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十二、反せし者 9

「……」

 クラスメートの視線が冷たく雪野に突き刺さる。

 雪野が視線を斜めに落としてその皆の目を受け止めた。

 何処も見ていないような光で瞳を鈍らせ雪野は床に視線を落としていた。

 速水には言い返せても、クラスメートには目を合わすことが雪野はできなかったようだ。

 雪野は微かに震える視線を床に落とし続けた。

「ちょっと、皆……」

 花応が雪野に代わって何か言いかけた。

 だがどう言い返していいか分からないようだ。首と体を左右に激しく振って皆の様子を見渡すが、その思わず握ってしまった拳のように口は開かず次の言葉が出てこない。

「く……」

 花応はただ首と体を巡らすだけで、悔しげに唸るだけだった。

「おや、桐山さん、なんッスか?」

 そんな花応の様子に速水が細い目を向けてくる。

「ナンッスカじゃないわよ」

「『ナンッスカ』って。そんな、白々しく言ってないッスよ」

 速水は笑っている。

 速水颯子は細い目のその僅かな角度の違いで、雪野には敵意を、花応には嘲笑を向けてみせる。

「どういうつもりよ」

「おや、こっちの抗議はまた無視ッスか?」

「ええ、ガン無視よ。何でこんな……」

 花応が途中で言い淀む。そして雪野にちらりと視線を送るが、その雪野はまだ何処も見ていない。

「『こんな』――なにッスかね? はっきり言ってもらわないと、自分バカなんで、分かんないッスよ。科学のとは違って、頭悪いッスからね」

「この……」

「おやおや、このに及んで、まだ認めないッスか? 千早雪野は皆の憧れの魔法少女ッスよね?」

 速水の一言に教室が再びざわついた。

「速水さん……あんたね……」

 花応は今度はそちらに目を向けることができない。ぐっと奥歯を噛み締めて目の前に立つ速水を睨みつける。

「今更、隠すことはないッスよ。こっちが勝手にカミングアウトしてあげたッスからね。それともなにッスか? 今度も皆の記憶をいじるッスか?」

 速水が背中を曲げてぐっと顔を前に突き出した。

 屋上でそうであったように、敵意に細められた目が、構えられた二振りの刃のように雪野の眼前に迫る。

「……」

 雪野はようやく顔をあげた。

 そして容赦なく振り下ろされてくる速水の視線をこちらも己の眼光で受け止める。

 雪野の双眸が内なる輝きを取り戻し、速水にこうしたかのような真一文字の光を結んだ。

 振り下ろされた二振りの視線の刃を、こちらは一刀真一文字の刃が受け止める。

「ふふ……やっと、やる気になって来たッスか……いい目ッスね……」

「速水さん……あなた、何を考えてるの……」

「自分、楽しく生きたいッスよ……」

「……」

 視線を戦わせたままま、雪野は速水の細い目の奥を覗き込む。

「その為には、うっといヤツは、邪魔ッスよね?」

「私が、あなたに何かした?」

「言ったッスよ。光が眩しいッス」

「それは、あなたの妄想よ。私は別に光ってなんかないわ」

「持ってる人間は、それだけで輝いてるッス。持ってない人間には、ただただ眩しいッス。ウザいッスよ」

「じゃあ、目でもつむってれば?」

「あはは! 確かに! 自分、確かに中途半端に目を開けてるッスよ! やっぱり憧れッスからね! やっぱ欲しい訳ッスよ! 眩しくって見てられないくせに、細めを開けて盗み見見てしまうッスよ! 誰もが望んでも手に入らないその力を! 目をつむって、見ない振りなんてできないッスね!」

 速水のその細い目は敵意のそれより、憎悪のそれに代わったようだ。細いだけでなく両の目尻を吊り上げたそれは、今まさに本当に目の前の人物を斬り殺さんと妖しく光る。

「――ッ!」

 その視線に雪野が身構えながら弛緩した。

 力むと同時に筋肉を緩め、相矛盾していながら全身に意識を巡らせる。

「怖いッスね! その視線! その構え! その意気!」

「本気でいくわよ……」

「本気の千早さん! いいッスね! 荒ぶる力、見せて欲しいッス! 十年前の力とやらがないのが! ホント、残念ッスよ!」

「……」

「……」

 一触即発の無言の視線を最後に二人は交わす。

 その爆発の一瞬前の静寂を何の不意に破って、


「なるほど、ちはやぶる――という訳かい? 古典の授業らしいね」


 時坂昇生が音もなく二人の間に現れた。

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