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十二、反せし者 15

「ペリッ!」

 ジョーが羽をまき散らせて驚き羽ばたく。

「燃えたペリよ!」

 ジョーは羽ばたきでその場に止まるとゆっくりと花応の横に降りて来た。

「でしょうね……でもよくやったわ……」

 花応が空中に目を凝らす。自慢の吊り目が射抜くように何も無くなった空間を見つめた。

 それは雪野と速水を一度は隔てた煙の壁かあった場所だ。

 ジョーが吐き出した物理的煙幕は突如発火しあっという間に燃え尽きていた。

 壁と化すはずの煙が燃え、その燃え後に本物の煙だけを残して消えた。

「ふふ……」

 立ちこめた煙を上から貫くように速水が足先から落ちてくる。

 速水は黒い煙の中をそれを強引に押しのけるように天井から降りて来た。

 速水の落ちて来た勢いと空気の流れに黒い煙は一度その体に吸い込まれるように流れる。そして着地の衝撃と風に巻き上げられこの女子生徒の全身を覆った。

 黒の中に速水が立つ。

 黒い煙は速水を包み漂い不穏な様子を醸し出している。

 黒く掴み所のない煙。それをまとう速水。

 それはこの少女を包む雰囲気の色とかたちの現れのようだ。

「速水さん、あなた……」

 雪野がぽつりと呟いた。

 雪野は突如上がった炎から顔を隠そうとしてか両手を口元まで上げていた。

 鼻の先で雪野は両手の手首辺りを交差させている。

 雪野はその腕の上から覗く目を軽く震わせながら呟いた。

「どうしたッスか? 千早さん」

 速水が細い目を楽しげに細めてそんな雪野を見る。

「……」

「……」

 二人の間を沈黙が襲った。

 ただ空気の流れに任せて速水を覆う黒い煙だけでゆっくりと薄れていく。

「おいおい! ペリカンだ!」

「いや、その前に炎だって!」

「あのペリカンしゃべってなかった?」

 しばしの静寂の後、こちらの様子を覗く生徒達の悲鳴混じりの怒号めいた声が廊下から轟いて来た。

「河中くん。そのペリカンに頼んで、煙幕を張ってもらえないかな?」

 その様子をちらりと一瞥した時坂が宗次郎に目を向ける。

「ふん……仕切りたいんなら、自分で仕切ったらどうですか? センパイ」

 宗次郎は花応の肩に手をかけたままじろりと時坂を睨み返した。

「危なくね? 逃げた方がいいじゃねえの!」

「でも先生二人とも、気を失ってるのよ!」

「だから、余計にヤバいっての!」

 その間も生徒達は互いに叫びあっている。

「ああいう自分で判断できない、無責任な連中は嫌いなんだ」

「生徒会長のセリフかよ」

「皆が自分の判断を信じず、人の意見を聞いてできれば他人の責任の下に動こうとする。誰かが先に動き出すのを待ってるんだろうね。やれやれだよ」

「あんたな……」

「でも、このまま彼女達を見せ物にしていいのかい?」

「く……ペリカン! 煙幕! 前みたいに、教室を隠してくれ!」

 宗次郎が一際強く花応の肩を掴んでジョーに指示を飛ばす。

「ペリ!」

 ジョーはすぐさま動いた。それでも速水の周りは遠回りして廊下側へと軽く羽ばたいていく。

 野鳥が突然近づいて来た廊下の生徒達は驚きに声を上げた。それでも腰は退けたがやはり自分が一番先に逃げ出すのは躊躇されるようだ。

「ぺりぺり!」

 互いを押し合いながら半歩程下がった生徒達の前で、ジョーは壁と窓のこちらの教室側に煙幕を張り出す。

「河中……痛い……」

 花応が軽く己の肩口を振り返る。

 花応の両肩を掴んだ宗次郎の両手は、今やがっしりと食い込んでいた。

「おお! スマン!」

 宗次郎は力が入り過ぎていた両手を花応の肩の上から慌てて離した。

「河中の撮った写真の通りね……見せてもらっていてよかったわ……」

「どういうことだ、桐山?」

「雪野が自分の口で、速水さんに確かめるわよ……」

 花応がアゴで雪野を軽く指し示す。

「速水さん……あなたの力……」

 雪野がゆっくりと両手を顔の前から降ろした。

「何ッスか? 凄いッスか?」

「ええ、凄いわね……」

「そうッスね。前々から、お恥ずかしながら憧れてたッスよ」

「あら、そう」

「そうッスよ。普通そうッスよ」

「で、実際手に入れてどう?」

 雪野の視界の向こうで次々とジョーの煙幕がうずたかく積もっていっていた。

 雪野はそれを視界の端で確かめながらゆっくりと口を開いた。

「サイコーッス! て、言いたいところッスけどね。最初はうまく使えなかったッスよ……」

「……」

「人並み外れたスピード……それぐらいないとやってられないッスよね……この力の持ち主は……」

「そう……」

「それから、人知を超えたパワー……それもないと相手を黙らせられないッスからね……」

「そうね……」

「この二つは、普通の力の延長だから、自分にも何とか引き出せたッス。でも、もっとそれらしい力は、沢山見せてもらわないと、分からなかったッスよ」

「あなたが、他の人の戦いの場に現れてたのは、力の使い方を知るためね……」

「そうッスよ……お陰で今は、こんなこともできるッス……」

 速水が両手を床に向かって突き出した。

 その広げられた手の先から炎が上がる。

 黒煙を上げながら速水の両手の先から炎が上がった。

 新たな黒を全身にたなびかせながら速水は挑むように胸を張って立つ。

 そして己が作り出した炎にその細い目を光らせた。

「あなたが望んだ力は――」

「そうッスよ。光の魔法少女様……」

「……」

 雪野の目の奥で目の前の黒煙を撃つような光が瞬く。

 いや、それは黒煙というよりは今は一切の光を拒む闇のように見える。

「自分は速水颯子……自分は闇の――」

 闇をまとった少女はゆっくりと口を開き、


「魔法少女ッス……」


 今はその細い目の奥で自ら妖しい光を瞬かせていた。

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