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十二、反せし者 8

「ええ……何? 何? 気持ち悪いんだけど……」

「何か、変だと思ってたんだよ……」

「ちょっと……誰か説明しなさいよ……」

 生徒達は互いにささやき合う。口元を手で隠し目も互いの目を斜めに覗き見ながらひそひそと話し出した。

 関わり合いを避けるように軽く身を退き、それでも目だけは雪野に残してささやき出した。

 ちょうど痛みに耐えて座り込んでいる雪野を、クラスの皆の視線が上から見下ろす。

「く……」

 雪野が苦痛に声を漏らす。

 皆と向き合おうとしたのか、それとも何か言い返そうとしたのか。雪野はそのどちらもできずに唸ることしかできなかった。

「ちょっと、雪野大丈夫?」

 そんな雪野を肩を抱いたままの花応が軽く揺する。

「息が詰まったのよね……それで着地もうまくいかなくって……」

「分かった。いいから、話さなくっていいから……」

「しばらくしたら、復活するわ……」

「だから、大丈夫だから……黙ってなさいって、雪野……」

 花応が雪野に変わってクラスを見回す。

 皆が黙って花応達を見ていた。

「世間様は……だんまりを許してくれそうにないけどね……」

 雪野も軽く首を巡らせてぽつりと呟く。

「いいわよ、世間なんて……」

「やってくれるわね……速水さん……」

 雪野が速水を見上げる。

「おや? そんなに効いたッスか?」

 鋭く睨み上げてくる雪野の視線を、速水が

「ええ、効いたわね……」

 雪野がぎりっと音が鳴る程奥歯を噛み締めた。

「その程度のダメージ、余裕ッスよね?」

「この状況の方よ……」

「世間体の方が大事ッスか? 光の魔法少女様は?」

 速水の言葉に教室中がまたざわめく。

「その呼ばれ方……好きじゃないって、言わなかった……」

 雪野がようやく立ち上がった。

「雪野……」

 雪野が立ち上がるに合わせて花応が肩に回して手をその下に差し入れ支えてやる。

「好きも何も、その通りッスよね。常に光を浴びるのは、千早さんのような生まれついての能力がある人間ッスよ。なんッスか? 魔法少女って? 究極の才能ッスよ? 自分らみたいなクズは、ヒネて、スネて、ゴネて、無い物ねだりをするだけッス。まともに恵まれ人も見れずに、その光に目を細めるだけッスよ。ああ、自分は生まれつき目が細いッスけどね。これはこれで気に入ってるッス。颯子ちゃん、この目も含めて可愛いッスからね」

 速水がその細い目の奥から目を光らせる。

「あらそう……まったく……古典の授業が台無しだわ……」

 花応に肩を抱えられた雪野が辺りを見回す。

 教室中の机が乱れ、特に天井まで投げ上げられた雪野の周りは教科書やノートが散乱していた。

 教科書もノートも古典のものだった。

なんッスか? 人の話無視ッスか?」

「あらそうって応えたでしょ? てかまずは、古典の先生を……保健室に連れていかない?」

 雪野が黒板の方をアゴで指し示す。雪野の右手は左の脇腹を庇うように押さえられており、その上から左手のヒジも押しつけられていた。

 気丈に話してはいるが両手で押さえないいけない程脇腹が痛むらしい。

 雪野は今自由に動かせるアゴで、教壇前で気絶している男性教師を指し示した。

「古典のセンセーなんて、コテンと倒しとけばいいッスよ」

「笑えない、シャレね……つまんないわ。少しはシェイクスピアを見習えば?」

なんッス?」

 速水のまぶたがぴくりと一つ痙攣するように震える。

「シェイクスピアよ。海外の古典よ……シャレが効いていて、面白いわよ。私の特におすすめはあれね。壮絶な悲恋の話でありながら、会話は結構猥雑で笑える――」

「そんなの訊いてないッスよ。こういう時に、そんなキョーヨー出してくるのが、なんッスかって話ッスよ」

 速水の苛立は更に増したようだ。今度口の端もぴくりと動く。

「あらそう。まあ、長く話をして、息が整うのを待ってたんだけどね」

「おや、大したもんすね」

「ええ、もう自分で立てるわ、ほら」

 雪野は最後のセリフとともに花応から離れた。

「雪野……」

 残された花応は先まで支えていた形のままにやり場のなくなった手を浮かべる。

「大丈夫よ、花応」

 雪野はようやく自分の足で立ち、背筋を伸ばすと当たり一面を見回した。

 雪野に一瞥された生徒達がその視線にびくっと肩をすくませ目をそらす。

「……」

 雪野はその視線に僅かに目を伏せ自分からも視線をそらした。

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