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桐山花応(きりやまかのん)の科学的魔法  作者: 境康隆
二、ささやかれし者
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二、ささやかれし者9

「ふーん。こんな科学的な機能がついてたのね。感心したわ」

 花応は教室に戻り席に着くや何度も携帯を舐め回すように見た。

 昼休みも終わらんとする時間。多くの生徒がクラスに戻ってきていたが、好き勝手に散らばり自分の席以外で集まっていた。昼休みを終了ギリギリまで楽しもうと皆がふざけあっている。

 チャイムが鳴る寸前のそんな時間に、花応は教科書も用意せずに携帯の画面に没頭している。

「何よ? 随分とご機嫌ね、花応。そんなに嬉しかったの?」

 例よって花応の前の席に横座りした雪野が、そんな花応の緩んだ顔を見つめる。

「えっ? そう? そんなに嬉しそうに見える?」

「見えるわよ。そんなにメアド交換できたのが嬉しかった訳?」

「ふふん。確かにそうかもね」

「あら、随分素直ね。花応もあれだ。人並みに男の子と仲良くしたいんだ?」

 雪野が意地悪な顔で花応を見る。

「へ?」

「違うの? まあ、河中も割に有名人だしね。これを機に仲良くなれば、花応の交友関係も広がるかもよ。まあ、河中お調子者で有名だがら、結構人気あるのよ。狙うんなら、意外にライバル多いかもだから気をつけてね」

「――ッ! ち、違うわよ! 何でそんな話になるのよ! あれよ! あれ! 日頃はどちらかと言うと、私は理論的な科学ばかりに気をとられる方だから、ほら! こういう応用の現場や現物は、むしろ盲点だったりするのよ! だから単に赤外線通信が気に入っただけよ!」

「ふーん」

「何よ! そのわざとらしい『ふーん』は? 河中のメアドなんて、おまけよ! 別にこっちからも送る気ないし! 向こうからも別に要らないわよ!」

「ふーん」

 雪野の『ふーん』は更にわざとらしくなる。

「ななな……河中のメアドなんて、嬉しくなんてないわよ! あんなそこら辺にごろごろ居そうな男子! 向こうからメールきたら、即刻ストーカー認定よ!」

「ひどい言い草だな」

 その一言とともに、花応の頭がポンと叩かれた。

「?」

 花応が叩かれた頭上を見上げると、いつの間にか近づいてきたのか宗次郎が立っていた。

「よっ」

 花応を己の携帯で叩いたらしい。宗次郎はそのまま手に持った携帯を雪野に向かって振る。

「あら、居たの?」

 雪野がすました顔で応える。どうやら近づいていたことには気づいていたらしい。特に驚いた様子も見せない。

「ちょっと、人の頭。何叩いてくれてんのよ」

「挨拶だろ。叩きやすい位置にあるのが悪い」

「何ですって! 何の用よ?」

「まあ、何だ。授業始まる前に、さっきの写真送っておこうと思ってね」

 宗次郎が携帯の画面に指を走らせた。

「あらそ」

 雪野が自分の携帯を取り出す。丁度着信を告げるメッセージとともに、雪野の携帯が震えだした。雪野は直ぐに携帯を操作し、送られてきた写真を呼び出した。

「……こんな写真は頼んでないわよ……」

 チラリと携帯に目をやった雪野が、すっと目を細めて宗次郎を見る。

「おや? 送り間違ったかな?」

 宗次郎がわざとらしく己の携帯の画面に目を落とす。

 その時授業を告げるチャイムが鳴り、教室に散らばっていた生徒達が一斉に己の席に戻り始めた。

「おっと、授業だな」

 宗次郎も花応の席を離れる。前の方の席なのか、宗次郎は花応に背を向け教壇の方に向かっていく。

「何よ? 何の写真送ってきたのよ?」

 花応が雪野の携帯を覗き込んだ。

「相当疑われてるわね……」

 雪野がそっと花応にだけ聞こえるように呟く。雪野は席を立ち上がりながらも、花応に携帯のモニタを差し出した。

「――ッ! あの娘じゃない……」

 携帯の画面には遠目だが、はっきりと天草杏子の姿が写っていた。

 花応が思わずその天草の方を見る。

 天草は壁際の席に座っていた。一人で俯いている。

 だが視線でも感じたのか、不意に花応の方に振り向いた。

「……」

 しかし天草が顔を向けたのは短い間だけだった。直ぐに逃れるようにまた顔を下に向けてしまう。

「何で河中が……それにこれ……」

 花応が雪野の携帯に更に顔を寄せる。

 携帯で送られてきた写真の中の天草は、夕暮れの校舎の壁際に一人立っていた。その表情は遠過ぎて読み取れない。だが呆然と立ち尽くしている様にも見える。

「ほら、授業始めるぞ」

 花応が携帯に釘付けになっていると、授業の為に教師が入ってきた。

「はい。この話は後で――場合によっては、河中呼び出すわ……」

 最後は花応にだけ聞こえる様にささやくと、雪野は己の席に向かって身を翻す。

 花応が宗次郎の姿を探そうとしてか、教室中をざっと見回した。

 宗次郎は教壇のすぐ斜め前の席に座っていた。そしてそんなに教師に近い位置に座りながら、わざとらしく教科書を立てて囲いを作って机の上を隠し、何やら書き物をしている。

 だが花応の視線に気づいたのか、宗次郎が不意に後ろに振り向いた。

「……」

 怪訝な花応の表情とは対照的に、宗次郎は明るい笑みを一つ送ってきた。

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