながら吠える。

「オッケー!」

 雪野が別の盾を拾う。

「そんなしょぼい盾! いくらあったって――無駄ッス!」

 速水が更に電撃を放った。

「く……」

 今度も雪野が盾でその電流を受け止める。先と同じく両者が四散したが、僅かばりその電流を長く受け止めてから盾は砕けた。

「おっ!」

 雪野がそのことに目を輝かせる。

「ジョー! 電流に弱過ぎ! 言ったでしょう!」

 だが花応は満足がいってないようだ。

「ペリ! 無茶ペリよ!」

「無茶でもやるのよ! 雪野のピンチなんだから!」

「ペリ!」

 ジョーが花応に応えるや嘴を大きく開けた。開けると同時にそこから煙が立ちこめる。

「あは! じゃんじゃん使わせてもらうわ!」

 雪野が新しい盾を疲労と間髪をいれずに電撃が襲い来た。

 次々と遅い来る奔流に、それを受け止めて四散する煙の盾。

 速水は矢継ぎ早に左右の手を突き出し、雪野は足下の盾を蹴り上げてまでその放電を受け止めた。

 盾は僅かではあるが長短様々な時間を耐えて砕けていく。

 そしてついに完全に耐え切った後に砕ける盾も出て来た。

「半端ね、ジョー! でも分かったでしょ! 絶縁の部分が多いと、あの電流に耐える時間が長くなるの! 頑張んなさい!」

「桐山さんの入れ知恵! うっといッス!」

 電撃を一旦止めた速水が花応に振り向き睨みつける。

「あら、ありがとう。褒め言葉だと受け取っておくわ」

「煙で人様の電撃を止めるなんて、無粋ッスよ」

「ふふん。あなたの電撃を止めているのは、煙の部分じゃないわ。煙の主成分の炭素。盾の表面にコーティングされた、絶縁体の炭素――ダイヤモンドコーティングのお陰よ」

「な……」

「知らないの? フライパンとか包丁に、コーティングしてあるじゃない。今はまさに付け焼き刃でジョーにやらせたわ」

「はぁ?」

 速水が苛立たしげにその細い目を吊り上げた。

「よいしょっと……なら、これが一番よさそうね……」

 雪野が落ちていた盾の一つを取り上げる。その表面が僅かばかりに教室の照明の光を受けて光った。

「ジョーの力が炭素を操る力だとすれば、その結晶からして意識して使えばダイヤだってできるんじゃない? まあ、ペリカンの口から出た宝石なんて、ロマンチックでも何でもないけど。今はその絶縁体としての性質を活かさせたもらったわ」

「ぐ……」

 速水がまたもや大きく奥歯を噛み鳴らす。

「まあ、そうね。ダイヤは熱伝導性が高いから、あまり電流であぶられ続けるのはよくないわね。熱はそのまま伝えちゃうのよ」

「そうッスか! だったら、これでどうッスか!」

 速水が右手を苛立たしげに突き出した。

 先までの電流とは違う光がその右手の先から放たれた。

 それは迸る電撃ではなく、猛り狂うような炎だった。

 赤く輝く火の塊が雪野を襲う。

「こら桐山! 弱点をわざわざ教えるな!」

 その様子に宗次郎が堪らず声を上げる。

 盾を前に突き出した雪野は一瞬で炎に舐めるように包まれた。

「大丈夫よ。多分……」

「『多分』だ? おい、桐山!」

「……」

 花応は宗次郎に応えずじっと雪野の方を見た。

 炎は雪野の全身を覆い、そして今消えていこうとしていた。

 雪野の姿が炎の向こうから現れる。

「ふい……熱いわね……」

 雪野は盾でまとわりついた熱気を振り払うように手を振りながら現れた。

「おお、無事か……」

 その様子に宗次郎がほっと息を漏らし、

「この……」

 速水がまたも悔しげに歯を鳴らす。

「こっちの方が本番よ。表面がダイヤモンドコーティングなら、その吹き付ける先は同じく炭素――」

 雪野の無事の姿にこちらも少し軽く息を吐いて花応は安堵の声を漏らす。

 こちらを頼もしげに視線を寄越してくる雪野に応えて、

「『カーポンエアロゲル』だもの」

 花応はぐっと両手で拳を握り締め力強くうなづいた。

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