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十二、反せし者 22

 ジョーの嘴から流れ出た煙はその煙らしい動きですっと雪野の前に広がっていく。

 それでいながら煙はうずたかく積もるように物理的に雪野の前で固まっていった。

「うっといッス!」

 うっすらと雪野の姿を呑み込んでいく煙。その様子にじれたように速水が右腕を震った。

 右手の掌の中で帯電し震えていた電流が、その動きに解き放たれたようにほとばしる。

 電撃は一瞬で煙に達しその表面を閃光で覆い尽くした。

「ペリ!」

 己が吐き出した煙に向けられた攻撃にジョーが自身がやられたかのように逃げ惑う。

「こら! ジョー! 止めんな! 色々とやれって言ったでしょう!」

 その様子に花応が肩を怒らせた。

「だって、怖いペリよ!」

「うっさい! 頑張んなさいよ!」

「ペ、ペリ……」

「ちゃんと言った通りにやりなさい! ひとまずは役に立ってるから!」

 花応がそう告げながらジョーの煙を指差す。

 ジョーの吐き出した煙はちょうど避雷針の役割を果たしたようだ。

 速水の電流を受け止め小さな奔流をほとばしらせながらもそこに健在だった。

「ペリ!」

 花応の叱責にジョーが再び煙を吐き出した。

「ホント、うっといッスね!」

 その様子に速水がじろりと花応を見る。 

「そうね。本当にダメなペリカンよね。せっかくの煙なのに――」

 花応が速水を睨み返す。

「そうよ。煙なんだから正体は『カーボン』――原子番号6。元素記号Cの『炭素』なのよ。主成分が炭素の煤でしょうね。それも何を燃やした訳ではない煙何だから、純粋に炭素な可能性があるわ。せっかくの純粋炭素。もっとちゃんと使って欲しいわよね。知ってる? 炭素はとても面白い素材よ。最近じゃカーボン素材がいい感じね。『カーボンナノチューブ』とか、宇宙エレベータのケーブルにどうって話よ。軽くて丈夫。長く作るのは手こずってるけど、まあそれも時間の問題じゃないかしら。もっと身近なもので言えば『グラファイト』とね」

なんの話ッスか?」

 速水が長々と語り出した花応をじれたように睨みつける。

「グラファイト知らないの? 単なる『黒鉛』よ。身近で言えば、シャーペンの芯とかよ。最近のは折れにくいでしょ? 高純度のグラファイトを使うからよ。でもね。もっと壊れにくい――そうね、とても固いのはやっぱりアレね。同じ炭素からなってながら、黒鉛とは全く別物に見えるアレね。まあ、有名だけど『ダイヤモンド』よ」

「……」

「黒鉛とダイヤモンドが同じものだなんて、にわかには信じられないわよね。でも同じ炭素からできてるわ。結晶の構造が違うのよ。カーボンナノチューブで言えば、これをボール型にしたのものは『フラーレン』と呼ばれているわ。筒状やボールの形に結晶がなるから、色々な分野に応用が利きそうっていう注目の素材よ。そうね。それと、結晶の違いで特性も違うわ。グラファイトは電気を通すけど、ダイヤモンドは電気を通さないわ。同じ炭素素材で不思議でしょう?」

「ふん。長々と何かと思えば、時間稼ぎッスか?」

 速水が花応から雪野に目を戻した。

 雪野は肩で息をしている。

 それでも花応が速水の注意を引いたお陰が一息つけているようだ。

 雪野は肩の力をふっと抜きもう一度そこに力を入れ直してるところだった。

「そうね。確かにただの時間稼ぎよ。ジョー。〝色々と〟やったみた?」

 花応がジョーに振り返る。

「ペリ……」

 ジョーが自信なさげに首をつづら折りに折って花応に振り返る。

 そのジョーの足下には煙がうずたかく積もっていた。

 だがそれは今までのそれとは違っていた。薄く円盤状に伸ばされた煙が数個、個別に作られて積み上がっていた。

 山積みにされた座布団のように煙の円盤がジョーの足下に積み上がっている。

 その内の一つをジョーが両方の羽で器用に持ち上げた。ジョーはおっかなびっくりに腰を振りながら雪野の下へと駆け寄る。

「何、花応。これ?」

 雪野がその煙を受け取りながら訊いた。

「煙の盾よ。持ちやすいようにとっても作ってあるはずだわ」

「盾?」

 花応の言葉通り煙の中央にとってらしきコの字の形をした突起物がついている。

「ええ。ぶっつけ本番だから。色々と作らせてみたわ。一個ぐらい役に立つのがあるでしょう」

「なるほどね。でも、かなり軽いわね」

 雪野が左手に杖を、右手に盾を持って構える。

「ふふん。うまくいってるのなら、『かなり軽い』はずよ。私の狙い通りならね」

 花応が速水に振り返る。

 そこに浮かんでいる自信満々の笑みに、

「……」

 速水が苛立たしげに奥歯を噛み鳴らした。

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